第19話 オーク → 格闘

 あれがオークか……確か豚のような顔をした力の強い魔物で……女の人を攫ってよく悪いことをするんだったっけ。


 僕はとりあえず同じように鑑定系の能力を持っているタツマに視線を送る。


『初遭遇としては悪くないな、【格闘】は武器を失った時なんかにも役に立つだろうし、持ってれば他の戦闘系スキルを使う際にも動きが良くなると思うぜ。【威圧】はあまり使う機会はないかも知れないが持ってて困るもんじゃないからな。第二順位になるけど狙えたら狙っていけ』


 狙っていけとは言うけど、昔戦ったゴブリンとは違ってレベルも高いし、結構強い個体だと思うんだけど今の俺に勝てるのかどうかが問題だと思う。


『なんだ? 自信がないのか? ……そうだな、じゃあせっかくいまは見つかってないんだから後ろからこっそり近づいて【格闘】スキルをなんかの生活系のスキルと交換してこい。成功すればその時点で俺たちの勝ちだ。失敗した場合は……まあ、なんとかなるだろ』


 ……くっ、ここまで来たんだからタツマの言うとおりいくしかないか。後ろから攻撃すれば勝てそうな気もするけど、うっかり殺しちゃうと【技能交換】出来なくなってしまう。確かに【格闘】スキルは役にたつスキルだと思うし、この機会に手に入れておきたい。


 覚悟を決めて木の陰から出る。近づかなきゃいけないから武器には剣を持つ。但し、【技能交換】を使うまでにこの剣を使う事態になったら正直逃げることを考えなきゃならない。


 僕はいつもよりもしっかりと【隠密】を意識して、オークの背後の死角から思い切って近づく。こういうときに躊躇しながらいくと大体思いがけないミスをして相手に気が付かれるというラノベのお約束を回避するためだ。すくみそうになる足を鼓舞しながら薄汚い背中との距離を一気に詰めて左手を背中にそっと添える。よし!


技能交換スキルトレード

 対象指定 「格闘1」 

 交換指定 「裁縫1」

【成功】


 やった! うまくいった!


 よし! このまま、もう1つ。


技能交換スキルトレード

 対象指定 「威圧1」 

 交換指定 「採取1」

【成功】


『よくやった! 後はそのままオークを倒せ! いまなら勝てるはずだ』


 タツマの念話が届く。スキルを交換したからといってもレベルや体格の差は変わらないから、劣勢なのはそんなに変わらないと思うけど、ここにはスキルのことだけじゃなくてレベル上げも兼ねてきているんだからしっかりとやることをやらなきゃならない。


 オークは未だに食事に夢中で気が付いていない。それなら後ろから……


『……馬鹿! あんな体格の相手にお前の力で突き技とか!』

「ぶひぃぃぃぃ!!」


 え! ……なんで! 何か間違ったの? 後ろから背中に剣を突き刺しただけなのに。


『リューマ! 剣を離して離れろ! 槍に持ち替えるんだ!』

「わ、わかった!」


 刺した剣が抜きづらかったから、タツマが言っているのはそういうことだろう。すぐに下がって背中の槍を抜いて構えた僕の前で怒りに目を血走らせた豚頭のオークが威嚇の声を上げている……あれ? でもあんまり怖くない。

 あ、そうか。僕が【威圧】スキルを交換したからか。それに、戦闘系スキルがまったくなくなったせいで動きも鈍重に見える。確かにこれなら勝てそうだ。





「はぁ、はぁ……」

『お疲れ。言ったとおりだろ、勝てるってさ。ただ、いまのお前の身体じゃオーク並みの大柄な魔物の急所を剣で突き通すのは難しいと思うから戦いかたは考えなきゃな。刺すなら、首とか顔とか、脇の下とかを選べ。中途半端に背中や腹に刺すと武器も抜けなくなったりするからな』


