第4話:当時女子が水泳を度々休む理由が分からなかった情弱でした

 一限目の授業が終わった。

 次は体育。水泳だ。

「体育なのは良いけど水泳は一度滅びるべきよ。人間が陸上生物という当たり前の事を無視してる!」

「今日は生理なの?」

「そうじゃないっ」

 いつも通りムダに元気の良い知り合いに暴言を吐きつつ水泳バッグを持つ。

「まあ、水泳はムダっていうのは分かるわ。学生の本分は勉強よ。勉強だけで良いの」

「流石学年一位の言うことは違いますなぁ。彼氏君の家庭教師ばっかりやっているのに満点余裕とかうらやましいぞおい」

「貴方だって授業しか勉強をまともにやってないクセに最上位クラスに居る事を自覚した方がいいわ」

「へへへ、ありがと」

「家でも勉強しろと言ってるのよ」

 彼女の言動はどう考えても頭が悪そう――実際に頭が悪いが――記憶力が高い。たぶん映像で記憶するタイプなのだろう。つまり知ってる知識を十分に使いまわせるのだ。うらやましい。

 にも関わらわず、彼女はこう言葉を吐き出すのだ。

「いやだ勉強は嫌だぁ」

「殺意が湧いたわ」

「ひどいっ」

 才能がある奴が勉強嫌いとか言ったら殺意が湧くわ。

 勉強頑張りたいのに頭が悪くてなかなか進まない奴がいるのに。

「ふふ」

 そう思うと少し、なんだか気分が良くなった。

 彼は頭が良くない。でも勉強は頑張りたい。そんな事があったからこそ、彼と知り合うことが出来て今の関係に至っているのだ。

 彼の事は嫌いじゃない。あまり色恋に触れてこれなかった今までの自分には色々新鮮に感じる。

「んんん? 愛しの彼の事でも考えてた?」

「ええ、考えていてわよ」

「うわぁ真顔で正直に答えないでよ。こっちが恥ずかしくなるよ。貴方たちが愛が重いのは知っているから」

 愛が重い? 確かに彼は愛が重い。変なことにいちいち嫉妬するし、独占欲が強い。だけど、

「私は愛があまり強くないと思うけど」

「うわぁお。本気で自覚してないぞこいつわぁ」

「愛が重いってレベルなら相手にずっとくっ付いてるじゃない。佐藤さんとか休み時間になるとすぐに彼氏の所へ飛んでいくわ。私はそんな事ないけど」

「比較対象が宗教法人の教祖の息子とその信者の時点でオカシイと思わないの?」

 そんなくだらない話をしながら教室を出る。

 教室からプールに向かう途中、彼のクラスの教室を見た。椅子に座る彼の姿が見えたので手を振ってみるが、彼はクラスメイトとの会話に夢中なようだ。

「ありゃりゃ、愛しの彼女が手を振ってるのに気づかないとはね」

「…………」

 今度から休み時間も一緒にいるべきかしら。

   「そういう所だぞ」

「? なにか言った?」

「いやぁナニーも」

 変におどけた知り合いにムカついたので、デコピンをした。

 「うわっ」っと驚く彼女のリアクションはとても楽しかった。

「ふふふ」

「人に暴力をふるって笑うなんて酷い人だぁ!」



「どうした? ってあらぁま、お前の彼女がいるじゃん」

「ああ、うん」

 なんか楽しそうに会話してるなぁと彼女を見る。

 相手は俺が彼女と知り合う前からの親友だと聞いていた人だ。何回か会話もしたことがある。

 けど、

   「なんか嫌だなぁ」

「なんか言ったか?」

「いや何も」

 声をかけるべきか。いや彼女の親友との会話に茶々入れるのもなぁ。

 そんな事を考えながら彼女を見た。

 声はかけなかった。

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