第42話

☆☆☆


 目の前には宝箱がある。

 赤い布で覆われた、小さな箱。鍵穴に差し込むべき鍵は宝箱の中だ。

 宝箱を顔の上へと持っていき、下から鍵穴を覗いて軽く振ってみる。

 箱の大きさのわりに中の鍵は長く、やっぱりうまいことはまってはくれない。

 一度宝箱を置いて、さて……どうしたものかと作戦を練る。

 まずは正攻法。荷物の中から耳かきを取り出す。レトロな金属製で先がスプーンみたいになっているタイプのものだ。

 今では振動で張りついた耳垢を落とし、綿みたいのでそれを掻き出すタイプのものが主流になっていたが、僕は何かと昔の物語に出てくるようなレトロなものが好きなのでこれを愛用していた。

 鍵穴に耳かきを通して、中の鍵を掻き出してみるがうまくいかない。

 五分ほど試行錯誤を繰り返した結果、耳かきは諦めた。

 もう一度荷物の中に他に使えそうなものがないかを考えるが、なかなか思い当たらない。だからとりあえず地面の上に荷物を全部ひっくり返してみた。

 その中に使えそうなものがないか考える。

 まず目についたのは缶切り。

 缶切りを使えば宝箱を破壊できるかもしれない。しかしそういう力技は好ましくない。どうせならスマートに開けたい。

 そうなると缶切りは役に立ちそうにない。他を当たることにする。

 しかしなかなかピンとくるものがない。

 着替えの服、料理の道具、はさみ、カッター、筆記用具、いろいろな医薬品の入った薬箱。

 どれもピンとこない。

 何かいいものが入っていないかと薬箱を開けてみる。

 中に簡単なソーイングセットをみつけた。それを見てピンときた。これは使えるかもしれない。

 昔の物語ではよく安全ピンなどで鍵を開ける描写がある。安全ピンは入っていないが、縫い針で代用はできないだろうか……

 挑戦してみる。

 針を中に押し込んで、鍵穴を弄ってみた。

 しかしよく考えてみると、針をどう使って鍵を開けるのかを僕は知らない。

 それでも見様見まねでカチャカチャとやってみる。

 やっぱり開かない。

 諦めて針をしまおうとしたとき、不意にいい方法が思いついた。

 僕が漫画やアニメのキャラクターだったら、頭の上で電球がピカッと光っていたに違いない。それくらいにいい考えが浮かんだ。

 まずソーイングセットの中から糸を取り出して、適当な長さに切る。そして普通に縛るようにして輪を作るが、きゅっと引っ張って締めてしまわないで輪を広げたまま、針を使って鍵穴の中に押し込んでいく。

 その次は暗い鍵穴の中をライトで照らしながら、耳かきを使って糸の輪の中へと鍵を誘い込む。

 苦戦はしたが何とか通すことに成功。そうしたら両手で糸の先を引っ張る。すると糸が鍵をしっかり縛り上げてくれる。

 だから後はその糸を引っ張れば……

 想像していたみたいに一発ですんなりにとは決まらなかったが、それでも遂に成功した。鍵が鍵穴にはまった。

 少しだけ外に飛び出している鍵を回す。

 カチリと音を立てて宝箱の上の部分が少しだけ浮かび上がった。

 僕は一度宝箱を地面の上に置くと、大きく息を吸って、ゆっくりと吐く。息を整えて、ゴクリと生唾を飲んでから、少しずつ慎重に宝箱を開いた。

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