30
その日の放課後の時間。
雨は旧校舎に行って、天文部の部室を訪れて、そこにいた森川雫くんと東山凪くんに、天体観測の日のことをもう一度、今度はきちんと頭を下げて謝った。
二人とも「大丈夫だよ」と雨に言ってくれたけど、雨は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
すると森川くんが、「じゃあさ、こういうのはどう? もう三年だけどさ、遠野さん。天文部に入部してくれるってことで、それで天体観測の日のことはなしってことで、いいんじゃない?」と雨に言った。
「うん。いいね、それ」
森川くんの言葉を聞いて、ずっと本を読んでいた東山くんが顔を上げてそう言った。
「え? でも」
雨は言う。
「とりあえず、形だけでもいいからさ。こんな風にたまに部室にきて話をしたり、それから、秋か冬に、今度は普通に星を観測に出かけたりとかしてさ、どう? 楽しそうじゃない?」
いつもならこういうお誘いは断ることにしている帰宅部の雨だったけど、雨は本当に天体観測の日を台無しにしてしまったことに責任を感じていたし、もしそれで、森川くんと東山くんが雨のことを本当に心から(もちろん許してはくれるのだろうけど、雨のほうは簡単に自分を許せないのだ)許してくれるのなら、それもいいかな? と雨は思った。
「わかりました。じゃあ、私、少しの間だけだけど、天文部に入部します」と雨は言った。
「え!? 本当!?」
雨の返事に天文部に誘った部長の森川くんが一番驚いていた。
「本当に!? 本当に入部してくれるの?」
雨のすぐ目の前にやってきて、森川くんは言う。
「はい。もちろん本当です」
雨は言う。
「……やったー!! 言ってみるもんだね!」
東山くんを見て、森川くんは言う。
それから森川くんは雨の手をとって、にっこりと笑う。
「遠野さん」
「はい」
森川くんは、今度はにやっと笑うと、「ようこそ。遠野東中学校天文部へ。遠野のお姫様」と雨に言った。
こうして、ずっと帰宅部だった雨は(中学三年生の五月という中途半端な時期にだけど)、遠野東中学校の天文部に入部することになった。
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