気づいたら誰もいなくなってたけど多分生きていけるよね?
泉 直人
ー消ー
ベッドで寝ていた俺は大きな寝返りによって転がり、大きな鈍い音を立てて落ちてしまう。背中と頭の後部に重々しい感覚が痛みと共に現れる。
(背中が痛ーンだよ…くそが…)
遅刻ぐせもあり言葉遣いの悪い集(シュウ)は目に凝らし嫌でも起き上がろうとする。
喉のかれた声をあらげ、起き上がると面倒そうに階段を降りてリビングへ向かった。
しかし、そこにはまた面倒な光景が飛び付いた。
「朝飯…ねー…置き手紙もねぇわ…これは完全に諦められてるわくっそ…」
寝返りでベッドから落ち、嫌でも体を起こしたというのに母に見捨てられたのか朝食まで無い。
(しゃーね、行きで買っていくか…電車もまだ来ねえし…)
基本置き勉をしているので持っていくものは財布で十分だった。軽々とした体のはずなのに彼の体は意識から重そうだった。扉を開け、顔色悪そうに出て行く。
(教室ついたら死んだフリでもしとくわこれ。)
いつもの坂を下る途中、不思議な光景を目の当たりにする。信号の電気はついておらず、車一つ通っていない。人もいない。
しかし彼は気にもせずに面倒そうに歩いて駅を目指している。
(信号が三つもつかないってあるかこれ…市中壊れてンのかよ…)
呆れながら森閑とした道を歩き、駅へつく。
「ここまで静かだとなんか清々しいわ。」
誰もいない事をいいことに余裕そうに呟く。頭をかきながら片方の手でパスケースを取り出し改札口に当てるが、反応しなかった。その瞬間彼は自身がおかれている状況に気がついた。
(おい…待てよ…)
内心焦り、走って横断歩道橋の真ん中へ行き辺りを見渡す。
(誰もいない。風の音だけ。電気が付いている気配もない。朝ですら明るいコンビニの電気も、車の音も…)
「嘘だろ…冗談だろ…最高じゃねえか…」
彼は焦りがありまだ半信半疑だが、自身のおかれた状況から察するに普段できないようなことをしようとも考える。
「偶々ってレベルじゃねえ。マジのやつなんだよこれは。」
と言うと彼は大の字になり大きな声で笑った。
「やっぱ誰もいねーじゃねえか!」
颯爽と階段を降りて道路の真ん中を走る。車が来る気配もない。あるのは条件反射による危機感情の中の車が追いかけてきているだけで、後ろめたい気持ちが少し。
近くのスーパーへ行くが誰もいないので
「レジなんて通してもいないんじゃ仕方ねえし…この調子だと警察以前に人がいないだろ。」
パンを手に取ってレジをスルーしようとするが、やはり後ろめたい気持ちがあるようで
「しゃあねえから金は置いてってやるよ!すりゃいいんだろ!罪悪感がうるせえんだよ!」
と大きな声と同時に破裂音のように小銭をレジに置いていった。それでもこれで良いのかと言わんばかりに後ろめたい気持ちが追いかけてくる。
(いないなら仕方ねえって…)
これくらいの気持ちなら振りほどきが効いたようだ。誰もいないなら仕方ないのだ。
なん分待っても時間通りに電車は来なかった。
居てもしょうがないので家へ帰ろうと思い、ベンチから腰をあげた寸前、
「おいテメーどこのどいつだよ。」
男らしい大人な声が聞こえ、声がする後ろ方向へ頭を上げ向く。そこには大柄で三十代後半のスーツを着た大人の男性が自分の座っているベンチの背もたれに脚を乗っけてバランス良くヤンキー座りをしていた…。
「う、うおおおおおおおお!」
集は驚き声をあげベンチから落ち尻餅をついて地面とくっついた。
「うるせぇよクソガキ…プリンの派遣でもなさそうだな…」
呆れた声で右目を凝らし耳をかく姿。よく見ると黒髪は長いが燃え上がる炎のように美しく上へ向かって立っている。どれだけ固めたらそうなるんだ…
「てめえどうやってこの場所へ来た。」
スーツの男は持っていたジュラルミンケースを軽く投げ捨て面倒そうに聞いたが、集は質問がよくわからなかった。
「どうって、俺ここらへんに住んでる高校生なんだけど…」
きょとんとした顔で包み隠さず返答した。
「お前ふざけてンのか?」
眉間にシワを寄せ、殺気だった表情で見つめ喧嘩をふってきた
(なんだこいつ…)
ただ集は喧嘩はしたことのないスポーツもしていない、運動神経は良いだけのただの人であったため、あんな筋肉のすごそうな大人相手では勝てないと踏んだ。
「い、いや~…ふざけてはないっすね…それじゃ…」
その場を去ろうとする。
「おい待てや!」
すぐ後ろから怒声を浴びせられるが追いかけられない程度に歩いて逃げる。
「おめーなんの力も無さそうな弱っちい体してるからよ、こんな所にいねーでさっさと去れ。ここはおめーみてぇな奴がいるべき所じゃねえ。」
何をいっているのか全く謎だったが追っては来ないようだったのですぐさま走って帰ることにした。
息切れをおこしながら自宅へと向かう集。この状況だけでもまだ完全に理解し終えていないのに、変な髪型のおっさんまで出てくると頭が混乱しそうになる。
自宅に付くが、相変わらず悲しいほどに静かで少し気分の落ちた表情で入っていった。
部屋の中は夏の陽の光が射し込み、コントラストが明確に表れていた。
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