36 あなたと寄り添うこと

 あなたと寄り添うこと 


 そして、後日。


 雨は遠野神社の赤い鳥居の前で、水瀬守くんと会った。

 その日は土曜日で、学校帰りの午後の時間に、雨は中学校の制服姿のまま赤い鳥居のところに立って、周囲に茂っている草木を眺め、それから、もう散ってしまった桜の木々の姿を見た。

 今年の春に、雨は家族みんなで遠野神社の中で、満開の桜を見ながら、久しぶりにお花見をした。

 お父さんと姉の雪と、雨の三人。

 もっと昔はお母さんもいて、家族四人で毎年お花見をしていた。


 四月に見る桜の花は、とても綺麗だった。

 太陽の光と、桜の花びらと、みんなの笑顔と、それからお母さんの顔を思い出した。

 雨が思い出すお母さんはいつも、いつも笑っていた。

 雨のお母さんはいつも笑顔の人だった。

 落ち込んでばかりの雨とは、大違いたった。

「お母さん」

 雨は言った。

「私、好きな人ができました」

 きっと、これからの人生において、ずっと、ずっと好きだって、思える人。

「その人の名前は水瀬守くんって言います。これから、この場所まで、私に会うために水瀬くんはやってきてくれます」

 雨はそこで、涙ぐむ。

 最近、自分でも少し涙腺がゆるすぎる気がした。


 雨は緑色の木々から目を逸らして、土色の道の先を見つめた。

 すると、そこに一人の人影が見えた。

 人影はまっすぐ歩いて、雨の元に近づいてくる。

 心臓が少しだけどきどきしている。

 その人影は、水瀬守くんだった。

 水瀬くんは学校帰りのままの姿で、雨と同じ遠野東中学校の黒色の制服姿のままだった。

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