第6話 貴公の首は柱に吊るされるのがお似合いだ
*
俺と凛ノ助は捕まる前に放送室から撤退し、旧校舎裏山にある防空壕に身を潜めていた。ここなら生徒会や教師に決してバレることはない。今は亡き俺のひいおばあちゃんに教えて貰った、茂みの中の防空壕は現役生や教師には絶対に知られていない、と断言できる。
そこへ胸に赤いワッペンを付けた前島、後藤両名がチョコレートを運んできた。
「豊作だぞぉおお」「キャッホウ、女の子のチョコレート、チョコレートFOOOOOO!」
共栄党の暴徒から集めてきたチョコレートをここに一時的に貯蔵する。
「まあここまでは順調だな」
俺の言葉に凛ノ助は髪を結わえ、ポニーテールにしながら
「さあ、銀林はどう来るかな」
と答える。
その凛ノ助の問にまるで答えるように学校のチャイムが鳴り、放送が始まった――
「みんな聞け。生徒会代表、銀林修斗だ。チョコレート共栄党と称する社会不適合者たちは暴力に訴え、大義名分を盾に私物の強盗を行っている。生徒会及び風紀委員会としては断じて見過ごすことは出来ない。学校の安全を脅かし、学業を成す妨げとなるものだ」
銀林は持ち前の朗々たる声で力強く宣告を行う。
「俺、銀林修斗の名において、チョコレート共栄党の撲滅を宣言する。やつらを一人残さず叩き潰し、学校に平和と秩序を取り戻す!!」
そして言い切る。
「貴公の首は柱に吊るされるのがお似合いだ!!」
俺は感慨深く、実感した。いよいよ生徒会及び風紀委員会と共栄党の全面戦争が始まろうとしている、と。
*
銀林は放送を終え、準備の為に生徒会室に一旦戻った。そして入り口でそれを発見する。
「私がチョコだよ☆」
生徒会室にて奇妙な、それは奇妙な物だった。まず四輪がついてる白い浴槽。それが生徒会室へと入ってくる。その浴槽の中にはドロッとした茶色い液体。溶かしたチョコレートだ。その中にスク水少女が一人。
月宮だった。長いカールした髪の先っちょがチョコにつきベトベトになってしまっている。そのチョコ浴槽は銀林の方へ進んでいく――否、突進していく。
「銀ちゃん、私を食べて♡」
「うおおっ」
「興奮した?」
「ドン引きしたわ」
対共栄党用の原稿を準備していた黒崎もただ黙っていた。ものすごく関わり合いたくない顔をしている。周りの生徒会員と風紀委員のメンツも何も口にしない。絶対面倒くさいやつだからである。
そんなことお構いなし(というかアウトオブ眼中で絶好調な)月宮はザバッと立ち上がって
「銀ちゃんチューしよ、チュー」
「うお抱きつくな、辞めろ、ベタつくぅぅうう」
浴槽から出て追いかける月宮と逃げ回る銀林。月宮の走り回った後にはベットリとしたチョコが流れる。
銀林はそのまま逃げ切れず普通に月宮に後ろから抱きつかれた。
「うげぇぇぇぇ……」
銀林の上下の制服にチョコがベットリつく。
「銀ちゃん、私から特別なとっておきのプレゼントがもう一つあるよ?」
そのまま月宮がささやく。
「……とっておきのプレゼント?」
いやこれだけで充分なのだが、という不満をかろうじて抑えながら銀林は答えた。
これ、と言って月宮はタブレットを差し出す。
「!」
銀林の表情が変わる。それは共栄党に対して一撃必殺となりえるものだった。
「月宮、これ貰う。お返しは必ず。何でもする。ありがとう」
「どういたしまして~」
月宮は他の誰にも見せたことのないような笑顔でニコっと笑った。
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