第29話

☆☆


 一人は嫌だった。

 一人でいることが寂しかった。

 でも……私は全てだった。私だけだった。私以外なんていなかった。みんなが私だった。

 だから私はたった一人。どうしようもなく一人ぼっちだった。

 しかし彼だけは違った。

 彼は私たちの枠組みからこぼれ落ちてしまった欠片。

 彼は私ではなった。

 だから私は彼と友達になることができた。

 だから私は彼を好きになることができた。

 以前の私は一人は嫌だった。

 一人でいることが寂しかった。

 でも今は違う。

 彼がいないことが嫌だった。

 彼がいないことが寂しかった。

 だから想う。

 彼のことを想う。

 他にするべきことも、したいこともない。

 だから、ただ彼のことを想う。

 彼と過ごした過去の思い出にすがる。

 素晴らしい日々だった。

 毎日が太陽の光を浴びた宝石みたいにきらきらと輝いていた。

 彼と過ごす時間は楽しくて、彼と別れた後も明日を想うだけで幸せになることができた。

 そんな日々を思い出す。彼と出会った最初のときから順に想い、巡っていく。

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