第23話:機動要塞の脅威⑥

【sideカズマ】


召喚陣を壊した後、残ったモンスター達も全滅させ(ちなみにその内の6割をみんちゃすが狩った)、いよいよ現れた建物に乗り込むときが来た。

「おらっ!この中にいるんだろ!開けろ!このドア、ハンマーで叩っ壊すぞ!」

「出て来い!街を襲った責任者出て来い!焼きいれてやるっ!」

ヤミ金の取り立てよろしく数名の冒険者が罵声と共に、この要塞を乗っ取ったと言われている研究者が立て篭もっているとされる建物のドアをこじ開けようとしていた。

「さっきまでパニクってた癖に現金な奴等だなアイツら……」 

俺が肩を貸して支えているみんちゃすが呆れたように呟く。ここまで一騎当千の活躍を見せたみんちゃすも、流石にもう魔力も体力も限界のようだ。

……ちなみにウィズ曰くあの召喚陣を壊すのに大火力技など必要なく、みんちゃすのパワーならグーパンチ一発で破壊できたそうな。よしんばあの召喚陣か頑丈でもアクアに打ち消してもらえば良かっただろうに、一時のテンションで生命力大幅に削って大技ぶっ放すとか、後先考えないにも程があるだろこの行き当たりばったり魔法使い……。

「開いたぞーっ!」

砦の様な建物のドアを冒険者達がハンマーで叩き壊し、そのままぞろぞろと建物の中に突入していく。パーティ編成もクソも無く次々と中に突入していく彼らに、俺達も後ろから付いていく。

中には何体ものゴーレムが居た様だが、それらが実に効率的に破壊されていた。普段はまとまりが無いくせに、団結した冒険者ほど恐ろしい物は無いな……みんちゃすとかそういう理不尽みたいな規格外は置いといて。

俺達が建物の奥につくと、ある部屋の前で人だかりが出来ていた。その人だかりは皆一様に沈んだ表情を見せ、さっきまでの薬キメたかのようなテンションはどこへ消えたのかと言う感じだ。

「……おっ、カズマ。良い所に来たな。……見ろよ、これを」

そう言ってきたのは部屋の中央にいた、なんだか寂しげな浮かない表情のテイラーが、あるものを指差していた。


……あるものとは、白骨化した人の骨。


この機動要塞を乗っ取った研究者は、ゴーレムに囲まれたこの要塞内で、寂しげに部屋の中央の椅子に腰かけていた。

俺はアクアを部屋に招き無言で骨を指差すと、アクアは静かに首を振った。

「すでに成仏してるわね。アンデッド化どころか、未練の欠片もないぐらいにそれはもうスッキリと」

………………スッキリと?

「いや未練ぐらいあるだろ。これ、どう考えても一人寂しく死んでった、みたいな……」

その俺の言葉に、アクアが何かを見つけた様だ。それは机の上に乱雑に積まれた書類に埋もれた、一冊の手記。

アクアがそれを手に取ると、皆空気を察して押し黙った。

冒険者達が見守る中、アクアが手記を読み上げる……。


「○月×日。国のお偉いさんが無茶言い出した。こんな予算で機動兵器を作れと言う。無茶だ。それを抗議しても聞く耳持たない。泣いて謝ったり拝み倒してみたが、ダメだった。辞めさせて下さいと言っても辞職願いを受理されない。バカになったフリをしてパンツ一枚で走り回ってみたが、女性研究者に早くそれも脱げよと言われた。この国はもうダメかも知れない……。三ツ目の愉快犯はいつも通り、ムカつく程優雅に紅茶を啜りながらけらけらと笑っていて非常にムカつくああ忌々しい」

思わず、皆の視線が白骨化した骨に集まった。……みんちゃすだけは何故か顔を強張らせていたが。

「○月×日。設計図の期限が今日までだ。どうしよう、まだ白紙ですとか今更言えない。だってヤケクソになって、貰った報酬の前金、もう全部飲んじゃった。どうしようと白紙の設計図を前に悩んでいると、突然紙の上に俺の嫌いなクモが出た。悲鳴を上げながら手近にあった物で叩き潰した。叩き潰してしまった。用紙の上に。……このご時勢、こんなに上質な紙は大変高価なのに、弁償しろとか言われても金が無い。あの無駄にチートスペックな三ツ目野郎になんとかしてもらおうとも考えたが、もう深夜だしあいつの家遠いし非常にめんどくさい……知るか。もうこのまま出しちまえ」


…………えっと。


微妙な空気になってきた中、アクアが尚も手記を読む。なんかみんちゃすがそわそわしているが、どうしたんだろうか?

