授業3 お酒は飲んでも飲まれるな

「「ごちそうさまでした」」


 空になった皿の前で手を合わせる。


「このカレー今まで食べたカレーの中で一番美味しかったよ。青姉、料理も出来たんだね」

「まぁな。他にも色々作れるから明日も楽しみにしてろよ」


 料理をする為に革ジャンからパーカーに着替えた青姉が二人分の皿を重ねてキッチンへ運んで行く。

「俺も手伝うよ」


 後を追い俺もキッチンへ向かう。

 料理もしてくれた青姉に後片付けまでやらせるわけにはいかない。


「じゃあお皿洗ってくれ。私はカレーをタッパーに入れるから」

「わかった」


 青姉から皿を受け取り、水を出して皿に付いたカレーの汚れを洗い流す。

 見た目が綺麗になった後、洗剤を付けた別のスポンジでもう一度洗う。こうしないとスポンジについたカレーがまた皿に付いてしまうからだ。

 俺は残りの食器も洗い終え、全てを水切り用のかごに置いた。


「青姉、他にやることは、ってビール飲んでるし!」


 なんかプシュッて音がしたとは思ってたけど、まさかビールを飲んでるとは思わなかった。


「ん? 鈴も飲むか?」


 口をつけた缶ビールを俺の方へ突き出す青姉。


「飲まないよ! 仮にも先生なら未成年にお酒を勧めないでよ!」


 そ、それに間接キスじゃないか。


「はいはい、ごめんなさい。ビールも間接キスも鈴君には早かったですね。はむっ」


 悪びれる様子もなく、青姉は嫌味を言いながらビール片手にスルメイカを咥えてキッチンから出て行く。

 今朝の可愛いかったお姉さんと同一人物だとは思えない。というか間接キスってわかってて言ったのかよ。


「あっ、鈴。こっちくるついでに冷凍庫の中にあるコップと冷蔵庫のビールもう一本持ってきて」


 リビングから青姉が注文してくる。


「はぁ、わかったよ……。冷たっ」


 溜め息を吐きつつ、冷凍庫の中でキンキンに冷えたガラスのコップを手に取り、冷蔵庫からは缶ビールを取り出してキッチンを出た。

 最近はずっと一人暮らしだったからキッチンからリビングが見えても意味なかったけど、早速設計の理由を実感したよ。


「はい」


 ソファで寛ぐ青姉にコップとビールを手渡す。


「あんがと。冷たっ」


 青姉はスルメイカを齧りながらコップを受け取り飲んでいた缶ビールを注ぐ。


「缶のまま飲んでたのならコップいらなかったんじゃない?」


 ふと疑問に思い尋ねる。


「缶から飲むのと、キンキンに冷えたコップで飲むのとでは全然違うんだよ」

「へー」


 俺は感心しながらソファの空いている部分、つまり青姉の右隣に座った。

「なんだ? 青姉さんに甘えたくて隣に座ったのか?」


 ニヤニヤと笑みを浮かべて、青姉は俺の肩にもたれてくる。


「近いよ」


 俺は青姉の肩を手で押してもとの位置に戻す。


「あれ、ドキドキしちゃったの? ねぇ、ドキドキしちゃったの?」


 戻された青姉はニヤニヤしたまま自らの顔を俺の顔に近づけて、ツンツン、ツンツンと頬を指でつついてくる。


「してないから」


 青姉が体をこちらへ向けたことで豊満な胸が肘に当たってしまう。

 めちゃくちゃ柔らかい。

 正直言って非常にドキドキしている。

 だけど俺は平静を装って返事をした。狼狽えて童貞とバカにされるのは嫌だったからだ。


「ふふっ、否定しちゃって、本当はドキドキしてる癖に」

「し、してないよ」

「じゃあ確認してやる」


言うと青姉は頬をつついていた左手を腕と脇の隙間に差し込み俺の左胸に当てた。


「ちょっ、な、なにして」


 いきなり胸を触られ狼狽える。

 平静を装うにも限界があるってもんだ。


「あはははは、やっぱりドキドキしてんじゃん」


 青姉は胸から手を離し、腹を抱えて笑った。


「う、うるさいなぁ。青姉みたいな美人に触られたら誰だってドキドキするよ」


 恥ずかしくなって、俺は言わなくてもいいことを口走ってしまう。あー、顔が熱い。


「美人だなんて、全く鈴は可愛いやつだな。そんな可愛いやつはこうしてやる!」

「んぐっ!」


 ぎゅっと頭を抱きしめられ、顔が青姉の胸に埋まる。


「どうだ? 青姉さんの胸は柔らかいだろ?」

「ふぐっ」


 青姉はぎゅうぎゅっと俺の顔をさらに自分の胸に押し付ける。

 柔らかい。本当柔らかい。ここは天国だ。

 俺はTシャツ越しでも素晴らしい胸の感触に魅了され息が出来ないことに気づかないまま顔を埋め続ける。


「あははは、そんなに長く埋めて息大丈夫か?」

「んんー!」


 青姉の言葉で初めて自分が息をしていなかったことに気づき、俺は胸の中でもがく。

「んっ、あっ、あんまり、うあっ、動くなぁ!」


 激しく動いたせいか青姉は軽く喘ぎ、すぐに俺の頭を胸から離した。


「ふはぁっ」


 俺は慌てて息を吸う。


「はぁ、はぁ。死ぬかと思った」


 苦しむことすら忘れる青姉の胸、恐ろしい!


