第27話 フレイムキマイラ → スキル

 父さんと一緒に走るとすぐにさっきヒュマスさんと話した場所に出る。だけど、戦場はもう移動しているらしく、ここにはフレイムキマイラはいない。


「イノヤ……俺が不甲斐ないばかりにすまん。この槍使わせてもらうぞ」


 父さんはすでにこと切れていたイノヤさんが握っていた槍を手に取ると再び走り出した。




「ガンツ! ダイチ! 一旦引け! しばらく俺が引き受ける。リューマに治療を受けろ。リューマ【回復魔法】が使えることは隠さなくていい、ふたりを助けてやってくれ」

「わかってるよ父さん。僕の秘密なんかより村の皆の方が大事に決まってる。父さんも気を付けて、鑑定結果は叫ぶから」


 父さんは僕を見てにかっと男臭い笑いを浮かべると僕の頭をひと撫でしてフレイムキマイラに向かっていった。

 父さんが戦闘に参加してガンツさんたちが離脱するにしてもタイミングを見てになるだろう。いまのうちにフレイムキマイラの【鑑定】を。


フレイムキマイラ

状態: 健常  

LV: 52

技能: 爪術4/跳躍4/敏捷4/格闘3/火術2/火無効5/威圧2 

固有技能: 炎身



 くそ、やっぱりレベルが高い。それに固有技能の【炎身】、あれがあいつを覆っている炎の正体か。【火術】の魔法も使えるみたいだけどレベルは二だし、その他のスキル構成からみてもその炎を纏った身体を利用した肉弾戦を得意としているみたいだ。それに【火耐性】の上位スキルである【火無効】なんて持っている。ブレスとかに該当するスキルは見当たらない。魔物自身の種族的な特性の技はスキルとは違うということか。


「父さん! フレイムキマイラレベル五十二! 火属性無効、火術二、爪四! 跳躍、敏捷4、格闘3! 肉弾戦の構成!」


 僕の声が聞こえたらしい父さんが軽く手を上げて応える。そして父さんが参加したことで圧力が減ったのを見越してガンツさんとダイチさんが下がってくる。たまに矢が飛んでくることからヒュマスさんはどっかからまだ援護をしているんだろう。


「リューマくん! 大丈夫なのかい君がこんなところにいて」


 肩を大きく上下させながら戻って来たダイチさんの身体には無数の火傷に加えて、爪がかすめたのか出血をしている傷がいくつもある。


「はい。父さんも承知のうえです。じっとしていてください、気休め程度ですが治療します」


 訝(いぶか)るダイチさんを無視して、さっき覚えたばかりの【回復魔法】を使う。母さんを治療した時にほとんどの魔力をつかってしまっていてまだ回復していないので大した効果はないかも知れない。けど、そもそも父さんがふたりを下げたのは治療もあるけど少し休ませるという意味のほうが大きいと思う。


「ふん、リューマも漢だ。やる時はやる」


 ダイチさんに僅かに遅れて戻って来たガンツさんが大槌をドスンと地面に置く。だが、その眼は父さんとフレイムキマイラから離しておらず、何かあれば飛び出す気なのがわかる。ドワーフはタフな種族だけあって体力的にはまだ余裕がありそうだ。

 

 それにガンツさんは鍛冶業をしているせいか、火に対する耐性スキルを持っている。そのおかげでダイチさんよりもダメージが各段に少ない。パッと見は治療が必要な部分は無さそうに見える。


「すいません、ダイチさん。僕の力ではここまでです」

「いや……いつの間にリューマくんまで【回復魔法】を……マリシャさんに教わっていたのかい」


 出血が止まり、幾分火傷の痛みも消えたのだろう、ダイチさんが驚いた顔で僕の顔を見る。【回復魔法】を使えることはバレてもいいけど、どうして使えるのかを説明するのは時間もないし、面倒だ。


「まぁ、そんなところです。ガンツさんは治療は必要ないですか」

「ダイチ、いまはそんなことはどうでもいい。リューマ、儂は治療はいらん。それよりもさっき言っていたのは本当か?」


 ガンツさんが置いていた大槌を再び持ち上げる。


「え?」

「あいつのレベルだ」

「……はい」

「それはマズいね。とても私たちだけでどうにかできるような相手じゃないよ。村人の避難はどうなっているか、わかるかい。リューマくん」

 

 ダイチさんが軽く天を仰いでため息を漏らす。


「はい、リミにお願いして南門や東門から逃げるように伝えてもらっています。ダイチさんたちがあいつを西門に足止めしてくれていたおかげで避難は順調だと思います。ただ……」

「わかっておる。村から逃げたところであいつをなんとかせねば、追いかけられたら逃げきれぬ。戦えるのが儂らしかおらん以上は儂らでなんとかするしかあるまい。そのレベルではガードンでもきつかろう。儂もいく、お前は気力が回復したらこい。無理なら非難した村人たちの護衛に回れ」

 

 ガンツさんは結局一度も僕の顔をまともに見ることなくフレイムキマイラとの戦いに戻っていった。ダイチさんに残した言葉は今までの戦いと相手のレベルを聞いたことで心が折れかけているダイチさんを気遣ってのことだろう。


 たぶんいままでは父さんがいないことで、なんとか村人のためにと踏ん張ってくれたんだ。でも父さんが戻って来て、ちょっと安心してしまったところに魔物のレベルという実力差を突き付けられ、保身の気持ちが出てしまったのかも知れない。でも、あんな奴を相手に傷だらけになりながらいままで頑張ってくれたダイチさんを責めることなんてできない。


「ダイチさん、村人の避難に向かったリミが心配です。逃げ遅れた人がいないか確認しながらリミを助けにいってあげてくれませんか。お願いします! リミは僕の大事な幼馴染なんです」


 ダイチさんは僕のお願いに一瞬、驚愕の表情を浮かべたがすぐに眉を寄せた。僕のお願いの本当の意味に気付いてしまったのだろう。


「……リューマくん。君は怖くないのかい?」

「……怖いですよ。でもダイチさんだっていままで戦ってたじゃないですか。そんなにたくさんの傷を負ってまで……どの傷も一歩間違えば死んでいた傷ですよ」


 おそらく、状況の悪さから半ば開き直って戦っていた為に恐怖に竦むことなく戦えて、結果として紙一重で致命傷を受けなかった。でもいまの精神状態で戦闘に復帰するのは正直危ない、ガンツさんの見立ては正しい。


「いってください。逃げた人たちにだって護衛が必要です。もし、僕たちがここで負けてしまったらそのときこそもう一度その大剣を振るって皆を守ってください」

「……わかった」


 ダイチさんは目を閉じると大きく息を漏らす。


「ここを離れる以上、必ず村の皆を守るよ」

「はい、お願いします」

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