第37話 属性 → 相性

 リミにトレードで【回復魔法2】を渡した後、簡単なイメージの仕方を教え、父さんの腕に回復魔法をかけて貰った。その威力は【水術】を使った時と同様に僕が使った時とは比べものにならない威力だった。父さんの腕を再生するまでは流石に無理だったけど、止血から傷口の縫合までがほんの数十秒だった。


 たぶんレベルに直すと4くらいの効果が出てるような気がする。才覚の詳細は僕の【鑑定】でも分からないから感覚的なものなんだけど。これでリミがちゃんと魔法の知識を覚えて、イメージの仕方とかを覚えたらたぶん天才魔導士みたいな存在になれると思う。あ、武器での戦闘もこなせるから魔導剣士? うあ、またタツマが喜びそうなネーミングだ。


 ただ、弱点としては獣人という種族特性からか、まだ鍛えてないせいか魔力総量はかなり低めみたいで、その後に僕の両手の火傷を動かしても大丈夫くらいにまで回復したところで魔力が尽きていた。威力が大きい分消費も激しいのかもしれないけど今後も魔法を使っていくなら威力の調整は必須の訓練事項になるかな。


 ひとまず、気を失っている父さんをガンツさんに任せてリミに皆のところまで案内して貰うことにした。僕は忘れ物があるから後からすぐ追いかけるってリミ達に言ってこの場を離れる。縛ってあるエルフを放置しっぱなしだからね。


『エルフの方はどんな感じだった?リューマ』


 定位置のモフの頭に戻ってくつろいでいるタツマ。


「うぅん……僕が止めた時は完全に自我が無くて操られている状態だったかなぁ。あれって意識が戻ったらどうなるんだろう。また操られた状態で戻るのか、本来のエルフさんの状態で戻るのか……」

『まあ、どっちにしろ【鑑定】してみて精神支配が解けているかどうかを確かめてからだな。そこをなんとかしないと見た目がどんだけまともそうに見えても信頼する訳にはいかないだろうな』


 だよなぁ。ハイエルフっていうくらいだから、たぶんエルフ族の中でも高貴な生まれだと思うから、出来れば手荒に扱いたくはないんだよね。エルフ族と戦争とか考えたくもないし、その発端が僕達なんていう形は絶対に勘弁して欲しい。


 エルフを寝かせておいた家屋は幸い延焼も倒壊もしていなかったので、僕たちが到着した時も最初に寝かせた場所と寸分違わぬ所にいた。ただ一つだけ違っていたのは目が開いていたこと。だけど開いたままの目は僕たちが近くに行っても天井を見たまま動くことはなかった。


『なんか……【鑑定】するまでもないなこりゃ』


 タツマの言うとおりだと思うけど、そうもいかないので確認のために【鑑定】をかけてみたけどやっぱり『精神支配(闇)』の表記は変わっていなかった。


 たぶん、この精神支配の術を掛けたのは【闇術5】を持っていたさっきのアドニスとかいう人魔族だろう。そのアドニスが死んでしまったのなら術が解けてもいいような気もするんだけど、どうやらそう甘くはないらしい。


『たぶんだが、命令されたことをしている最中は普通に動いているように見えるんだろうな』

「命令されたことが終わると、次の命令があるまでこの状態ってこと?」

『たぶんな……試しにお前が何か命令してみたらどうだ?』

「誰が命令しても言うことを聞くかどうかってことか……立て!」


 一応、覗き込んで目線を合わせてから命令してみる。……うん、やっぱり駄目か、反応はない。


「今度はちょっと魔力を込めて……ついでに名前も言ってみた方がいいか。深森のシルフィリアーナ、立て!」


 …………しばらく待ってみたけど動きがない、やっぱり駄目か。きっと命令をするにも【闇術】の心得が必要なんだろう。


「仕方ないか……取りあえず担いでいって皆と合流しよう。父さん達なら解除の仕方を知ってるかもしれないし」


 手足を縛ったままの人間を担ぐのは結構しんどいんだよね……しかも完全脱力状態だと更に体感重量が増すから14才にしてはやや小柄な部類に入る僕には結構重労働。まあ、この人は胸以外はほっそりしてて背はそこそこ高いわりに軽いからなんとかなるけど。


『ちょっと待て、リューマ』

「お、またなんか思いついた?タツマ」

『おまえな……俺に頼ってばかりじゃなくて少しは自分でも考えろよ。俺みたいな弱っちぃスライムがいつまでも一緒にいられるとは限らないんだからな!』


 タツマの動きがぶよぶよと激しくなったのは怒っている、というよりもあきれているんだろう。確かに、この世界の常識の枠をひょいひょいと飛び越えて妙案を出してくれるタツマにちょっと頼っている面があることは否定できないんだけどね。


