第46話 モフ → 無双

それから、三日。

 僕たちは山岳地帯を迂回するように伸びている道を離れ、真っ直ぐ山に向かって歩いた。街道をはずれて1日歩くだけで、徐々に周囲には木々が増え始めて、だんだん鬱蒼とした森へと変貌していった。

 それに比例して、魔物との遭遇率も徐々に上がりつつあるけど、いまのところは戦闘に問題はない。出てきたのはゴブリンやコボルトのような魔物の中でも下級のやつばかりだったのでリミやシルフィをメインに魔物を倒して貰った。

 スキルをトレードしようにも、持っていたのはせいぜい【棒術1】くらいだったので、すでに【棒術3】を持っている僕では交換対象には出来なかったからね。


 だけどこの間に、僕は【採取】を取り直した。僕はタツマと行動するようになってから、スキルの再取得の期間を早めるようにずっと努力してきたので、【採取】や【掃除】、【裁縫】などの再取得期間は異常なほど早くなっている。

 そして、同じように採取に励んでいたシルフィも【採取】が取れたのは運がよかった。採取を理由に森の中を歩き回っていたというのもまんざら嘘ではなかったらしい。シルフィには交換に使えるスキルがもうなかったのでこの【採取】は大きい。


 こんな僻地の山に入る人間はまずいないので、採取する対象が多かったのもスキル取得の速度を加速してくれたと思う。おかげで薬草類のほか、木の実、果実、キノコなどの食材も数多く取得できたのも、これからの山籠もりを考えれば幸いだった。


「さて、明日からはいよいよ山に入るけど大丈夫?」

「うん、リミは大丈夫だよ」

「はい、私も問題ありません。むしろ山の中の方が落ち着きますので」


 いよいよ明日から本格的に山に入るというところで、野営をしながらふたりに確認をしてみるが、ふたりともこの状況に特にストレスは感じていないみたいなのでちょっと安心した。


「明日からは魔物も増えそうな感じだから、気を引き締めて行こうね」


 ふたりは真剣な顔で頷く。


「うん、じゃあ今日も先に僕が見張りをするから、ふたりは先に休んで」

「わかった。でも、ちゃんと交代してくれなきゃ駄目だよ、りゅーちゃん」

「はい、私たちを気遣ってくれるのは嬉しいのですが、昨日のように明け方まで……というのは困ります」


 昨日はふたりが疲れてそうだったから、長く休ませてあげようと思って長めに見張りをしてたんだけど、逆に怒られてしまった。だから、今日はちゃんといい時間で交代するつもりだった。


「わかってる。じゃあこれね」

「絶対だよ。じゃあ、シルフィいこう」


 僕はアイテムバッグから毛布を出すと2人に渡す。僕に父さんみたいな【気配探知】のスキルがあれば、テントのようなものを使ってふたりを休ませてあげられるんだけど……そうでないなら、こんな見通しの悪いところであんな死角の増えるようなアイテムは使えない。


 毛布を受け取ったふたりは大きめの木を背に、肩を寄せ合いながら毛布にくるまってあっという間に眠りに落ちていった。


『寝たか?』


 すーすーと寝息を立てるふたりを眺めていると、もはや聞き飽きたといってもいい声が頭の中に響く。モフに乗って隣に寄ってきたスライムのタツマだ。最近は一応、僕がひとりごとを言っていると思われないように気をつかってくれているようだ。


「うん、やっぱり疲れてるみたいだね」

『まあ、無理もねぇやな。かたやまだ13の小娘で、かたや肉体労働は得意じゃないエルフだからな』

「タツマの世界じゃ13歳はまだ子供なんだよね」

『そうだな、まだ中学に上がったばっかりで、ちょっと大人になった気になって背伸びをしている時期だな』


 ここでは14でもう成人だから、僕は年齢を理由にする気はないけど慣れない旅、魔物との戦闘、女の子ゆえの体力を考えるとやっぱり無理はさせられないかなと思う。そのてん僕はちょいちょい狩人の森へ走って出かけていたので、体力もついているし、森の中の移動も魔物退治も慣れているから変に緊張することもなく、体力を温存できている。


「僕の世界ではそんなこと言ってられないから、早く強くならないとね」

『まあな、リューマも早く街に行って冒険者になりたかっただろうに、よく我慢したな』


 モフの体の柔らかい毛並みを撫でながら、モフの頭の上でぷるぷると震えるスライム。


「まあね、タツマのいうテンプレは絶対に起こるだろうし、リミやシルフィの安全を考えたら、ある程度は自分たちで対処できるだけの力を身に付けて貰っておかないと怖いよ」

『まあ、な。腕慣らしはもういいのか?』

「うん、ふたりとも魔物と戦うことに慣れてきたみたいだし、明日からはいろんな魔物と戦っていこうかな。ただ、明日進むあたりまでの偵察はお願いしていいかな?」

『いいぜ、つっても走り回るのはモフで、俺は上に乗って見てるだけだけどな』

「でもタツマがいないとモフは話せないからね。モフ、今日も頼むよ。ただ今日は見つけても倒さなくていいから」

『きゅん』


 僕の言葉に可愛らしい声で一鳴きしたモフが、タツマを乗せて夜の森の中へと消えていく。つまりはそういう訳だ。

 この三日間、実はモフとタツマに周囲の魔物の間引きをお願いしていた。ちょっと過保護かとも思ったけど、初めて僕が魔物と戦ったときの醜態を思えば、そうも言えない。

 近くにいるやっかいそうな魔物はタツマの判断でモフが倒していて、モフでは厳しそうな魔物がいる場所は、僕がさりげなく進路を誘導して避けて進んでいたからこその落ち着いた三日間だった。


名前:モフ(従魔)♀

状態:健常

LV:13

称号:リューマのペット兼護衛(リューマの近くにいる時愛嬌+1、ステータス微上昇)

種族:角耳兎(つのみみうさぎ)

技能:蹴術3/槍術2/愛嬌4(+1)/跳躍4/毛艶4/敏捷3/冷気耐性2 

主人:リューマ


 深夜のモフ無双がどんなものだったかは直接見てはいないんだけど、モフのレベルがひとつ上がったばかりでなく、【蹴術】のスキルがまで上がっていることから考えれば、かなりの活躍だったはずだ。魔物の死体はタツマが処理してくれているようなので、死体に他の魔物が寄ってくることもない。まあ、魔晶や素材が回収できないのはもったいなかったけど、明日からは回収できるしそこは気にしない。


 さて、モフたちも今日は戦う必要がないから早めに帰ってくると思うんだけど……昨日までは女性陣を長く休ませてあげるのにちょうどよかったから、多少帰りが遅くても問題がなかったけど、今日はちゃんと起こさないと怒られそうだから、早めに帰って来てくれることを祈ろう。


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