第9話:紅と蒼の瞳⑨

【sideめぐみん】


翌日。猫のクセにやたらと肩に引っついてくる人懐っこいクロを連れて、教室に入ったのだが……みんちゃすが既に机に突っ伏して爆睡モードに入っているのはいつものこととして……。

「あ、めぐみんおはよう。……クロちゃんもおはよう」

いつもは私を見かけるなり嬉々として勝負を挑んでくるゆんゆんが、なぜか普通に挨拶してきた。

「おはようございます。……どうしたんですか?いつもは私の顔を見ると、まるで野盗か山賊のごとく必ず喧嘩を売ってくるクセに」

「私、そこまで無法者だった!?いや、まあ間違ってはいないけどさ……も、もうちょっとこう、言い方を……。ライバル同士の勝負、とか……」

もにょもにょ言うゆんゆんの傍に、二人組が近づいて来た。紅魔族地味ッ子ペアふにふらとどどんこ(命名みんちゃす)だ。

「ゆんゆんおはよう!昨日はありがとね!助かったあー!やっぱ、持つべきものは友達だよね!」

「そうそう、ありがとね!さすがゆんゆん!」

「あ、その……。わ、私も、友達の助けになったのならよかったよ……!」

ゆんゆんがパアッと顔を輝かせ、笑みを浮かべた。


 ……なにがあったんだろう?


「よーし、お前ら席に着けー!では、出欠を取る!」

ゆんゆんに聞こうか聞くまいか迷っていると、担任が来てしまった。


 

 



出欠を取り終えた担任が、魔法の詠唱文を黒板につらつらと書いていく。

魔法を習得するには、ただスキルポイントを貯めればいいというわけではなく、習得したい魔法の詠唱を全て覚えなければならない。そして魔法が少なく詠唱の必要もない初級魔法とは違い、上級魔法の習得にはそれなりに手間が掛かる。

が、首席の私は(覚える必要の無いものが大半だが)既に全魔法の詠唱を丸暗記してしまっている。そしてそれは私の隣で退屈そうにしている、成績永遠の二番手であるゆんゆんも同じらしい。……ちなみにみんちゃすはテレポートと近接戦闘に関係する魔法以外は覚える気すら無いらしく、現在も机に寝転んで実に幸せそうな表情で眠っている。

首席の沽券に関わるので流石にみんちゃすのように傍若無人には振る舞えないが、暇を持て余した私はゆんゆんにちょっかいを掛ける事にした。


『ふにふら達と、昨日何かあったのですか?』


ノートの切れ端にそんな事を書き、それを丸めてゆんゆんの机の上に飛ばしてやる。

ゆんゆんがそれに気がつき、私からのメモを読むと……。


『友達同士の秘密な事だから、ライバルのめぐみんには言えない』


そんな返事が書かれたメモを、私の机の上に転がしてきた。


 …………凄く、イラッときた。


『万年ぼっちだった子が、友達ができて一日二日経っただけで、随分大きく出ましたね』


そんなメモを送ってやると、


『めぐみんだって、なんだかんだ言って結構ぼっちじゃない』


そんな返事が転がってきた。ゆんゆんの方をチラッと見ると、こちらを見て勝ち誇った様にニマニマしている。


 ………………。


『新しい友達ができたから……。……それで、私に勝負を挑まなくなったんですね?ゆんゆんに友達ができて嬉しい反面、寂しいですね……』


『ちょっと待って、ごめん、ごめんね?別にそんなつもりで勝負を挑まなくなったんじゃないから!単に、昨日色々あったからそんな気分じゃなかっただけで……!』


『いいんです、いいんですよ、私の事は。でもなんだかんだ言って、毎朝のゆんゆんとの勝負、結構楽しみにしてたんですよ?お弁当的な意味だけではなく』


『違うから!本当に!本当に、違うから!私もめぐみんとの勝負が楽しみで、毎日お弁当作るのも楽しみで……!』


『……そう言ってくれるだけで十分です。私達、きっとライバル同士でさえなければ、いい友人になれたと思いますよ?』


 …………。


私がそこまで書いて送ったところで、ゆんゆんの返事が止まった。ゆんゆんの方をチラ見すると、真っ赤な顔で何かを書きかけて固まっている。遠目でなんとなくゆんゆんの手元を見ると、


『いつか、めぐみんと……友』


そこまで書いたところで止まっていた。そんなゆんゆんの様子を見て、私はある事を書いたメモを丸め、固まっているゆんゆんの視界に入る様にペシと飛ばす。目の前に転がってきたそれを見て、赤い顔で固まっていたゆんゆんがハッと顔を上げた。なんだか期待が入り混じった様な顔で目を潤ませながら、飛ばしたメモを開き……!






『……とでも言うと思ったか?ヴァカめ!友達ができてもぼっち気質なのは変わりませんね(笑)』


紙を見て椅子を蹴って立ち上がったゆんゆんが、泣きながら襲い掛かってきた。


「オメーらうるせーよ!?人様の安眠妨害とはどういう了見だバカヤロー!」

「どういう了見もバカヤローもお前だよ!?うるさいのは同感だが、そもそも今は授業中だ!」





学校前の校庭で、私とゆんゆんは未だに言い合っていた。

「……まったく。この子はどうしてこんなに冗談が通じないんでしょうか」

「何が冗談よ!?絶対に許さない!絶対に!」

「俺完全にとばっちりじゃねーかクソが……」 

「いや自業自得だからな?授業中ああも堂々と寝て、立ってろと言ったのにこれまた堂々と寝やがって……」

「俺は食べたいときに食べ、寝たいときに寝る。本能の赴くままに……堕天使のように生きる」 

「どの辺が堕天使!?少しは反省しろ馬鹿たれ!」

本気で泣いて突っかかってきたゆんゆんのおかげで、前の授業は二人仲良く……じゃなかった。オマケにみんちゃすも合わせて三人仲良く廊下に立たされた(まあみんちゃすは寝ていたが……)。そして今は戦闘訓練という名目の体育の授業中だ。

「幾ら詠唱を暗記しているからといって、サボったり授業の妨害だけはするな。ましてや罰として立たせたのに廊下で居眠りなど言語道断!三人とも減点二十だ!……よし。ではこの時間は戦闘訓練だ。だが今日の訓練は一味違うぞ。……先ほどから睨み合っているそこの二人!アンドついでにみんちゃす!お前達に質問だ。戦闘で生き残るために最も必要なものとは何か?」

「これはとばっちりだよな?絶対そうだよな?」

担任の質問に、ゆんゆんが前に出た。

その雰囲気から、あきらかにこちらを意識しているのが分かる。

「仲間です!仲間がいれば、生存率は飛躍的に上昇します!もっとも、たとえ冗談でもやっちゃいけない事があるというのを理解しない、頭に大きな欠陥がある仲間は論外ですが!」


……お、おのれ……!


「ふむ。……では、次!めぐみん!戦闘で生き残るために必要なものとはなにか?」

「火力です!仲間だなんだと綺麗事をゴネゴネ言う軟弱な寂しがり屋ごと、まとめて吹っ飛ばすような超火力!力!ただ圧倒的な力!友達欲しい、仲間が欲しいなどと無様にモジモジするぐらいなら、私は孤高の魔法使いを目指します!」

「ぐぐぐぐ……!」

ゆんゆんが、未だに涙目のままで私を睨みつけてくる。

「ふーむ。……では、次!みんちゃす!戦闘で生き残るために必要なものとはなにか?」

「強者であること……理想を言えば最強であることだ。この世は弱肉強者、強者が幅を利かせ、弱者はただ淘汰されるのみ。ゆえに己が最強であれば、いかなる困難をも打ち砕いて覇道を突き進める!俺が目指す覇道はただそれのみだ!」

担任は私達の答えを聞いて、腕を組みながらうんうんと頷いた。

「「先生、何点ですか!?」」

「どれも三点。ガッカリだ!お前達にはガッカリだよ!お前達三人は、そこで正座でもして話を聞いてろ!……ペッ!」

この教師、とうとうツバを吐いた!

ゆんゆん以上に、この教師にこそ腹が立つ!悔しさでプルプル震えながらも大人しく校庭で正座する私とゆんゆん。……ふと横を見るとみんちゃすが、普段見ることないくらいの満面の笑みを浮かべながら、担任に気づかれないよう死角を縫って接近していた。その笑みに一瞬呆気に取られたが、彼と付き合いの長いゆんゆんがやけに震えていることから、紅魔族随一の天才である私は察する。


今のみんちゃす………滅茶苦茶怒ってる……。

悪鬼の接近にまるで気づかず、担任は声を張り上げる。


「あるえー!お前なら分かるだろう!そこの成績のみ優秀な“なんちゃって紅魔族”共や-」


あ、今のでみんちゃすの表情が鬼の形相に-


「体力だけがとりえの“落ちこぼれ紅魔族”とは違-げぼぁあ!?」

「みんちゃす式殺法その3、鳩尾抉り」

担任が私達をコケにしたセリフを言い切る前に、みんちゃすの蹴りが担任の鳩尾に突き刺さった。

「続いてみんちゃす式殺法その10

……」

続いてみんちゃすはあまりの激痛に耐え切れずに、その場に仰向けに寝転んだ担任の股間に足を乗せ…



思いっきり踏み抜いた。

「★○▲※$□っっぅ~~~!?」

「雄殺し。……同族、ついでに同性のよしみで今回は潰れない程度に手加減してやるけどよ、次舐めたマネことほざきやがったら……わかってるな?」

声にならない悲鳴を上げて転げ回る担任の胸ぐらを掴み、ゴミを見るような冷たい目で脅しをかける。散々睡眠を邪魔されてイライラしていたところに喧嘩売られてマジ切れしたのだろう。それに加えて……

まあそれはともかく率直な感想を述べるならはっきり言って滅茶苦茶怖いが、それと同時に輝く紅と蒼の瞳は滅茶苦茶格好良い。我々紅魔族は感情が高まると瞳が紅く輝く性質がある。しかしみんちゃすの場合、何故か紅魔族由来では無い筈の蒼の眼までも輝きだすのだ。

担任から無理矢理言質を取るとようやく胸ぐらをから手を放し、続いてみんちゃすはこちらに振り向く。私達は一瞬ビクッとするも、みんちゃすがこちらへ向けて悪戯っぽく笑いながらサムズアップしたことや両眼の光が消えていたことから、二人揃ってほっとして彼に笑いかける。よかった、いつものみんちゃすだ。


……クラスでは私やゆんゆんしか知らないだろうが、みんちゃすは意外と仲間想いでもある。

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