「なんで私の胸を睨んでるんだよ!」


 向かい合った状態で胸を睨む俺を、青姉がぽこぽこと叩く。


「い、痛い。痛いよ!」


 酔っているせいか力が強い。


「うるさーい! 私の胸を味わっておいてそんな目をする鈴が悪いんだ!」

「わ、わかったから、痛っ、俺が悪かったから、た、叩くのやめ、ちょっ、うわっ!」


 叩かれるのを避ける為に後ろへ下がる。

 しかし後ろにはなにもなく、ソファへ寝転ぶような体勢になってしまった。


「ふっふっふ。もう逃げられないぞ」


 青姉も俺が倒れたのと一緒に倒れ込み、俺に重なるような体勢になる。


「ち、近っ」


 密着する体をなんとかしようにも、酔ってニヤニヤする青姉に上から押さえつけられて身動きが取れない。

 やっぱり力が強い。

 それに色々柔らか過ぎて理性と下半身がやばい。


「ん? なんかお腹に固いものが……。ははーん。さては鈴、青姉さんが魅力的過ぎて大きくしたんだな」


 や、やばい。気づかれた!


「こ、これは違っ」

「こんなに大きくしてなにが違うんだ?」

「うひゃっ」


 青姉がさっと俺の股間を撫でる。俺は思わず声を漏らしてしまう。

 ななな、なにこの状況。

 いきなり幼馴染が先生になるギャルゲ展開から、酔って股間触られるっていうエロゲシチュエーションが発生してるんだけど。

 もしかして、今日からエロゲの世界になったの? なんで? 新手の異世界転生なの? 異世界転生って全年齢版じゃないの?

 俺は予想外の出来事の連続にパニックを起こし意味不明なことを考える。


「もー、鈴はしょうがないやつだなぁ……」

「うあっ、そ、そんな擦られたら!」


 青姉はさらに胸を押し付けて股間を擦る。


 そして――。


「すぴー」


 眠ってしまった。


「こ、この人は」 


 子供の頃からいつもいつも。


「どこまで俺を弄べば気がすむんだぁぁ!」


 生殺しにされた俺は眠る青姉に向かって叫ぶ。


「すぴー」


 だが青姉は眠ったままだった。


「はぁ。気持ち良さそうな顔で寝て、本当襲ってやろうか」


 俺は溜め息を吐き、できもしないことを呟く。


「んしょっ、んしょっ」


 なるべく青姉を起こさないよう、少しずつ抜け出して行く。


「んしょっ。んしょっ」


 動く度に青姉の柔らかい体の感触が伝わってきて理性が持っていかれそうになるのを耐え、なんとか抜け出すことに成功した。


「あー、童貞には刺激が強すぎだ」


 とりあえずうつ伏せになっている青姉の体を転がして仰向けにする。


「ううー。……すぴー」


 動かしたことで唸ったけれど、その後も青姉は胸を上下させて眠っている。


「この胸のせいで、あんな辱しめを……」


 胸を睨み、手を伸ばす。

 このまま触ってやろうか。邪な考えが頭を過る。

 しかし、触れる寸前で俺は手を戻した。


「触るなら堂々と起きてる時に触ってやる」


 眠る青姉の顔を見て呟く。そして青姉をおぶった。


「我慢して触らなかったのに、結局当たってるし」


 背中で柔らかい感触を味わいつつ、二階へ歩みを進める。


「おいしょっ」


 今は使っていない母さんの部屋へ入り、ベッドの上に青姉を降ろす。

 普段から掃除しておいて良かった。


「んー。すぴー」

「ふぅ。よしっ、俺も部屋に戻ろう」


 青姉に布団と毛布をかけて、俺は踵を返し部屋を出る。


「鈴~」


 つもりだったのだが、呼び止められ、俺はもう一度ベッドの方を向いた。


「どうしたの?」


 青姉の顔を覗き込み声をかける。


「んにゃんにゃ。すぴー」


 だが青姉は子供のような顔で眠っていた。


「なんだ寝言か。って、うわ!」


 突然青姉に手を掴まれ、俺はベッドに引き込まれる。


「ちょっ青姉!」

「ん~。鈴のバカぁ。すぴー」

「寝てても俺のことバカにしてるし」


 どうやら寝惚けて俺のことを引き込んだらしい。仕方ない。もう一度、起こさないように抜け出すか。


「おいしょっ。ってあれおかしいな。おいしょっ! だ、駄目だ! 全然動かない」


 がっちりと腕に抱きつかれ身動きが取れない。またも青姉の胸が腕に押し当てられている。

 なんとかして抜け出さないと理性がもたないぞ。

 俺は胸の誘惑から逃れようと必死でもがく。


「んんっ。うあっ」


 だがその度に青姉は嬌声を上げる。

 な、なんだよ青姉のやつ。エロ過ぎだろ。こんなの我慢出来るわけないじゃん。

 そう思った俺は青姉に襲いかかってしまう。

 ことはなく、もがくのをやめてただひたすら青姉の力が弱まるのを待つのだった。


 あー、顔が近い。

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