第三十六話
姫様なら察してくれると思っての『お尻ぺんぺん』。そして本気の演技による紅蓮劇場Ver.般若。次いでプリンによる手懐け、と言う飴と鞭のコンボ。
般若の面が独りでに飛んでいったように見えたのはピアノ線を使っていたからで、これまた独りでに動き出したのは裏に括り付けていたスマホのタイマー設定によるバイブレーションだ。
腹話術を覚えたのは小学生の頃。テレビで某有名人がやっていたのを見て練習を始めた。
都合良くプリンを持っていたのは、単純に俺の間食。プリンが無くてもアメちゃんがあったから問題は無かっただろう。
「……つまり、さっきの一連の流れは完全に貴方の掌の上だったわけね」
「まあそうなりますね」
これらを全て分かり易く説明すると、呆れたような表情を浮かべていた。ピアノ線やスマホに関しては大雑把に、地球にはそういうものもあるという事で納得してもらう。
腹話術の方は理解が及ばなかったようなので今一度実演してみせ、地球にはこれを職に活かしている者もいると話すと何とも言えない表情が返ってきた。
それなりに過酷なこの世界と、それなりに平和な地球。それぞれの世界の価値観の違いから来る表情だろう。俺がクリーンスライムの事を知った時も、同じような表情をしていたのではなかろうか。
「はぁ、随分と芸が達者なのね。面が飛んで行った辺りからは完全に騙されたわ」
「恐縮です」
「やっぱり今の貴方の態度も演技なのかしら」
「あははは、それはなんとも」
「そうなってくると、性格や本性の方も怪しくなってくるわね。それに、それだけ多才なのに戦う事は出来ないなんてバランス悪くない?」
「いやいや、そんなことは……。あっ、お面お面」
ヴィクトリアが真っ二つにした般若の面を拾い、魔法で元の状態に戻す。
「話を逸らさっ!?貴方それ!!」
「おおぅ!?な、なんです?」
凄い食い付きだ。何も特別な事などはしていないのだがな。
「今の魔法は何!?」
「何って、ただの復元魔法ですよ?」
「復元魔法……知らないわ」
「へ?」
見れば誰一人知っている、という顔をしている者は居ない。
「ユニーク魔法なの?」
ユニーク魔法。属性魔法や無属性魔法とはまた違い、同じ魔法を扱えるものは同時期に二人と存在しない。身近で言えば……あぁ、親父の空間魔法か。くそっ、変に劣等感を刺激されるぜ。
ここで魔法について少し掘り下げてみる。
魔法とは自らが持つ魔力を使い発動するのだが、そこで必要になってくるのはイメージ力だ。恥ずかしい呪文の詠唱等は必要が無い。必要は無いがただ正確にイメージするために、例えば火を起こしたい時「火よ!」と口にすることはある。
その魔法は属性魔法・無属性魔法・ユニーク魔法の三つに分類される。
まず属性魔法には火・水・風・土・光・闇の六つの属性があり、『火・水・風・土』は魔力を消費・変換することで、属性ごとの現象を引き起こす。熟練の魔法使いともなれば、自然の中にある属性すら操れるようになる。例えば川や海の水、大気等だ。『風』で思い浮かぶナンシーは嵐すら引き起こせる。
これらの属性魔法は各属性の魔石、通称属性石に反応があった者のみ、魔力量によるが修練次第である程度使用できるようになる。
対して『光・闇』は他の属性と毛色が違い、属性石で反応があったからと言って修練するだけじゃ意味が無い。『光』の属性魔法を使うにはエレノア教に対する信仰心が、『闇』の属性魔法を使うには純粋な復讐心が必要だ。
治癒魔法や結界魔法という魔法が『光』となり、信仰が深ければ深いほど効果は増大する。また治癒魔法に関しては、最高級魔法薬と合わせることで絶大な効果を発揮する。瀕死だった俺が復活できたのも、最高級魔法薬とカールの信仰の深さのおかげだ。
『闇』に関しては分かっていない事が多く、この闇属性に適応した者が『純粋な復讐心』を持った時に発現するらしい。闇属性を持っていても復讐心を抱く事が無ければ意味が無いうえ、しっかりと発現させる者が少なく情報が極端にない為、余り語れる事は無い。どちらにせよ『純粋な復讐者』など滅多にお目に掛かれるものでも無いので、深く考えるだけ無駄だ。
次にユニーク魔法は先に述べた通り、唯一無二の魔法。親父の空間魔法やこれまでの歴史に見られる幻術魔法や、大樹魔法等がそれに当たる。ユニーク魔法の発現者は百万人に一人の割合らしい。この世界の総人口が分からないので多いのか少ないのかは不明だ。この割合もどうやって出したのか疑問が残る。
最後に無属性魔法だが、これは属性魔法にもユニーク魔法にも適性の無い者、つまり俺のような人間でも扱える魔法だ。身体強化魔法に洗浄魔法、そして今の復元魔法がこれに当たる。少し考えれば分かるように無属性魔法は魔力を持つ物は皆扱えるので、属性魔法使いやユニーク魔法使いも普通に扱える。
そのためユニークどころか属性適性も持たない者は下に見られがちだが、元々魔法など無い世界から俺にとってはあまり関係の無い話である。まあ時々、少しだけ、ほんの少しだけ、羨ましいなと思うだけだ。
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