interlude2:謹賀新年
「
amane4人が学校のスタジオに集まり、レコーディングに向けて『おまもり』の練習をしている合間で、
「108だよ」
「そうなんだ、
「そうなあ……」
市川が煩悩とは無縁そうな無邪気な笑顔で言う。
ていうか、煩悩と一緒だったらなんだっていうんだ。と思っていると、吾妻が『はわわわ……!』みたいなテンションで目を見開く。
「え、うそ、もしかして『おまもり』だからそうしたってこと?
マニアックな知識を披露しつつ深掘りをしてくる
「なんだ、そっかあ……。でもじゃあ、除夜の鐘の音でも録音して入れてみる?」
「いや、テンポ108ってだけでそんなことしないだろ……」
「あはは、冗談冗談。そういえば、amane様ってどんな風に年越しなさるのですか? やっぱりハワイとかで……?」
おい信者。
「ううん、普通に日本だよ? 紅白見て、年越しそば食べて」
……ちょっとほっとした。あまり文化にギャップがあると、なんだか付き合ってていいんですかという気になってしまう。
「あ、でも、
「「本家……?」」
前言撤回。やっぱり、庶民には馴染みのない言葉が出てきちゃったじゃん……。吾妻をじろっと見やると『ごめんごめん』と、困り眉の笑顔で手を合わせられた。いや吾妻は悪くないんだけど……。
「そういう
「んー、あたしの家はおばあちゃんちに親戚一同集まって、宴会しながらって感じ。それこそ、紅白見て、年越しそば食べて」
「じゃあ、私の家と一緒だね!」
「ああ、うん、そうだね……。まあ、あたしの家は本家じゃないけど……」
「そっか、分家なんだ?」
「いや、分家でもないけど……」
市川が『どういうことかな?』みたいな顔をして首をかしげる。いや、おれは分かるよ吾妻。本家でも分家でもないよな。
「それにしてもさ、大人ってお酒になると、なんであんなに延々と水分を取り続けられるんだろうね? ちっちゃいころから不思議でしょうがないんだよね」
「それはある」
沙子がうんうん、と頷く。
そういえば、沙子のお父さんは酔っ払うとめっちゃ
中学の時、黒髪の沙子が、
「さっきまで宴会だったんだけど、『レコードは可聴音域外の音が鳴っているからCDよりも音がいい』とか『ポールマッカートニー死亡説』とか、興味がない人からしたら本当にどうでもいいことを延々と喋ってて……」
と、その内容と一緒に教えてくれた。
普通に音楽に興味があるおれは結構楽しかったし、沙子もうんざりした顔をしながらも、それ、
「だよね。あれと同じ量ジュース飲めって言われたら無理だから、あたし宴会の時はずっとカルピス飲んでるもん」
「いや、カルピスもジュースじゃん。っていうかカルピス好き過ぎだろ……」
「あ、いやいや、缶じゃなくて、原液を割るやつね? 年越しはさすがに缶じゃないっての! あはは」
そこは問題じゃないし『さすがに缶じゃない』の意味も分からないし吾妻が爆笑してて怖いんだけど……。
「小沼くんは? どんな年越し?」
「おれは、」「拓人は毎年うちと一緒に
「あー……去年は行ってないけどな?」
おれが答える前に沙子が答えてしまったので、慌てて補足する。
「去年『は』ってことは、それまでは行ってたんだ……! さすが幼馴染……!」
「へえ……?」
……そして、市川の目つきが変わった。あーあ……。
「やっぱり甘酒飲んださこはすが酔って小沼に甘えたりするの?」
「何それ……」
吾妻が言う二次元のお約束に、沙子が0.数ミリ顔をしかめる。
「そんな漫画みたいなことはねえよ……。お参りしておみくじ引いておしるこ飲んで帰ってくるだけ」
「うん。うちは幼馴染だから知ってるけど、拓人はあんこが好きだよ。逆に拓人はお餅はそこまで興味がないから、うちはお餅だけもらってる。二人でちょうどいいって感じ」
いつになく
「……やっぱり、二人で行くんだ?」
市川が据わった目のまま首をかしげる。
「あ、いや、それは」「そうだよ、二人きり」
「ふーん……?」
なんで市川さんはそんなに声の温度が低いんですか? 真冬の話をしてるからですか?
……いや、そんな、付き合う前どころか出会う前の過去の話を詰られてもどうしようもないじゃん。
「今年はどうするの?」
……見透かされたように、未来の話を尋ねられてしまった。
「いや、今年は……」
「そりゃ、一緒に行くでしょ」
しどろもどろになるおれの言葉を沙子が遮る。
「……へえ、そうなんだ?」
おれも初耳ですけど……。と、雪女市川の声音に戦々恐々としていると。
「……バンドみんなで」
……沙子が、ぽしょりと付け加えた。
「「「…………え?」」」
「……なに」
沙子が頬を赤らめてジロリと睨んでくるのと対照的に市川が先ほどまでとは一点、ニマニマの笑みを浮かべる。
「沙子さん、いつからそう思ってくれてたの?」
「いつから、っていうか……」
「バンド組んだ時から?」
「……うっさいな、うちの勝手でしょ」
赤々と頬を染める沙子と、その表情を見ようと顔を近づける色白の市川を見て、読心術の使い手・吾妻がつぶやく。
「……なんか和やかだけど、これ、天音と小沼を二人で行かせないための作戦だよね?」
「…………バカすけ、余計なこと言うな」
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<作者コメント>
本年も本当にお世話になりました。
2021年は、皆様のおかげで「宅録ぼっち」を書籍の形で世に出すことが出来ました。(まだの方はぜひ読んでくださいね!)
そしてありがたいことに、第2巻も、来年2月1日に発売です。1巻よりも、そしてweb2曲目よりも勝る圧倒的な熱量を込めましたので、こちらも是非!
そして、4曲目の更新が大変滞っておりすみません!!
書籍化作業が忙しい、というよりは、微妙に設定や時系列の違う書籍版と頭の中でごちゃごちゃにならないように、書籍化の作業をしている時にはwebの作業をしない、と決めていたら、こちらの更新が遅れている…というのが言い訳です。
近いうちに4曲目を一度全部削除して、また1小節目から更新させていただきたいと思っています。そちらの方がいいものになると思うので、どうかご容赦ください。
ということで、来年も、もっともっと頑張りたいと思います!
良いお年をお迎えくださいませ!
2021.12.30 石田灯葉
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