第183話 映画「ミッドウェイ」エメリッヒ飛びが控えめな保守的作品
エメリッヒ監督と言うと飛行機の飛び方がやたら狭いところや低いところを飛びたがる印象がある。本作でも真珠湾攻撃ではこの傾向が遺憾無く発揮されていた。実機撮影と違いどんな機動も出来てしまう。この辺りは実際に飛行機を飛ばして撮影する事を貫いた「ダンケルク」ノーラン監督の迫力には負けてしまう部分ではある。
作品は真珠湾奇襲から残された空母や巡洋艦・駆逐艦を駆使したマーシャル諸島空襲による最初の反撃、そしてB-25を用いたドゥリットルらによる日本初空襲、珊瑚海海戦、そしてミッドウェイへと話が突き進む。群像劇であり主人公はニミッツ、ハルゼー、第6爆撃隊ベスト大尉、情報部レントン少佐の4名を中心にして描かれる(スプルーアンスですら存在は希薄でフレッチャーに至っては劇中世界には存在しない)。
ミッドウェイ海戦自体が主人公であり登場人物たちはその戦争を描くために仕えている形態は戦争映画ではありがちであり新味はない。
神視点でいろいろな人々を描くのは戦争解釈を示すものになりやすいし実際そうなっている。アメリカにとって太平洋戦争は日本から卑劣な奇襲攻撃によって仕掛けられたものだと言う前提がある。その前提はゆるいでいないし、別に公平な映画でもない。
ただ日本側の描写において冒頭のレントン・山本五十六の会話に見られるように戦争を仕掛けた日本側にも理があるという奇妙な優しさがある。日本の大陸での支配地獲得や資源への願望が出た日中戦争や仏領インドシナ進駐、英国や蘭領植民地に対する執拗な要求と南方資源への願望を考えると本作が示した日本の理とは何かと思ってしまうぐらい日本の仕掛けた戦争に対する謎の「理解」は実に不可解でした。
この種の戦争を扱った映画で新しい視点を作ろうとするのならば群像劇ではなく1人の主人公に視点を据えた方が効果はあると思う。ニミッツやレントンであれば真珠湾の司令部でずっと心配しながら見つめる事になるだろうし、ベスト大尉のような搭乗員であれば戦争の大勢は知らないまま搭乗員の間での会話など通じて命令に従う事で左右される運命に翻弄される姿を描く事になったはず。日本側を含めて多くの視点が描かれた事で焦点がぼやけたように見える。
日本側は山口多聞提督を賢者的視点に置き、南雲提督を司令部全体のあり方を代表した愚者として描かれた。見敵必殺的な攻撃精神は確かに山口提督にあって南雲司令部にはないものだった。ただ南雲提督は水雷畑の人物で航空作戦は部下の参謀の言いなりだった可能性があり彼が主導的な愚者だったのか、部下の操り人形に過ぎなかったのかは本作からは判断が付けられないものなので気になる人は別途調べるべき事なのだろう。
史実関係についてのメモ
・1937年レイトン少佐の日本駐在武官離任パーティーで山本五十六が登場して日本を追い込んでくれるなという。この時期の日米関係は中国での列強機会均等主義に対して日本が独占を目論み始めた時期ではあったが、それよりも海軍軍縮条約を日本が破棄して海軍休日が終わろうとしていた事の方が彼らの会話において影響があったと思われるがその点は触れていない。
・ドゥリットルらのB-25による日本空襲は日本軍部を震撼させた。なおルーズベルト大統領は爆撃機の発進位置については空母部隊の存在を伏せて小説「失われた地平線」の理想郷Shangri-laを持ち出して記者団を煙に巻いた。この結果、戦時下に量産された正規空母エセックス級の一隻がShangri-laと命名されて就役した。
・ミッドウェイ開戦時、米側は2つの任務部隊を編成しておりエンタープライズとホーネットがスプルーアンス提督、ヨークタウンはフレッチャーの指揮下にあったがフレッチャー提督に関しては珊瑚海海戦を含めて一切登場も言及もしない。
・巡洋艦利根の偵察機発進が遅れたエピソードは本作では登場しない。当時の偵察は敵の出現が予測される複数の方位に偵察機を送り出すもので日本海軍の場合、巡洋艦に多くの水上機を搭載させてこの任に当てていた(米海軍は空母艦上攻撃機などで実施)。
・駆逐艦での米搭乗員捕虜殺害は実際にあった事だった。ミッドウェイ海戦においてあまり触れられない事実の一つ。
・リチャード・ベスト大尉が咳き込んで吐血するのは機上酸素発生装置の不具合で苛性ソーダを吸い込んだ事によるものらしい。過去に結核を患っていてその事も影響して悪化。劇中にあったようにミッドウェイ海戦を最後に飛ぶ事はなかったとの事。1944年退役。91歳で亡くなった。
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