第3話:旅行プランはガチガチだと何かヤダ

 俺の家に来て何をやるのかと言うと、

「じゃあ、海に行くプランを考えるか」

「そうね。三日後どうするのか決めないとね」

 と、いう事だ。

 三日後とは早すぎると思うかもしれないが、理由がある。

 俺がテス勉の方に打ち込みすぎて決められなかったのだ。テスト明けもテスト直しの方で忙しかったのだ。

 ……いや、これ理由なのか?

 ただ俺のせいで予定が組めなかっただけではないのか?

「さて、貴方のおかげでちょっとお高い電車くらいしか海に行く手段がありません出したが、」

「……燻ぶっててスイマセン」

「ふふふ、よろしい」

 何時飽きてくれるのかなコレ。いや全面的に俺が悪いのだけど、いちいち辛い。

 そんな事を考えて何もしていない俺とは対照的に、働き者な彼女はA4サイズほどの紙を取り出す。

「とりあえずですけど、暫定的なプランを考えてきました」

「凄いな。もう考えていたのか」

「私は別にテスト直しする所はありませんでしたから。できなかった問題は遅刻したテストだけだから」

「……すいません」

 「ふふふ」彼女の笑い声を背景に紙を見る。

「……なんかめちゃくちゃ文章密度濃いんだけど」

「こういうプランはキチンと決めないと」

「修学旅行かよ」

 電車の乗車時間は分かる。けど、通過する駅の時間も書く必要はあるのか? 修学旅行よりも内容が厚いぞ。

「修学旅行よりある意味大切だから」

 俺の心を読んだのかは分からないが、彼女はそう言った。

 なんだか恥ずかしくて、彼女の顔を見ることが出来ない。予定表に眼球を合わせる。

 ……穴は無いように見える。

 海辺に着いた後の予定は、電車終電時間となっているがこれは正しい。遊ぶ内容について書くのはダメだ。時間に管理された遊びはつまらないだろうから。

 まあ、つまり

「特に言う事ないし、これで良いんじゃないか?」

「……良いの?」

「むしろ何処にツッコめば良いのか聞きたいくらいだ」

「ありがと」

 しかし、これでやることが終わってしまった。後は彼女を家に帰すだけ……嫌だなぁ。もう少し一緒に居たいな。

 辺りを見る。

 そうして見えるのは、今日買った水着。

 今回の海水浴用に買った水着。

 今回彼女が着る水着。

「……えっと、水着試しに着てみない?」

 こんな声が思わず漏れ出た。

 いやだって、海水浴の時に着るんでしょ。その時に他の人に見られることもあるだろう。

 なんか嫌だ。初めて見るのは俺が良い。そうじゃなきゃ嫌だ。

「え? えっと恥ずかしいわね……」

「だ、ダメか……?」

「……良いよ」

「やったー!」

 思わずガッツポーズ。喉の奥からの声を出した。叫んだ。

「そんなに喜ばないでよ! 恥ずかしい!!」

「あ、ご、ごめん」

「……良いけど、一つ条件があるから」

「条件?」

「貴方も水着を着て」

「え?」

 そういう事になった。


 @


 俺は自分の部屋で、彼女は風呂場に行って着替えた。

 さすがに一緒に着替えるほどの仲にはなっていない。まだお互いの裸を見てない。

 ……付き合って半年経つが進展は遅い方なのだろうか? そうだとしても俺たちは俺たちだし、俺たちのペースで行こうと思うが。強がりではないと思いたい。

「……」

 そして男の俺の着替えは秒で終わった。

 脱いで履くだけだからな。暇だ。スマホでヤフーニュースでも見ながら待つ。

 しばらくして、トントンっとノック音。

「……入って良い?」

「……い、良いよ」

 なんか声が震えた。なんか緊張している。顔が熱い。心臓がバクバクっと激しく脈動している。我ながら童貞丸出しだ。

 ドアが開く。

 彼女が出てきた。

「……」

 水着だ。竜の柄がプリントされている黒ビキニだ。

 その姿は美しく、カッコよく、裁縫道具ドラゴンとか言って馬鹿に出来なかった。

「似合ってるよ」

「あ、ありがとう……」

「……」

「……」

 声があまり出ずに、無言。

 音は何もなくただ見つめ合う。

 しばらくそれが続き何分か経った時、

「じゃ、じゃあ、もう着替えるわね!」

「あ……」

 そうして彼女はドタバタ激しく部屋から出て行った。

「……着替えるか」

 もう少し何か気が利いた言葉を練るべきだったと後悔した。

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