村野正臣の手紙

 雨ケ谷洋介さま


 今日も、同じお願いの手紙を書きます。この手紙で百通目、雨ケ谷さまへ手紙を書き始めてからは丸八年もたちましたが、読んでもらえるまで、何通でも、何年でも、一生書き続けようと思っています。

 だから、どうか返事をください。何か一言でも、何も書いてなくても、僕あてに空の封筒を送ってくれるだけでもいいです。それで許されたとは思いません。でも、読んでいるという証拠が欲しいのです。そうしないと気持ちが折れてしまいそうです。

 今月の十九日で、ここに入って十五年がたちました。教誨師の先生や、野洲弁護士、美希子さんたちが面会に来てくれるおかげで、自分で言うのもおかしいかもしれないけど、だんだん正しい人間に生まれ変わっているような気がします。

 前にも何回も書いたように、僕が殺人を犯した理由は馬鹿だったからだと思います。それもとんでもない馬鹿です。人の命を軽く考え、自分以外の人間を虫けらのようにしか思っていませんでした。それは母が僕にとった態度でしたが、言い訳にはならないと思っています。

 雨ケ谷さんは僕のことを失礼なやつだと思っていると思います。だから、返事もしてくれないのだと分かっています。でもそれも自分のせいです。僕は裁判中も、とても失礼な態度でいました。それどころか、御遺族の方々を傷つけるようなことまで言いました。あの頃、僕はああいうことを言うのがかっこいいことだと、本気で信じていたのです。

 けれど、いまは違います。

 刑務所で暮らすうちに、僕は愛とか、人を思いやる気持ちとか、そういう基本的なものを得ることができたんじゃないかと思います。だから、もうあんな恐ろしいことはしません。

 先生たちもいう通り、人間は変われると思います。僕も自分でそう思います。だからこうして罪を償って、僕は新しい人間になりたいと思っています。

 雨ケ谷さまからの御返事を、ずっと待っています。


 20XX年3月13日   村野正臣

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