#016:遺憾な(あるいは、暗転)
明るい光を背にしていると、目の前の暗闇の境があまりはっきりしなくなる。それともこれは酔いのせいだろうか? 確かに呼吸のたびに暗闇が膨らんだり萎んだりしているようにも見える。あかん、こりゃ飲み過ぎたわ。
「……アオナギとはもう五、六年の付き合いになる」
そんな静かな酩酊状態で腰かけた姿勢のまま固まっていた僕に、両手に持ったカウンターコーヒーの一方を差し出しつつ、その白スーツ姿の女性がそう切り出す。コンビニ外に据えられたベンチ。店内からの有線がぼんやりと聞こえるくらいの静寂。少し底冷えを感じさせる空気はゆっくりと足元から顎の辺りを撫でて来る。
女性は僕の隣にふわりと座り、そう切り出すのだけれど。
「え? おふたりはそういう関係なんですか?」
間抜けた僕の言葉に軽く首を振ってから、長い息をその整った高い鼻からついた。こうして隣り合わせで間近で見ると、やはりすごい美人だ。切れ長の瞳、鼻筋は自然なカーブながらすっと通り、引き締められた口許は、凛々しさをも感じさせる。クールビューティーと言えばいいのだろうか、モデルでもやっていそうな外見……やはりダメとは結びつかない。
「ライバル……いや戦友といった方がしっくりくるか。草創期を共に戦い抜いた同志だ」
しかしその美麗な女性からは、何というか、見た目とそぐわない言葉がどんどん飛び出してくる。口調も何か重々しくて、これ、ダメ人間にまつわることだよね?
「名前がまだだったか。
で、出た! 倚界のトップ10。てっきりA級にもなるとアオナギや丸男を数段はちゃめちゃにした感じのヒトなんだろうなと思い描いていたが、それは完全に裏切られた。というかダメって一体なんなんだろう。あんまり奥底へと踏み込みたくはないけど、知りたくもある、そんな感じ。
「現況は聞いたか? この業界の」
女性―カワミナミさんの切れ長の瞳に見据えられ、僕は図らずも、どきどきが止まらない。
「アイドルがうんぬんとか……言ってる意味はよく分かりませんでしたが」
「そうだ。いまや客……『審査者』に媚びる奴らが跋扈している。歯止めがかけられないほどに」
視線を落とすカワミナミさんだが、やっぱりこれダメ関連の話ですよね? そんな深刻そうな表情を見せられても。いやもしやもうこれは夢か? 酔っぱらいの見ている夢の中?
「少年。君にこの業界を、そしてアオナギの奴もついでに救ってやってほしいんだ」
夢だよねー。変なカクテル最後に呑んだもんねー。やばいやばい、どうやったら目覚めるんだ? 古典にもほどがある「自分の頬をつねる」をやってみるものの、夢でも痛みって感知することあるからね……結局よくは分からなかった。分かったのは、どの道、尋常ではないってことだけだ。
「私も溜王には出場する。決勝トーナメントにて君らを待つ。上がって来てくれ。願わくば……君らと相まみえたい」
カワミナミさんの言葉も顔も遠くに感じる。僕はとうとう何もかもぼんやりとしてきて、その後の記憶は無
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