26
真昼はそれから、そのまま神楽坂にある自然公園の中で、秋野四葉と別れた。
真昼がそうしたいと言ったのだ。
四葉は真昼のことを心配そうな目でずっと見ていたのだけど、「わかった」と言って、真昼を残して、先に小さな小屋のような休憩所をあとにした。
真昼は雨の中に消えていく、透明な傘をさした四葉の後ろ姿を見送った。
「はー」
それから真昼はその小さな休憩所をあとにして、一人で雨の降り続く大きな自然公園の中を散歩した。
この自然公園『雨の降る森』に、真昼はよく足を運んでいた。
真昼はこの場所が大好きだった。
でも、実際にこんなに大雨が降っているときに、『雨の降る森』の中を歩いたことは今日が初めてのことだった。(真昼は基本、晴れ女だった)
「綺麗だな。いつ見ても綺麗」
真昼は雨降りの池を橋を渡りながら見て、そう独り言を言った。
それから真昼は大きな休憩所まで言って、そこにある自動販売機で缶コーヒーを買って飲んだ。
久しぶりに飲んだ缶コーヒーはすごく美味しかった。
「ふー。……よし」
なんとか大丈夫そうだ。
早くいつもの自分に戻らないと。
それで、大学で先輩に会って、先輩、あのときは本当にごめんなさい。って言って、先輩と早く仲直りをしないと。
(それで、もし秋野先輩が詩織さんに告白をしたり、二人が付き合ったりするのなら、その応援をしたり、……それから、いつも笑っていられるように、今から笑顔の練習をしないといけないな。今日みたいに失敗しないように。子供みたいに泣かないように)
そんなことを思って真昼はにっこりと笑った。
「あれ? もしかして村上さん?」
真昼がそんな風に突然声をかけられたのはそんなときだった。
聞き覚えのない男の人の声。
真昼が後ろを振り向くと、そこに一人の若い(きっと私と同じ大学生だろう)男の人が立っていた。
「あ、その顔は僕のこと覚えてないね。ほら、高校で一緒だった柿本だよ。柿本潤(かきもとじゅん)。どう? 思い出した?」
自分の顔を指差しながら、にっこりと笑って潤は言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます