第54話.刀
リルさんにアドバイスしてから2日後、30名の大工さんと10名の兵士たちがやってきた。
この人達には道の整備や家を建設、警備をしてもらう。
特に冒険者ギルドと、商会を作って貰わなければならない。
この2つがあれば、人も集まりやすくなるだろう。
そして、街にはエリアを設けようと思っている。
例えば北半分は農業&俺のエリア、南半分は商業エリア、という風にだ。
元々のマラアイ村の住人は、東から北の間に住んでいるので丁度良いと思う。
人数が増えたことで、今まで家の建設を手伝ってもらった鍛冶職人のエイグル達も、自分の仕事に戻ってもらうことが出来るようになった。
だが人が増えた分、宿屋は大忙しだ。
宿屋は、飲食店としても営業している。
だから、大工や兵士達が飯どきになると一斉にやって来る。
今のところ、宿屋というよりは、飲食店がメインになっているが仕方がない。
俺はこの二日間の間で、砂鉄を探しに行っていた。
エイグルに刀の作り方を教えるため、その準備である。
刀は剣と違い砂鉄から作っている。
砂鉄は海の砂浜などを探せば見つかるが、それだと量が少ないため刀を作ることはできない。
そのため、火山が近くにある山を探すのが一番早い。
砂鉄の元は、磁鉄石と呼ばれるかたい石のようなものからできている。
磁鉄鉱は、火山から飛び出した溶岩が固まってできた岩の中に入っており、それが長い年月によって削れ、川などに流れた結果、砂浜に集まるのである。
火成岩の中に普通に含まれているそうだから、簡単に見つけられるだろうけど、それが確実に磁鉄石だと分かるには、やはり磁石は必要だろう。
磁石の作り方は簡単である。
四角い鉄状の物に銅線を巻き付けてコイルを作り、その中に鉄を入れて強い電流を流すと、磁石を作ることが出来る。
砂鉄は、簡単に見つかったが、砂鉄から取れる純度の高い鉄は非常に少ないので、大量の砂鉄が必要のため集めるのが大変だった。
また、精製に必要な道具も一式揃えたので、これで刀作りが出来る。
「それでは、これから刀作りのアドバイスをしたいと思います。」
鍛冶屋の前で、エイグルとサポート役2名の奴隷と話している。
エイグルは奴隷商人の所で買ったドワーフで、刀を作ろうとしていたと聞き購入した。
この世界では剣が主流なので、刀は無かったから――どっかの国にはあるかもしれないが――誰かに作らせたかったのだ。
「刀を作るときは、材料を変えないといけません。」
「材料ですか?」
「そうです。砂鉄を使います。」
「砂鉄とはなんですか?」
「鉄鉱石とは違う鉄ですね。これです。」
そういって、バッグの中から包んでおいた砂鉄を取り出す。
「これが鉄なんですかい?砂みたいですが。」
「これを木炭を使って低温で溶かすと、純度の高い鉄が作れるのです。それを使えば、良い刀が作れるはずです。」
鉄鉱石もそうだが、砂鉄の中にも鉄以外に、リンなどの不純物が含まれている。
しかし、鉄の方が融点が高いため、低温で溶かすと不純物は溶けるが、鉄は固体として残るのだ。
通常は、高温で一気に溶かすやり方なので、不純物も混じってしまい脆くなってしまう。
「そんな方法があったとは……」
「必要な道具は揃えておいたので、今すぐにでも作ることは可能です。」
「なら、今すぐやりましょう。」
準備しておいた、ドラム缶状の物をバッグから取り出す。
このドラム缶の内側には、粘土が回りにくっ付けている。
これは、低温とはいってもかなりの温度なので、その温度からドラム缶を守るためにくっ付けているのだ。
また、ドラム缶の下側には穴を開けている。
これは、不純物が溶けたものを取り出す為のものであり、今は粘土で塞いでいる。
そして、そこから少し上にも風を送るための穴を何ヵ所か開けている。
一般的には、釜を作っていろいろしないといけないのだが、こっちの方が早く用意できるので、こっちにした。
まあ、理論的にはこっちでも大丈夫だと思うのだが、やってみなければわからない。
まず、ドラム缶の中に木炭を入れて満杯にし、火をつけて温度をあげる。
風を送る用の穴には、中が空洞の丸い棒を刺し、棒の先端の周りには粘土をくっ付けることで、空気が外に漏れることを防いでいる。
