第6話:女子の部屋に入れてもらった記憶が無い

 今日全ての授業が終わった。

 俺たちはどちらも部活をやってない。何かしらの役員だったりしない。つまり特に重要な用事があったりしない。

 勉強をやるしかないのだ。

 また図書館に行ってもよいかもしれないが、放課後の図書館は若干混む。なので彼女の家にお邪魔することになった。

「はい、あがって」

「お邪魔しまぁす……」

 彼女の家は一軒家だ。それも結構立派な。キャッチボールができそうなくらい庭まで付いている。

 流石、両親どちらも市役所で働いている公務員っていう感じだ。俺の両親は、町工場人と揚げ物コーナーパート魔人なので少し羨ましい。

 靴を片して廊下を進む。物置兼廊下状態の我が家と違って綺麗だ。物どころか塵すらない。こういう所も気配り出来てるから良い職業に付けるんだろうな。

「何考えているの貴方?」

「ん、あぁ。綺麗にしてるなぁって」

「そりゃルンバがあるしゴミはないわよ」

「そういえばそうだった」

 充電中のルンバを通り過ぎ彼女の部屋にお邪魔します。

 彼女の部屋は、なんていうか、物が少ない。ぶっちゃけ言ってしまえば広い囚人部屋みたいに最低限の物しかない。

 だが例外もありそれは、

「これ前ゲーセンに行った時のか?」

「そうだけど」

 それはUFOキャッチャーで取ったぬいぐるみ。巨大な山椒魚サンショウウオのぬいぐるみだ。デフォルメが少なく無駄にリアルな造形をしたぬいぐるみだ。

「なんで勉強机の上に乗ってんの? なんか板前に出されるマグロみたいになってるぞ」

「ぬいぐるみとは思えないほどの造形美がそれを増長させているわね」

「否定しないんだ」

「昨日そういった内容でインスタに画像あげたから」

 ほらって見せたくれたスマホには画像が映っていた。板前なう。コメント欄には「可愛いですね」的なコメントが並んでいた。

「ツイッター向けのネタ画像ばっか出すよなお前は」

「だって自分を撮影できないし、そうしたら身の回りの物で遊ぶしかないじゃない」

「う……」

 そうだ。彼女は自撮りができない。俺が駄々をこねたからだ。

 たしか、お前の姿は俺が独占したいうわぁー! みたいな事を言っていた気がする。正直黒歴史だが、今でもその気持ちは変わらない。彼女が赤の他人のために顔をさらすのは耐え難い。

「というかそもそもなんでお前はインスタやってんだよ」

「なぁに。逆切れ?」

「いやちが――くはないかも」

「ふふふ。正直でよろしい」

 にやにやした彼女はとても可愛らしかったが、直視できない。俺のくだらない感情を見られた恥ずかしさが上回ったのだ。直視できない。

「まぁ始めた理由は暇つぶしよ」

 ありがたいことに彼女は、俺の事は掘り下げず自身の事を語るようだ。

「それに周りがやっている事を自分だけが知らないなんて悲しい。知らないのにそれについて語るなんて馬鹿らしいしね」

「そう思ってやり始めたらハマったと」

「ハマってはないわよ」

「フォロワー万単位いるのに?」

「ハマってない」

 小学生みたいな応答をしつつ机に勉強道具を並べていく。

「あら? その消しゴムは何?」

「ん? あ、ヤベ」

 それは貸してもらった消しゴム。持ち主に返し忘れた消しゴムだ。今日の午後に消しゴム無くした俺の救世主だ。

 しかし問題が一つ。

「ヤベ?」

「えーと、それ返し忘れた消しゴムで――」

「女子からの?」

「……」

「なんか可愛らしいシールが貼ってあるわね」

 そうだ。そうなのだ。

 それは隣の席の女子から貸してもらったのだ。授業中に無くしたのに気づいたので友人の男たちから借りれなかったのだ。

 彼女を見る。

「で、どうなのよ」

 様々なアニメなどでニッコリ笑顔で怒っているシーンがあるだろう。声質と目が笑ってないアレだ。

 そして彼女は、

「しゃべってよ」

 ヤバい。

 どう言い訳しよう。

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