「○月×日。あの設計図が予想外の好評だ。それクモ叩いた汁ですけど、そんな物よく触れますねなんて絶対言えない。ていうかドンドン計画が進んでる。どうしよう、俺のやった事って、クモを一匹退治しただけですよ?……でも、こんな俺が所長ですひゃっほう。三ツ目は無駄に頭良いから察しているだろうが、あいつは骨の髄まで愉快犯そのものなので、告げ口される心配もないしな。その証拠に例の設計図を絶賛している研究者達を遠巻きに見ながら、口もとに手を当てて吹き出しそうになるのを必死に堪えてたし」

アクアが適当に作ってるんじゃないだろうなと疑いたくなったが、読み上げるアクアはいたって真剣な表情だ……みんちゃすのそわつきがどんどん激しくなっている。

「○月×日。俺何もしてないのにどんどん勝手に出来ていく。これ、俺いらなかったじゃん。何なの?もういいや、勝手にしてくれ。俺は俺らしく好きに生きる。……なんか動力源をどうこう言われたけど知るか。俺最初から無理って言ったじゃん。そんなの、永遠に燃え続けるだの無限のエネルギーを秘めているだの言われている超レア鉱石、コロナタイトでも持って来いと言ってやった。言ってやった言ってやったざまあみろー!やーいやーい!持って来れるもんなら持って来いバーカバーカ!」


…………。


「○月×日。


三つ目ェェェエエエエエ!?


なんで持って来ちゃうの!?空気読めよテメェェエエエ!?

何が『コロナタイトを所望しているそうだな。ちょうど大分前に【賢者の石】精製に集めたものが余っていたので貴様に恵んでやろう。泣いて感謝するがいい』だよ!?しねーよバカ野郎!お前の大分前って、それ何十年前だよ!?いや何百か!?そんな大昔にした錬金術の材料の余りなんか後生大事に取っとくんじゃねぇよ主婦かお前は!

……なんか部下共が動力炉に設置を始めたし、どうしよう。マジでどうしよう、持って来れる訳無いと思って適当に言ったのに、空気読めないバカが持って来ちゃった。これで動かなかったらどうすんだ。俺どうなるんだ。えっ、もしかして死刑? これで動かなかったら死刑じゃないの?……動いてください、お願いします!」

みんちゃすの顔から嫌な汗が浮き出始めた。もしかしてこいつ、やっぱさっきまで相当無理をしていたんじゃあ……。

「○月×日。明日が機動実験と言われたが、正直俺何にもしてねえ。やったのはクモ叩いただけ。この椅子にふんぞり返っていられるのも今日までか……。そう思うと、無性に腹が立ってきた。もういい、飲もう。今日は最後の晩餐だ。思いっきり飲もう!機動兵器の中には、今日は誰も残っていない。どんだけ飲んでバカ騒ぎしても、咎められる事は無いだろう。とりあえず、一番高い酒から飲んでいこう!……そうだ!せっかくだからあの、一から十まで事情を全部知ってるくせに要らんことしかしない三つ目野郎も呼び出して、酒の勢いで説教でもしてやる!不老不死だか最強の魔法使いだか知らねーが、妙ちきりんな名前してる中二病のくせに!ノリと思いつきで人の命を弄びやがってあの野郎、死ぬ前に一言文句言わないと俺の気が済まねぇ!」

俺達の視線が気になるのか、アクアが手記を読み上げながら俺達の視線に軽く怯えている。みんちゃすは俺の肩から手を放すと、こめかみに手を添えてその場に座り込んだ。

「○月×日。目が覚めたら、なんか酷い揺れだった。……何だろうこれ、俺どれだけ飲んだっけ。昨日の記憶がほぼ無い。あるのは三ツ目に酒の勢いであれこれ説教したり、溜まった不満をあらかたぶちまけたり、勢い余って何もかもぶっ壊してやりたいと叫んだ所までしか覚えてない」