そして、数時間後に砂鉄を数百gずつ入れ、30分置きにまた入れていく。
それを繰り返すと、次第に下の方に不純物が溜まってくる。
これを放っておくと、風を送る為の穴があるところまで届いてしまい、風が送れないので、ある程度溜まったら塞いでおいた粘土を壊し、穴を開けて不純物を外に流す。
すると中には、純度の高い鉄の塊が出来てくるのだ。
こうして出来上がった鉄が、刀の材料となるのだ。
本当なら、温度や溶け具合の状況によって、砂鉄を入れるタイミングとかを見極めなければいけないのだろうけど、素人なのでそこは仕方がない。
エイグルが作る内に、実験していって良い物を作ってくれればそれで良い。
「おお!これは、良い鉄ですな!」
「ええ、これを使ってください。砂鉄は、俺が暇を見つけて取りに行きますので。」
そして、刀を作る際に積み沸かしや折り返し、作り込みや土塗りという日本刀を作るときの技法を教えたので、後はエイグルさんやり方で作って貰おう。
最初から上手く作れるとは思ってないので、何度か実験をして良い刀を作って貰えれば良い。
それに、この世界では、魔物の牙や爪を武器の材料にすることも有るようだし、作り方も変わってくるだろう。
てか、上級の魔物になってくると、硬い皮膚に遮られ鉄の刀では斬ることが出来なかもしれないし、鉄で感覚を掴めたら他の素材で作ってほしいものだ。
これで、刀に関しては終了だ。
さて、次にすることなのだが……各街に、この街では出店税はなく申請すれば誰でも店を出せ、税は利益の1割から徴収するというのを情報屋に広めて貰わなければならない。
だが、こんな店一つない街に来てくれる保証がない。
なぜなら、税が安いとはいえ何もないこの街で儲けられるか分からないからだ。
まあ、まだこれはいいか。
もし、急にたくさん来られた時、家が足りないだろうし。
1か月後ぐらいに広めればいいか。
それと教育をどうするかを考えないとないけない。
大抵の商人は、四則演算ができない。
出来るのは、数字を書くのと数えるのだけ。
教育を受けていないのだから、当たり前だ。
計算が出来るのは、一部の金持ち商人だけだ。
では、大勢の商人がどうやって利益が出たか知っているかというと、単純に数えているのだ。
1日目には、銀貨1枚あって、月の最後には銀貨5枚あったから、数えると4枚増えてるという風に計算している。
また、帳簿はつけさせているようだが、左が減った分を書いて、右は増えた分を書くという認識しかない。
そして、この日はいくら使って、いくら売れたのかを数えて記帳し、半年に一度商会に提出することで、いくら税金を納めれば良いのかが分かるのだ。
もし、悪どい商会なら、計算できないのを良いことに、通常より多く請求している商会もあるかもしれない。
それでもやっていけないことは無いのだろうが、計算が出来た方が、自分が税気をいくら払えば良いのかわかるし、金額を数えなくても直ぐに分かる。
最低でも四則演算さえ出来てくれれば、俺の管轄が書類を見て、「あなたはいくらです」などと計算して示してやる必要もないため、こっちの負担も減る。
でも、教えるとなると、人も雇う必要が有るし施設もいる。
無料で教えることができれば良いが、行政が上手くいくか分からない今、それをするのは厳しいだろう。
取り敢えずは、教育は後回しにするか。
その日の夕方、1人の商人が冒険者を連れてやってきた。
多分、通りすがりだと思う。
「こんなところに、街が出来ているとは初めて知りましたよ。」
「最近出来ましたのです。宿屋もございますので、休んでいってください。」
「それは、ありがたい。野宿を覚悟してましたからな。」
宿屋にとっては、初めての客である。
今までは、飲食店がメインだったので、まだ客は誰も宿泊したことがなかったのだ。
でも、お客の反応も上場でかなり満足してくれたようなので良かった。。
これからこういった人が、どんどん来てくれれば良いな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます