第5話:紅と蒼の瞳⑤

【sideみんちゃす】


めぐみんの使い魔騒動以降は、昨日と違って恙無つつがなく授業が進み、あっという間に下校時間となった。ゆんゆんは日課であるめぐみんのストーキング(本人が聞いたら涙目で憤慨するだろうが)で忙しそうだったので、俺は運動がてら夕飯の食材でも調達すべく森へ狩りに来ていた。そこで遭遇したファイアードレイクの首をへし折って瞬殺し、食材が傷まないように血抜きと解体をしようとしたそのとき。

「じゅるり……」

「ん?こめっこか、奇遇だなー」 

紅魔族随一の魔性こと、めぐみんの妹こめっこに遭遇した。なんでもちょっと上目遣いでねだるだけで食材が集まってくるらしく、齢5歳にして生活力では既に姉を上回っているという紅魔族期待のホープだ。

「ちょうど良いところに来たな。この前教えた食材を痛めない解体の仕方覚えてるかー?」

「当然。わたしはいずれ姉ちゃんをも越える大魔法使いになる女、秘められたちりょくははかりしれない」

「流石こめっこ、頼りになるなー。それじゃあ解体手伝ってくれよ、報酬に半分ほど分けてやるから」

「我が家は貧乏だからもう一声」

「よしよし、交渉の際の駆け引きも覚えてるようだなー。特別サービスでほとんど持っていっていいぞ」

「流石みんちゃす、こめっこのライバルなだけのことはあって太っ腹」

「ソレ遠回しに自画自賛してねーか?」

ちなみに俺もこんな風に色々と仕込んでいたりする。俺の見立てだとこいつの潜在能力はマジで凄まじく、将来的には俺もアッサリ追い抜かれかねないほどである。だから俺はこめっこの潜在能力を見越して、将来いつか最強の魔法使いの座を目指す者同士で、正々堂々闘う約束をしている。

それほどまでの逸材が、栄養不足で成長を阻害されたりでもしたら実に勿体無過ぎる。言わばこれは先行投資みたいなものだ。とはいっても小さな内から楽して物を手に入れる癖をつけたくないので、ただ食材を恵んでやれるのではなく、生きていく上で役に立つ技能を教え実践させ、その報酬として渡している。

「よし、終わった!」

「お疲れさん。どれどれ……よし、初めてにしては十分な仕上がりだな」

「えっへん!」

そうこうしている内に解体が完了する。ふむ……ざっと10人前くらいか。俺はその内今日俺が食べる分を懐にしまうと、不意にこめっこに腕を引かれる。

「持ち運びきれない」

「まあ確かにこの量はこめっこ一人じゃ無理だよな……家まで運んでやるよ」

「ほうしゅうは出さないよ?」

「オメー絶対将来大物になるよ」

「えっへん!」


送り届けた先で、珍しいことにめぐみんからお礼と謝罪を受けた。たまにはパシられてみるもんだな。









「めぐみん! 分かってるわね、今日も勝負よ!」

某バカ教師が行なった天候操作の儀式の反動により、存分に日向ぼっこでもしてくださいと言わんばかりに晴れ渡った朝。めぐみんが登校してくるなりいきなりゆんゆんが勝負をふっかける。ゆんゆんの機嫌がやけに良さそうなことと、何故か腰の後ろに銀色の短剣がぶら下がってること以外は、別段変わったことでもない光景なので、俺は机にかかる朝の日差しを全身に享受しながらことの成り行きを見守る。どうやら短剣に関してめぐみんからの感想を欲してるらしく、やたらとめぐみんに存在をアピールしている。俺の次くらいに短気で苛めっ子気質なめぐみんにそんな鬱陶しいことをすれば、どうなるかは火を見るより明らかだ。

「いいでしょう、受けて立ちます。でも賭け金代わりのスキルアップポーションを持っていないのですが、どうします?」

「賭け金……。そ、それじゃあ私が勝ったらめぐみんは、なにか一つ私の言う事を聞くって事で……」

「いいですよ。特別に勝負方法はゆんゆんに有利なものにしてあげます。その腰にぶら下がっている格好良い短剣を使った勝負です。どうですか?」

「この短剣を?いいわ、どんな勝負か分からないけど受けて立つわ!」

めぐみんは自信満々なゆんゆんを連れて自分の席につくと、机の上に手のひらを広げて置いた。

「では、その短剣を使って私の指の間を連続で突いて下さい。十数える間に全ての指の間を突けなければゆんゆんの負けです。簡単でしょう?」

「待って!?待ってよ!無理無理、そんなの無理!」

「大丈夫ですよ、ゆんゆんの腕を信じてますから。もし刺さっても我慢します。では、よーいどん!いーち、にーい……」

「もういいから!今日も私の負けでいいからっ!」

うん、いつも通りの結末だ。似たような光景をこれまで何十回と見た。



「……ふう。ごちそうさまでした。今日も美味しかったですよ」

「うう……。たまにはまともな勝負をして欲しいんだけど……」

「毎度毎度お疲れさん」

めぐみんが差し出した弁当箱を受け取りながらゆんゆんが涙ぐむ。そんなこと言ってるようではまだまだだな。めぐみんが吹っ掛けてくるのは変な勝負なんかじゃなく、自分が確実に勝てる勝負だといつ理解するのだろうか?

駆け引きの巧拙は闘いにおいて重要なスキルだ。みすみす相手の土俵に上がっている時点で、ゆんゆんは闘う前から既に負けている。

「……そう言えばゆんゆんやみんちゃすは、あと何ポイントで魔法を覚えられるのですか?」

「「え?」」

突然めぐみんにそんなことを聞かれ俺は冒険者カードを確認してみると、表示されているスキルポイントは26。

補足しておくと、紅魔族の学校は魔法さえ覚えればいつでも卒業が可能となる。つまりめぐみんが聞きたいのは、あとどれくらいで俺達が卒業するのかだろう。

身体強化系ドーピング魔法一式と属性付与エンチャント魔法一式、合わせて計30ポイント必要だから……あと4ポイントだな」

「流石みんちゃす、清々しいほど露骨に近接戦闘に偏重していますね」

「魔法使いってなんだっけ……?」

身体強化系魔法は文字通り身体能力を増加させる魔法、属性付与魔法は肉体や武具に火や電気といったエレメントを纏わせる魔法だ。この手の魔法は前者はプリースト系、後者はルーンナイトやエレメンタルマスターが好んで使用するが、アークウィザードが進んで取得するような魔法ではない。早い話、貴重な魔力を消費して苦手分野である接近戦を補うくらいなら、距離をとって強力な上級魔法を使った方が普通は良いに決まっている。精々多少スキルポイントに余裕が出てきたベテランのアークウィザードが、魔法耐性の高いモンスター用のサブウエポンとして習得するくらいである。これらをメインウエポンにするアークウィザードは紅魔族でも俺が始めてであろう。……だからこそのフロンティアスピリッツだ。

「でもみんちゃす、これまでポーション一回も貰ってないのによくそんなに貯まったわね?」

「地道にこつこつレベル上げたおかげだな。気がつけばもうレベル17だ」

「それもう既に中堅冒険者並じゃない……魔法無しでそこまでよく上げたわね……」

「いずれ最強の座をかけてこの私と闘うのですから、それくらいのことはやってもらわないと張り合いが無いですがね」

「へぇ、そうなんだ-ってあれ!?私は!?ねえめぐみん、私は!?」

ボッチ歴の長いゆんゆんはさりげなくハブられていることをいち早く察知し、涙目でめぐみんに抗議する。

「本当にいちいち面倒臭いですねこの娘は!それよりも、ゆんゆんはあとどれだけなんですか?」

「め、面倒臭い……えっと、3ポイント。3ポイントで上級魔法を覚えられるわ。そうしたら、その……ここを卒業しちゃう事になるんだけど……。それでめぐみんは、あと何ポイントで魔法を覚えられるの?」

「あと4ポイントですね。順当にいくと私やみんちゃすよりも、ゆんゆんの方が先に卒業という事になりそうです」

「えっ!?ちょ、ちょっと待って!みんちゃすはともかく成績はいつもめぐみんの方がいいのに、どうして私よりもポイントが少ないの?ていうか、あれっ!?私一人で卒業……!?」

「ゆんゆんオメー、卒業するタイミングまでボッチを義務付けられてんのなー…可哀想だが、これはもうゆんゆんの宿命なのかもなー」

「憐れむように不吉なこと呟かないで!?そんの宿命ないからっ!?」

遠回しにディスられた腹いせに俺がゆんゆんを泣く一歩手前まで弄んでる中、ようやくぷっちんが教室にやって来た。

ざわめいていた教室内が静かになり、教壇に立ったぷっちんが、名簿を片手に名前を呼ぶ。

「よーし、出席を取るぞー」


ぷっちんに名前を呼ばれ、次々に生徒が返事をしていく。

「……みんちゃす!」

「おー」

「………起きてるからまだ良しとしておこう。めぐみん!」

ぷっちんも随分忍耐力が付いたようで、適当に返事した程度じゃ目くじらを立てなくなったらしい。

「…………あとゆんゆん!」

「は、はいっ!……先生、今の間はなんですか?『あと』って言いましたか?また忘れそうになっていませんでしたか?」

「よし、では授業を始める!……と、言いたいところだが。実は近頃、里の周辺のモンスターが妙に活発化していてな。俺も校長に頼まれ、里のニート……ではなく手の空いている者達を率いて、モンスター狩りをする事になった。お前達は昼を過ぎたら帰ればいい。それまでは、図書室にて各自自習をしている様に。以上!」

質問を無視されたゆんゆんが涙目になる中、担任はそう告げると教室を出て行った。都合の悪いことはスルーするのが紅魔族なんだからそんなことでいちいち落ち込むなよゆんゆん……あとぷっちんよ、ニートでいいだろあんな産廃どもは。





図書館での暇潰しだが、久しぶりにゆんゆんと行動を共にしていた。と言ってもお互い自分の読みたい本人に夢中なのだが。……というか俺以外にもこれぐらい自然体で接したら、友達にも不自由しないだろうに。

ゆんゆんが『植物とパートナーになろう』を、俺が『仁義なき貴族達』を読んでいると、何かを探しながらめぐみんがやってきて、ゆんゆんの手にしている本を見るとこちらに近寄ってきた。

「ゆんゆん、あなたが手にしているその本を探していたのですが。何冊かいろんな本を手にしていますが、すぐ読まないのなら先に読ませてはもらえませんか?」

「えっと……。いいけど、めぐみんもこんなの読むの?じゃあ、はい」

そう言って手渡した本は『ゴブリンだって会話ができる』と『モンスターと友達になろう』。いや違うと思う……。

「誰がこんなもん見せろと言いましたか!そうではなく『暴れん坊ロード』の方です!」

「えっ、めぐみんもこれ好きなの!?面白いよね、私、もう何回も読んじゃって!二巻の『ニセ君主一行現る!』のラストなんて、まさかご老公が偽物のお供の二人と旅に出ちゃう超展開になるだなんて……」

「ネタバレはやめて下さい!……っていうか、なんなんですかその他の本のチョイスは。タイトルが酷すぎますよ。酷すぎ……。……これは酷い」

「やめてよめぐみん、どうしてそんな同情する目で私を見るの!?これ見てよ、サボテンにだって心はあるんだってさ!つまり植物と友達にも……!」

「みんちゃすどうして止めないんですか!?この娘放っておいたらどんどん堕ちて行きますよ!?」

仕方ないじゃないか、もう俺の手には負えなさそうなんだから。

「まったく。そんなに友達が欲しいと言うのなら、私へのライバル宣言を取り消せば……」


「-ちょっとゆんゆん。あんた、またそんなもん読んでんの?そんなに友達が欲しいのなら、あたしがなってあげよっか?」


横合いからの突然の声に俺達が振り向くと、こいつは以前ゆんゆんに声を掛けてたクラスメイトの……えっと、その…

「ふにくらではないですか。友達なんてものは、なってあげるものではないですよ。自然となっているものです」

「ふにふらよ!?」

「あれ?かまくらじゃなかったっけ?」

「だからふにふらだって!?あんた達、クラスメイトの名前ぐらいちゃんと覚えなさいよ!特にみんちゃす、アンタのほとんど別物じゃない!」

「あー?」

「ひっ…え、えっとその……何でもないです……お、怒らないで……」

別にこれっぽっちも怒っちゃいないが、やたらとビクビクするのが面白くてついついやってしまうなコレ。そんな中、目を輝かせたゆんゆんがふにふらの肩を掴んで大きく揺すった。

「今なんて?その、今なんて言ったの!?」

「ちょっ、ゆんゆん近い、顔近いって!と、友達になろっかって言っただけで……!」

真剣な顔で迫るゆんゆんに、軽く引きながらふにふらが慌てて言う。それを聞いてゆんゆんが、顔を赤らめながら何度もコクコクと頷いた。


……んー?


……まあいいか、とりあえずは様子見で。

「ふっ……、不束者ですが、これからよろしくお願いします!」

「ねえゆんゆん、あんた友達ってなにか分かってる!?分かってるんだよね!?」

「ゆんゆんを頼んだぞふかひれ。末永くお幸せになー」

「だから友達になっただけだってば!?それからアンタ、明らかにわざと間違えてるで……ご、ごめんなさいぶたないで……」

「ぶたねーよ……」

ちょっと苛め過ぎたかも……?ちなみにふにふらをシバいたことはまだ無い。

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