読み上げながら、アクアはこちらには目を向けなくなり、

「○月×日。機動兵器内部で三ツ目の書き置きを発見し現状を把握、そして絶望。

どうやら俺が酔い潰れた後、三ツ目がコロナタイトをエネルギー源に色々と術式を組み、この機動兵器を完成させ、そして現在それが稼働しているとのこと。

俺は息を深く深く吸い込んでから、今度は心の中ではなく現実で絶叫。



三ツ目ェェェェェエエエエエエエ!?



ほんとアイツは何から何までロクなことしねぇよ!何が『貴様のお望み通り全てを破壊できるようにしてやったぞ。泣いて感謝するがいい』だよ!?だからしねぇっつってるだろバカか!?酒の勢いだってわかるだろ普通に考えたら!あ、でもアイツこれっぽっちも普通じゃなかったな畜生!

……というかこれ止め方わからないし、そもそも降りられないし……どうしよう、これ間違いなく俺がやったと思われてる。俺、絶対指名手配されてるよ。今更泣いて謝ったって許してもらえないだろうな……やだな……。このまま機動兵器ぶっ壊されて、引きずりおろされて死刑だろうか。……畜生、国のお偉いさんも国王も、俺のパンツ脱がして鼻で笑った女研究者も、全ての現況である中二病三ツ目野郎も、みんなみんなクソッタレだ!やっぱりこんな国滅んじゃえばいいのに。もういい、酒飲んで寝よう。幸い食料と酒には困らない。寝て起きてから考えよう……」


…………やがて、誰ともなく拳を握る。


「○月×日。国滅んだ。やべえ、滅んだよ、滅んじゃったよ!この機動兵器笑えるほど強いんですけど!魔法を遮断する結界とかとかレーザー弾幕とか、あの三ツ目どんだけガチで作ったの!?こんなもん魔王でもどうにもできないし……つーかそもそもなんでアイツ、こんなもん片手間で作れるのに魔王討伐にいかねーの!?

……まあいいや!国民とかお偉いさんとか、人はみんな逃げたみたいだけど……俺、国滅ぼしちゃった。ヤバイ、何かスカッとした!満足だ。俺、もう満足。

ありがとう三ツ目!前言撤回、物凄く感謝してるわマジで!中二病とか変な名前とか思っててごめん!

よし、決めた。もうこの機動兵器から降りずに、ここで余生を暮らすとしよう。だって降りれないしな(笑)止められないしな(笑)

これ作った奴、絶対バカだろ(笑)


……おっと、最終的に仕上げたのは三つ目だけど、責任者は俺でした(爆)」


…………。


最後まで読み上げたのだろう。

困った顔で、アクアが言った。

「……終わり」

「「「なめんな!!」」」

アクアとウィズ、みんちゃす以外が見事にハモった。

すると、今の今まで色々と挙動不審だったみんちゃすが、真顔で立ち上がる。

「……なあアクア。その日記帳、ちゃっと貸してくれねーか」

「? いいけど」

アクアから日記帳を受け取ったみんちゃすは、


「おぉっと手が滑ったぁぁあああっ!」


いきなり両手から炎を出して日記帳を丸焦げに……って何してんだこいつ!?

「何やってんだよみんちゃす!?というか手が滑ったって言ってるのに、なんで属性付与魔法が!?」

「すまん、これは完全に俺の過失だ。この通り反省してるから、どうか許してくれ」

俺の目を真っ直ぐに見つめ、やたらと真摯に謝罪してくるみんちゃすに、思わず俺は気圧される。

「べ、別に構わないが……」

まあ、あんな適当な奴の日記が燃えたところで誰も困らないだろうが……とうしたんだこいつ?

「あ、あの、みんちゃすさん……度々出てきた『三ツ目』って、もしかしてみんちゃすさんの-」

「オイやめろウィズ。それ以上食い下がると、俺の紅魔爆焔覇がコロナタイトにぶち込まれることになるぞ」

「ひっ……!わ、わかりました……」


マジでどうしちまったんだよみんちゃす!?

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