第6話『一休みしにきた宇宙人・1』

クリーチャー瑠衣・6

『一休みしにきた宇宙人・1』



 Creature:[名]1創造されたもの,(神の)被造物.2 生命のあるもの 



「ちょっと一休みさせてもらってるよ」


 朝、ベッドで惰眠をむさぼっていると声がした。



――……だれ?――



 心で聞いてみた。まだ頭は半分眠った状態なので、ほとんど夢のように思っていた。

「ちょっとでいいから、目を覚ましてくれると嬉しいんだけど……最後の日の加藤瑠衣さん?」

 自分の名前を呼ばれたことと「最後の日」という言葉にびっくりして本格的に目が覚めた。

「最後の日ってどういう意味? て、なんであたしの名前知ってんの?」


 部屋には人の気配はしなかった。かといって誰かがテレキネシスで送り込んできた想念でもなかった。


「……だれ? どこにいるの?」

 瑠衣は、すでに起きて掃除機をかけているお母さんに聞こえないように聞いてみた。

「机の上の本立ての上のさらに上の棚の上」

 そこは、捨てる決心がつかないというか、整理し損ねたというか、瑠衣のガラクタがまとめて無秩序に積んであった。ガラクタの一つ一つに目をやったが、これだというものが見当たらなかった。


「ハハ、ここだって、ここ」


 その声でやっと気づいた。ガラクタ箱の間に挟まった人形から、その声がしている。むろん口も体も動いてはいない。瑠衣の特殊な能力で、やっと感じられるくらいに、例えば耳から外したイヤホンから聞こえてくるほどにか細かった。

 その人形は、中二のときにはじめてネット通販で買った「乃木坂学院高校の制服」を着たコスプレドールだった。

 瑠衣は中学の頃は乃木坂学院に入りたかった。『はるか 乃木坂学院演劇部物語』という小説を読んで「ここだ!」と思った。体験入学にも行ってみた。気にいった……でも二つのことが足りなかった。


 お金と成績……お母さんに、そうそう無理は言えない。奨学金という手もあったけど、成績に自信がなかった。留年したら奨学金は打ち切られる。見かけによらず気弱な瑠衣は体験学習で諦めた。


 それから、しばらくして世田谷の我楽多市で、乃木坂の制服を着た人形を見つけて衝動買いした。

 最初は、そうは思わなかったけど、傍に置いておくと、なんとなく自分に似てきた……ように思えた。

 それにお母さんが心苦しく思うんじゃないかと思って、半月ほどでガラクタの棚の上にやって、それっきり忘れていた。


「でも、瑠衣の想いがこもっているんだよね」

 人形は、器用に棚からジャンプして、ベッドの上にやってきた。

「ちょっと、埃だらけじゃんよ!」

「ああ、ごめんごめん」

 人形は、水に落ちた猫が体を震わせて水を弾き飛ばすようにしてホコリを振り落した。

「ちょ、ちょっと!」

「ごめん。でも、こんなに埃だらけにしたのは瑠衣なんだからね」

 自分によく似た人形が口をとがらせて抗議した。


「で、あんた誰なの?」


 瑠衣は直感で感じていた。この人形には別の心と言うか魂というかが憑りついていることを。

「あたし、お父さんと同じシータ星人……ただし、体は、もう動かないから、心だけ、この人形に宿っているの。少しの間休ませてくれる?」

「お父さんと同じ……シータ星人!?」

「そう、名前はミュー。瑠衣が目覚めるまで起きてたから眠い。ちょっと寝させてね」

 そう言うとミューは、本当に目をつぶって眠ってしまった。

「いつまで寝てんのよ!?」


 お母さんに起こされるまで瑠衣も眠ってしまった……。

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