 僕の目の前には、首に槍が刺さったオークが倒れている。タツマの言う通り、多少戦いかたに問題はあったとはいえ戦闘自体は比較的あっさりと終わった。オークの動きの鈍さに加えて、僕が【格闘】スキルを手に入れたことで戦闘での体の使いかたが一気に効率化されたのが大きい。


 【槍術】や【剣術】は槍や剣を使った動きに関しては良くなるけど、それ以外の戦闘中の移動や回避などはサポートしてくれない。だけどこれに【格闘】が加わると肉弾戦のスキルだけあって槍や剣で攻撃するまでの間の動きが各段に良くなった。そして、武器に頼りがちだった僕の動きに場合によっては蹴りや拳、関節技を用いた攻撃方法の選択肢が増えた。


「うん……これならうまくやればひとりでも魔物を倒していけるかも」

『ああ、でも油断するなよ。囲まれでもしたらまだひとりじゃ厳しいだろうからな。ちゃんと相手と状況を見極めて戦っていこうぜ』

「うん、ありがとうタツマ」

『いいってことよ。それよりも、こいつらの素材とかはどうする?』


 そっか……ゴブリンは魔晶しか……って上半身は完全にオークに食べられてるな。オークは頑張れば食べられないことも無いんだけど、いまの僕が持って帰るのはおかしいから放置かな。魔晶だけを抜き出して持って帰ろう。ポルック村じゃ換金なんかはできないけど冒険者になったときに街でお金にすればいい。


「取りあえず、魔晶だけとったらあとは放置かな」


 僕はオークから剣と槍を回収して血糊を拭うと腰の後ろにセットしてあった解体用のナイフを取り出してオークの胸を開いていく。


『だな、日持ちする売れる素材があればこの森のどっかに隠し場所を作って保管しておくって手もあるぜ』


 なるほど、その発想はなかった。本当によくもまあ慣れない異世界でこうもポンポンといろんなことが出てくるよタツマは。タツマ曰くお前の厨二の知識と違って俺には高二の知識がある。って威張っていたけど、それって厨二病を高二までこじらせてるってことだよね。役に立ってるから別にいいんだけどさ。


「それはいい考えだね。今後、そういう魔物を倒した時の場合に備えて保管場所を探しながら探索しよう」

『あ! あと死体の処理だけどよ、ここに残しておくといろんなもんを呼んでも困るし、お前の村の狩人たちに見られたらいろいろ困ることになるんじゃないか?』

「……そうだね。誰がこのオークを倒したんだって話になるかも。どうしようかな」

『よし、それなら任しとけ! 死体ならスライムの俺が処理できる』


 そういうとタツマは魔晶を取り出したオークに張り付いてじわじわとオークを覆っていく。この時少しでも(例え鼓動1つでも)対象が動くとスライムは弾かれてしまうが死体なら問題ない。


 たっぷり五分ほどかけてオークを完全にコーティングしたスライムは次の瞬間、一気に元の大きさに戻った。


「おお……凄い。消化は一瞬なんだ……初めて見た。あ、でもスライムにあげた餌も確かに一瞬で消えてたか」

『……なるほど……は、…………キルなのか。…………らも…………ん食べ……要があるな』

「ん? なんか言ったタツマ」

『んにゃ! なんでもない。今、ゴブリンも食っちまうからちょっと待ってろ。いまのうちにモフに次の獲物の目安を付けてもらっておいてくれ。あとその辺にある薬草とかも採取しておけよ。使ったスキルを再取得しなきゃならないからな』

「了解。モフよろしく頼むね」

『きゅん!』



名前: リューマ

状態: 健常

LV: 9 ↑up!  

称号: わらしべ初心者

年齢: 10歳

種族: 人族

技能: 剣術2/槍術2/統率1/隠密2/木工2/料理1/手当1/解体1/調教2/掃除2/威圧1(New)格闘1(New)/再生1 

特殊技能: 鑑定/中二の知識 

固有技能: 技能交換

才覚: 早熟/目利き


今回のわらしべ

『 裁縫1 → 格闘1 』

『 採取1 → 威圧1 』


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