「分かってるよタツマ。でも、一緒にいる限りなるべく僕とモフが守るからさ、だからいなくなるとか言うなよ」

『きゅきゅん!』

『お、おう……分かってるならいいんだけどよ。……その、まあ……よろしくたのまぁ』

「まあ、村がこの状態だとすぐに冒険者になりに行くのは難しいかもしれないけどね……」


 村の守護者だった父さんと母さんがしばらく戦えないかもしれない状況でこのポルック村を復興するのはたぶん厳しい。もっと魔境から離れた所に一度避難をする必要があるかもしれない。その辺も後で生き残った人達での話し合いになると思う。ということで今はこのエルフをどうするかが先だろう。


「それで、この術をタツマならどうする?」

『ああ……リューマは属性の相性について知ってるか?』

「え?……うん。分かるよ水属性が火に強いとかってやつだよね。フレイムキマイラ戦でもさんざん助けられたやつ」


 スライムは頷くように粘体を震わせる。


『そうだ。この世界に属性魔法が何種類あるかは知らないが、普通に考えて〈火〉、〈水〉、〈風〉、〈土〉の四属性はあるだろう?〈火〉は〈風〉に強く、〈風〉は〈土〉に強く、〈土〉は〈水〉に強く、〈水〉は〈火〉に強いってやつだな』


 うん、知ってる。でもこれは概念的なもので必ずしも絶対的優位を保証する訳じゃないんだよね。〈火〉だって火力が強ければ、僕が火傷したみたいに〈水〉を蒸発させてしまうし、〈水〉だって強い流れは土の堤防を押し流すこともできるからね。その辺も理解した上で僕は頷く。


『で、ここに【闇術】を用いた術があって、エルフが【光術】を持っている。つまりこの世界には〈闇〉と〈光〉の属性もある。じゃあ、この2つの属性は他の属性との相性はどうだと思う?もっとも【中二の知識】を持ったお前なら答えは簡単だろうけどな』

「うん、他の4属性とは有利不利無しで〈闇〉と〈光〉の中でだけ相反関係になるんでしょ」

『ああ、そうだ。それなら【光術】には闇の術式を解除できる可能性があると思わないか?』

「……確かに。言われてみれば、むしろそれしかない! て感じだね」


 生き残った村人の中には、この深森のシルフィリアーナというエルフが怪しげな香炉で麻痺の香をばら撒いたことを見ている人もいるかもしれない。もちろん実際はその通りでその事実は動かせない。操られていたからといってそれを無かったことには出来ない。なんらかの罰が与えられるべきだと思う。


 でも、本当に悪いのはこの人を操っていた人魔族なんだから、この人が生き残った村人達の恨みを一身に受けるのは違うと思う。……ただ人魔族がいたということは僕達しか知らない。


 村の人達が今回のことをどう認識しているか正直分からないから、この人をどういう状態で連れて行ったらいいのかもちょっと判断に困るところではあるんだけど……この状態で連れて行く方が操られていたというのをアピールできるかもしれないし、回復した状態で連れて行ったらこの人も被害者の1人だと思って貰える可能性もある。


『また小難しいこと考えてんのか?現場にいた俺の感触から言えば、「いきなり現れたフレイムキマイラに襲われた」っていう認識だと思うぜ。お前の親父さんだけが行商人が怪しいということに気が付いていたんだ』

「父さんが?」

『ああ……あの人魔族もなんとか尻尾を出さずにとぼけていたが、親父さんの力が侮れないと思ったんだろうな。念のために準備していた香炉を使う決断をしたのはおそらく親父さんがいたからだ。後は、自分だけで村人全員を殺して回るのは手間だから魔物を呼び寄せ、自分は村を逃げ出した村人を狩ろうとしていた。こんなとこじゃねぇか』


 ……あの人魔族はどうしてそこまで僕達を憎んでいたんだろう。もし、人魔族全体があのアドニスとかいう人魔族と同じ考えだったとしたら今後もどこかで同じようなことを起こすかもしれない。その辺のことをもしこのエルフから聞き出せるならやっぱり精神支配は解いておいた方がいい。


「精神支配が解けるかどうか、やってみるよ」


 ハイエルフの白い腕にそっと触れてスキルを発動させる。今度はなんの危険もなくトレードできるから安心だ。こっちの指定スキルもレベル1の奴でいいか。


【技能交換】

 対象指定 「光術2」 

 交換指定 「解体1」

【失敗】


 あっと、失敗した。もう一回だ。


【技能交換】

 対象指定 「光術2」 

 交換指定 「裁縫1」

【成功】


 よし、出来た。じゃあこれを使って治療ができるかどうかやってみよう。



今回のわらしべ

『 裁縫1 → 光術2 』

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