第2章 ダンジョン探索編

第43話 技能交換 → 告白

 目の前でぱちぱちと音を立てている焚火が小さくなってきていた。周囲はタツマの知識にある異世界の夜と比べたら、驚くほどに真っ暗だ。でも、その代わりに空にはたくさんの星が煌めいている。僕は火を絶やさないように、明るいうちに集めておいた枯れ枝を折って焚火に放り投げる。その勢いで崩れてしまった燃えカスが、小さな火の粉を巻き上げて夜空に消えていった。


ポルック村をでた僕たちは、黙々と歩き続けなにごともなく夜を迎えていた。まだ旅立ち初日の今日は、みんなそれぞれに思うところがあったのか、各自でなにかを考えているようでとくに雑談に興じることもなかった。


僕たちの当面の目的地である辺境都市フロンティスまでは、馬や馬車などを使えば10日ほどの道のりらしいけど、徒歩で移動している僕たちだと、なんだかんだで1か月くらいはかかるだろうとみている。 簡単な地図は父さんから貰っていて地図通りにいけば特に迷うことはないと思う。でも途中には町はもちろん小さな集落すらほとんどないみたいなので、基本的に食べ物とかは自分たちで調達しなくちゃいけないらしい。


そう考えると、ポルック村は本当に僻地だったんだなあと実感する。そんなことをしみじみと考えながら、焚火の向こうで丸くなって眠っている僕の従魔で相棒である角耳兎のモフと、モフの耳の間を定位置にしているスライムのタツマをぼんやりと眺める。


モフはまだ赤ん坊だった頃に、罠にかかっていた魔物だったんだけど、あまりにももふもふで可愛かったから殺せなくて僕が育てることにしたんだ。


 タツマはスライムに転生してしまった異世界人で、いろいろあったけど今は僕の友達だ。タツマのことを知っているのは僕だけだし、スライムはとても弱いのでひとりだとこの世界を見て回ることもできないから、形としては僕の従魔という扱いで今回の旅にも同行してくれているんだ。タツマは異世界では真正の厨二病だったみたいで、自分が違う世界に転移・転生したらどうやって生きようかということを、常々考えていたからこの世界でも結構役に立つ厨二知識を教えてくれる。


そして、僕の両隣で同じように焚火を眺めている美少女と美女。


美少女は僕の幼馴染、猫人族のリミナルゼ。通称リミ。僕とずっと一緒に育ってきたかけがえのない人で、冒険者になるためにずっと一緒に訓練をしてきたんだ。その実力は父さんたちからも認められているほどで、しかも今回の件で魔術の才能も開花して魔法も武器も使えるようになった。しかも今は【回復魔法】まで使えるんだから、本当に心強い存在だよね。


美女のほうは、ハイエルフ族の深森のシルフィリアーナ。通称シルフィ。人魔族の悪い人に操られて、ポルック村に凶悪な魔物であるフレイムキマイラを呼び込んだ金髪巨乳の美女だ。そんなことをしてしまった事情としては、同情する部分はたくさんあったんだけど、ポルック村は多大な被害がでた。人も家もたくさんのものを失ってしまった。だから、父さんの裁量で彼女を僕の奴隷に落として、ポルック村の冒険者として働く僕の手伝いをさせるという罰を与えたんだ。


このメンバーがこれから僕と一緒にいてくれる大事な仲間。その仲間たちに対して僕はどうしても打ち明けておきたい秘密があった。


「リミ、シルフィ。もう、うすうすわかっていると思うけど、これから仲間として一緒にやっていくにあたって、ちゃんと話しておきたいことがあるんだ」


結局、フレイムキマイラ戦のあとはバタバタと忙しかったため、あとで説明するからと約束していた【技能交換】の説明をちゃんとしていない。まあ、それでも母さんから【回復魔法】を譲り受けて使い方まで教えて貰ったリミや、使えたはずの【光術】が使えなくなっているシルフィはなんとなく察しているとは思うんだけど。


「うん、りゅーちゃんが凄いっていうのはわかってたよ。でも、詳しくはわからなかったから、ちゃんとりゅーちゃんが自分から教えてくれるなら嬉しい」


僕の右隣に座っているリミが、抱えた膝の上に頭を乗せて微笑みながら僕を見てくる。うわ……焚火に照らされたリミはなんだか大人っぽく見えてドキドキする。


「里では長く生きている者も多かったですが、リューマ様のようなスキルの話は聞いたことがありませんでした。もし、秘密にしておきたいことならば私は少し離れておきますが?」


僕の左隣に座っていたシルフィが、奴隷の身であることを気にしてなのか、そんなことを提案してくる。


「必要ないよ。村を出たあとは、誰にどこまで秘密を明かすかは僕が決めるんだ。そして僕はリミとシルフィには話しておくって決めたんだから。それに、シルフィは奴隷の首輪なんかなくても、僕の秘密をいいふらしたりしないよ。そうでしょう?」

「それはもちろん! ですが……私はリューマ様の村を」


しょぼんとうなだれるシルフィ。彼女だってやりたくてそんなことをしてしまった訳ではない。でも、優しい彼女は自分がしてしまったことを今も後悔し続けている。


「シルフィ、その気持ちは忘れて欲しくない。どんな形であれきみのしたことでポルック村はなくなってしまったんだから」「……はい」

「だけど、それをいつまでも気に病むのはやめてほしい。そんな暇があるなら少しでもみんなで強くなって、立派な冒険者になって、たくさん稼いで、有名になって、いつかポルック村の皆になにか凄いものをプレゼントしようよ」

「なにか凄いもの……ですか?」

「うん! 具体的にはまだわからないけど……なにかすごいもの。それを探しながら一緒に冒険するっていうのもいいと思うんだ」


シルフィが首をかしげると、細く綺麗な金色の髪がさらりと流れて焚火の明かりを反射してとても綺麗だ。


「一緒に……はい、わかりました」


小さく頷くシルフィに僕も頷きを返すと、もう一度リミとシルフィを見てゆっくりと口を開く。


「僕には魔物や人のスキルを交換できる【技能交換スキルトレーダー】という特殊なスキルがあるんだ」


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