第49話 隠密 → 偵察
「あれだね……」
僕たちはあの後、さらに1度の戦闘を経て、ようやくタツマたちが見つけた洞窟を確認できる場所まできていた。距離としては30メルテは離れているし、大きな木と背の高い草が僕たちを隠してくれているのでじっとしていれば向こうからは見つからないはず。
さらに念のために【隠密】と【統率】で全員の気配も消している。
『ああ、あそこからゴブリンどもが出てくるんだが……ちょっと妙なのは』
タツマがモフの頭の上でぐにぐにと上部を左右に揺らしているのは首をかしげているつもりだろうか?
『出てはいくけど戻っていくやつを一度も見てねぇような気がするってことだ』
「どういうこと?」
『わからねぇ、俺が思いつくのは中ですげぇ勢いで繁殖してどんどん巣立っている……とか?』
それは考えたくないなぁ……中がゴブリンの生殖工場みたいになってて、産めよ~増やせよ~ってゴブリンたちが裸でくんずほぐれつ、みたいな? それに普通に考えて外に出たゴブリンたちが戻らないなら、中のゴブリンたちはなにを食べて生きているんだって話になる。
なんにしても一度中の様子を見に行くしかないか。
「リミ、シルフィ。さっき話したとおり、あそこの洞窟がゴブリンたちの巣の可能性があるから、ちょっと僕が様子をみてくるね。ふたりはここで待ってて」
隣の木の陰に隠れているふたりにそっと声をかけると、ふたりの目がそろって大きくなる。続いて口から出るであろう抗議の言葉を僕は自分の口に人差し指を当てて封殺する。
「僕には『隠密』があるから大丈夫。視界系スキルも『明暗』に『俯瞰』、『遠見』とそろってるからひとりなら明かりがなくても動ける。危ないと思ったらすぐ逃げるし、助けを求める。僕が助けを求めたらモフが絶対に僕のところまで駆けつけてくれるから、一緒に助けにきてくれれば嬉しい」
もし、そんなことになっても実際はふたりを危険に晒す訳にはいかないから助けを求めることはしない。ふたりに伝えた通り、僕のスキル構成ならうまく偵察できると思うのは本当だしね。
「……わかった。絶対に危ないと思ったらすぐに逃げてきてよ、りゅーちゃん。それと15分待っても戻らなかったら私たちも入るからね」
「う……うん」
どうやらリミには僕が考えていることはお見通しだったみたいだ。時間制限を設けられてしまった以上、僕になにかあれば、そんな危険な場所に2人を巻き込むことになってしまう。
『けけけ! こりゃ嬢ちゃんに一本とられたなリューマ。ま、もともと無理な偵察するつもりもないんだろ? さっと行って、さっと帰ってくりゃいいさ』
タツマの言う通りだ。安全第一で軽く様子を見て戻ればいいだけか。
「じゃあ、行ってくる。モフはここでふたりを守ってて、タツマは悪いけど一緒にきてくれるかな?」
モフの頭を撫でて言い含めると、モフは耳を僕の手に擦り付けてくる。これは僕を心配してくれているときの動きだ、大丈夫だよモフ、危ないことはしないから。
モフが安心して耳を離してくれたタイミングでタツマが俺の手を昇って来て肩の上に乗ってくる。
『俺が行っても役に立つとは思えないが、こいと言われりゃどこでもいくぜ、相棒!』
タツマの勇ましい声を聞きながら、リミとシルフィと頷きをかわすと僕は槍を手に茂みから抜け出す。もちろん『隠密』は全開。
洞窟の正面からそれて回り込むように移動していく。その際にまたゴブリンとコボルトが入り口から出て行ったが僕に気が付くことはなかった。そのまま奴らを見送って一気に入口まで近づくと中の様子を伺う。
『俺に任せておけ』
タツマはそう言うと俺の肩から飛び降りて洞窟の中へと入って行く。タツマなら小さいから見つかりにくいし、同じ魔物だからゴブリンに見つかっても見逃される可能性が高い。というか、普通はスライムなんかを気にする魔物はいない。
『……意外と中は広いな。リューマ、今近くに魔物はいないみたいだ。壁沿いに入ってこいよ』
タツマに呼ばれたので壁際の暗がりに潜り込むようにしながら中へとはいる。中は確かにタツマの言う通り想像以上に広い。パッと見た感じだけど、人が三人くらいは並んで歩いても大丈夫なくらいの通路が奥へと続いている。
中は明かりが届かないため真っ暗だが『明暗』スキルがある僕の目には赤外線カメラの映像のように中の様子をみることができている。途中でタツマを拾い、さらに奥に進むと通路が二つに分かれていた。
分岐点で両方の道の先を見てみるが、どちらの通路もしばらく進んだ後、また違う分かれ道になっていた。
「どう思うタツマ」
『う~ん、まだちょっとわからねぇけど……ちょっと広すぎないかここ』
「確かに……」
これだけの洞窟が天然でできるとはちょっと考えにくいよね……かといってゴブリンたちがこれだけのものを掘ったというのも無理がある気がする。それに洞窟の規模も外観とあんまり合ってない。
『巣にしちゃ見張りのひとりもいないし、見た感じ生活感がないんだよなぁ』
「ちょっと待って……右からゴブリンが二体くる」
悩んでいるタツマに小さく声をかける。右手の道の奥からゴブリンが2体こちらに向かってくるのが見える。こちらには気づいていないし、壁際で大人しくしていればやり過ごせそうな気もするけど……
『リューマ、近くに他のがいないようなら倒しちまおう。俺たちが入ったはずの洞窟からゴブリンが出て行ったら、外のケモミミとエロフが入ってくる可能性があるからな』
あり得る。まだ言われた時間は経っていないはずだけど、調査はまだ終わってないし今こっちにこられるのは困る。僕はタツマの意見に頷くと槍を構えてゴブリンたちが近づくのを待つ。念のため二体を【鑑定】するが、レベルは一桁、スキルにも目ぼしいものはないからさっくりと倒してしまって問題ないかな。
そのまま30秒ほど待機しているとゴブリンたちが間合いに入ってきたので一気に動く。まずは先頭を歩くゴブリンの首に槍の柄を叩き付けて脛骨を折りつつ弾き飛ばす。そして、目の前にいた仲間がいなくなったことに動転するもう一体の喉を即座に槍で突き刺す。父さんの【槍術5】を受け継いだ僕には、ゴブリン2体くらいなら声を出させないような戦い方で瞬殺するくらいは簡単なことだ。
喉を突かれたゴブリンは絶命しているので、槍を抜いて一旦放置。首を折った方のゴブリンを確認するとまだ息があったので、しっかりととどめをさしてから胸を裂き魔晶を取り出す。せこいかも知れないけど街ではとにかくお金がかかるって聞いているから、街で売れる魔晶をたくさん集めておいて困らないようにしないとね。
「あれ? こっちのゴブリンは? 魔晶を取る前に食べちゃった?」
『喰わねぇよ! 俺はずっと肩の上にいただろうが。それに魔晶はそこに落ちてるぜ』
「あ、本当だ。どういうことだろう」
落ちていた魔晶を拾ってアイテムバッグに入れながら首を捻る。
『おい! リューマこっちのゴブリンを見ろ!』
脳内に響くタツマの声に魔晶を抜いた後のゴブリンを見る。
「え? ……これって」
そこでは、さっき僕が胸を裂いたゴブリンがぐずぐずと崩れ、床へと染み込むように消えていくところだった。ゴブリンの死体が消えた? これって、もしかして……。
「ここはゴブリンの巣じゃない…………ダンジョンだ」
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