第3話 「二回目の勉強会」

血の匂い、汗の匂い、錆びついた鉄パイプの嫌な匂い。



はぁ、はぁ と肩で息をする相手を見つめながらぼんやり考える。あぁ、もうすぐコイツ意識飛ぶだろな。なんか、大したことなかったな。最近、こんなんばっか。



つまらない、心底、つまらない。


…………僕はこの場所が大嫌いだった




✗✗✗✗✗✗



「頼む! なぁ、一時間、いや、三十分でもいいから!」


「可愛い子沢山来るから!」




因みに、これは何かの客引きではない。


俺の友人がまた、思いつきで行動しているだけだ。



この友人は、朝っぱらから勉強会とやらに、俺を必死に誘ってくる。理由は……、聞いて呆れるような内容。「女子目当て」だ。



「この間、勉強会したばっかだろ?」



「いやー、それが結構好評でさ!また、やろう。って話になったんだ。んで、十人でやる話が一人来れなくなっちまって……」




「絶対、後一人連れてくるからって言っちまったんだよ!」



「言っちまったんだよ!じゃねぇよ。出来ない約束してくんな。」



「なぁ、頼むよー。来てくれよー、優」



さっきから、ずっとこれだ。いい加減疲れてきた。今日、何度目か分からない溜め息をつく。大体、このバカ也は顔が広いし、ノリもいいから他に誘える奴はいくらでもいるはずだ。



普段なら、これだけ頼まれればOKするが、今回はそうはいかない。なにせ、勉強会のメンバーには彼女がいる。


兎に角、お調子者が何度言っても断ろうと口を開けた瞬間、今一番来てほしくない人物が話しかけてきた。




「賢也くんどうしたの?さっきから、ずっと騒いで」


と見計らったかのようなタイミングで問う。




「実はな、愛さん!」クラス一の美少女に話しかけられてテンションが上がったのか、意気揚々と説明しだす賢也。



「なるほどね、それで!」



俺がクラスで唯一嫌いな女子、水城愛。


しかし、彼女は、学校内の殆どの人間に慕われている。つまり、ここで嫌な顔をすれば、学校内の殆どの生徒を敵に回すことになる。




俺は慎重に言葉を選びながら答える。




「大事な用事があってさ。どうしても参加は無理なんだ」




本心を上手く隠すように、実際、用事があるのは本当だし、嘘は本当のことを言いながらつくとバレにくい。と誰かが言っていたことを思い出しながら。




俺の嘘は、結構上手かったみたいで、お調子者も、彼女も納得し話は流れ、そのまま朝のホームルームが始まった。




午前の授業は、食欲と戦い、午後は睡魔と戦った俺は、いつものように、そそくさと教室を出て行こうとした……のだが、誰かに制服の端を掴まれ引き止められた。なんか、前もこんなことあったなと考えながら振り返ると、想像とは違う人間がそこには立っていた。






「優くん。いや、構成ナンバー3と呼ぶべきかな?」




普段とは、別人のような冷たい雰囲気を纏った彼女が、業務の様に、いや、本当に業務連絡だろうが、無機質に話す。




「君に新しい仕事だよ。普段は、君の携帯に直接依頼しているが、今回は依頼者が訳ありらしく、君に直接伝えろと指示があった。」




すれ違いざまに淡々と説明したと思ったら、いつものトーンに声を変え彼女は笑う。



「そういうことだから、よろしくね。優くん!」



そのまま、帰っていく彼女を見つめながら、心の底から俺は彼女を好きになれないと思った。



✗✗✗✗✗✗


「お前……、また、ここにいたのか」



低音で落ち着いた声が部屋に反響する。

僕は、ゆっくりと声のする方に顔を向けた。



「じいさん、来てたんだ?」


「その爺さんと呼ぶのはやめろと何度も言ってるだろう、ちゃんとリーダーと呼べ」



「はい、はい、リーダー」


適当に呼べば、じいさんはヤレヤレと言う様に首を振った。じいさんと言う呼び名がピッタリだと感じるくらい年寄り臭い動きをする。実年齢は40半ばくらいだというのに。



「お前、いつもつまらなそうだな。そいつ、意識飛んでるじゃないか……」


「また、力加減を誤ったか?」

顔を顰めるじいさんの声がどことなく影を帯びたように、寂しそうに聞こえる。


「別に……」



「はぁ……。お前なぁ、いくら国家に認められた構成員でも、お前に殴られたら人溜まりもないだろう?」



「じいさんも、知ってるだろ。俺は分からないんだ。」

「痛みも、苦しみも……」



「お前……」



「お前じゃないよ。」







「賢也だ、リーダー」

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