遠野 三雲

６４

「お父さん。お母さん。少しお話があるの」

　大きな橋のところで透と別れたあと、その日の夜の三雲家の夕食のあとの時間に、キッチンにあるテーブルのところで、鞠は自分の両親に向かってそう言った。

　鞠はすごく真面目な表情をしていた。

　鞠のお父さんとお母さんは鞠の真剣な雰囲気を察して、夕食の後片付けが終わったあとのキッチンのテーブルのところに座って、「なんだい？」と言ってから、鞠の次の言葉を待った。

「進路の話なんだけど……、実は相談があるの」

　と、鞠は言った。

　それから鞠は、自分の今の正直な気持ちを両親に伝えた。

　すると、鞠のお父さんとお母さんは、

「わかった」

「うん。鞠ちゃんがそうしたいのなら、それでいいよ」

　と、そう言って、今の鞠の気持ちを受け入れてくれた。

「ありがとう」

　鞠は言った。

　それで鞠の進路は決まった。

　鞠は、やっぱり東京にある音楽の勉強ができる古い伝統のある高等学校に進学することにした。それは少し前から、担任の滝先生と、それから音楽部の顧問である並木先生に進められていた学校であり、進路だった。

　その古い伝統のある高校は、並木先生の古巣で、並木先生が高校生時代に、音楽を勉強した学校でもあるらしい、とても由緒ある名門の女学校だった。（音楽家もたくさん生まれている実績のある高校でもあった）

　それから鞠は、透にメールで『やっぱり、私は並木先生に進められていた東京の音楽の勉強ができる高校に、進学しようと思います』と連絡をした。

　鞠がお風呂に浸かって、それから部屋に戻ってくると、吉木透くんから、返事が返ってきていた。

　そこには『おめでとうございます』と一言だけ、文字があった。

　鞠は透に『……ありがとう』と返事を返した。