第68.55小節目:ミス コンテスト(結果発表)
「小沼、アレ見たか?」
「アレ?」
学園祭が終わり、翌日の日曜日が終わり、次に登校した月曜日の昼休みのこと。
「ミスコンの結果だよ! 売店前に張り出されてたぜ?」
「ああ、あれか……!」
学園祭期間中に行われたミスコンの結果が出たらしい。
「結果が知りたいか? 知りたいよな? 1位はなんと、」
「ちょ、ちょっと待った!」
ネタバレをかまそうとする安藤を手と声で
「自分で見にいくから、その先は言わないでくれ」
「えー? そうか? でも俺は言いたいんだよなー」
「いや、そんなこと言われても」
「1位だけ! 1位だけ言ってもいい?」
「それ1番言われたくないやつ!」
このままここに居座っていると今にもこのチェリーボーイがおれにネタバレをしてきそうだ。おれは逃げるようにそそくさと立ち上がる。
すると、エントリーナンバー2の悪魔さんが『デビルイヤーは
「ふっふぅーん、結果が出たんだってぇー? たくとくん、一緒に見にいこぉー!」
そう言いながらおれの腕をギュウッとつかむ。
「いや、英里奈さん、あの……」
そういった行動は、こと
「英里奈ちゃん?」
「んんー? ひっ……」
意地悪な顔で振り返った英里奈さんは、声の主の引きつった笑顔を見てビクッと肩をすくめたあと、そろそろとおれの腕から手を離す。
「あ、
「あ、はい、そうですね。そうなんですよ、本当なんですよ」
英里奈さんの本場ウィンクにおれは瞬時に話を合わせる。二人とも敬語なのは目の前の人をおそれているからです。
「……まあ、そういうとこも含めて、か」
と小さくつぶやく。
「何が?」
「なんでもない! それじゃ、見にいこっか?」
「は、はぁーい!」
3人揃って6組の教室から出て売店の方に向かおうとすると、4組から見知った2人が出てきた。
「あ、
金髪さんが質問をしてきている。(多分)
「そぉだよぉー! 一緒に見にいこぉー!」
「うん」
コクリとうなずく
「
「うにゃ? あ、amane様でやんすか……。へ、へい、じ、ジブンは、だ、ダイジョブですよ……!」
「さこっしゅー、ゆりはどぉしたのぉ?」
「結果発表見にいこうってなった瞬間になんかおかしくなった」
「ふぅーん……?」
英里奈さんが首をひねる。
おそらく極度の緊張でそんな状態になっちゃったんだな、
ねえさんの
「あ、小沼もいてくれたあ……! あの、どうしよう……?」
今さらおれに気づいたらしい吾妻がすがるような目をしてこちらに水を向けてくる。
「どうしようも何も、もう見に行くしかないだろ」
「そ、そうだよねえ……」
なぜかシュンとする吾妻に、おれは自分の頭をかく。
「ほら、大丈夫だって。ていうか順位はあんまり関係ないだろ。参加することが大切っていうか」
「うん、そう、だよねえ……うん、そうだ」
「えぇー、えりなは一位がいい!」
呼吸を整えながら自分にも言い聞かせている吾妻に、悪魔さんが
「ちょっと、だから、拓人を困らせんなっつってんの」
ありがとうさこっしゅ……。
「とにかく、学園祭の一件でも分かっただろ? 吾妻は立派に、その、なんていうか……あれだよ」
「あれってなあにー……?」
肝試しの時みたいになった吾妻がじっとおれの顔を見てくる。
「あれっていうのは、その、それというか……」
「『すっごく可愛いし魅力的』ってことだよ!」
言い
「もうー、なんでそういうのちゃんと口に出して伝えないの?」
そして『そういうところ変わってないね?』みたいな顔でこっちを向いて小さくため息を漏らす。いや、おれがなんでそういうのちゃんと口に出して伝えないかは自分の胸に手を当てて考えて欲しいというか……。
「そっか、うん、ありがと……」
吾妻はうなずきながら、なんとか通常モードに戻って行く。
「大丈夫だよぉ、とにかくどうせえりなが1位なんだからぁー! さぁ、Let’s go! だよぉー!」
しびれをきらしたらしい英里奈さんが右腕をあげて売店の方に歩みを進めた。
「英里奈、ちょっと」
ずいぶんと柔らかく言った沙子が英里奈さんに続いて進み出す。
「ははは、英里奈ってば、」
吾妻がやっと笑って、言葉を続けた。
「負けフラグ立てすぎて草」
「それな」
おれもつられて呆れ笑いを浮かべる。
「……草?」
脇では、諸事情でネットリテラシー低い系女子が首を
ということで、売店前にやっと着きました。
その前には小さな人だかりが出来ている。
「んんー、見えないよぉー?」
「こんなに注目されてるの……」
英里奈姫と沙子様が人だかりの後ろでふむと声をあげて、
「わわ、なんか照れくさいね……?」
「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ……!」
大天使アマネルと由莉嬢がその後ろから続く。
すると、「あ、候補者の方々だ!」「モノホンだ!」「神4だ!」「四天王だ!」「お通しせねば」「ささ」と、人だかりが二つに割れた。すごい、モーゼだ……!(ちなみにおれは久しぶりにスキル《ステルス》を発動してます)
「わぁ、ありがとぉー!」
英里奈さんがニコッと笑って掲示板の前に立つ。
後ろをついて行く残り3人。おれは「ああ、おれ、頼まれて写真撮ったんだよなあーどうなってるか気になるよなあー」と、ぶつぶつ言いながら脇をついて行く。(控えめに言って気持ち悪い)
「わわ……」「さすが……!」「くそっ」「は?」
さて、顔を上げると、そこには、結果が張り出されていた。
* * *
総投票数:133票
投票いただいたみなさま、本当にありがとうございました!
<1位>
市川天音(47票:35.3%)
ロック部部長、amaneのギターボーカル、堂々の一位!
◆推しコメント(
・俺は黒髪が大大大っ好きだァァァァ!!
・やっぱ正統派っしょ!
・大天使アマネル
・amaneだから
・嫉妬深いところ
・これからも頑張れamane様!
・他人に影響を与える歌を歌える。此れだけでも素晴らしいではないですか。
<2位>
吾妻由莉(45票:33.8%)
器楽部の鬼部長、
◆推しコメント(
・自分にできる努力をして、なりたい自分に近づいていて、少し卑屈になりながらも前向きに進んでいける強さが好きです。
・この子しかいません
・茶髪のボブ デレた時の可愛さ
・青春大好きだったり高校デビューで自分に自信が無い所含め全部すき!可愛いよ!
・吾妻姉さん好きっす。性格も好きだし1番癒されるし、ふわふわの髪もかわいいし1番スタイル良いし自信持ってほしい!
<3位>
波須沙子(32票:24.1%)
一位の市川天音さんと同じバンドamaneのベーシスト&ダンス部のクール女王沙子様が三位!
◆推しコメント(
・クールなベーシストがすごく好きです。かっこいい。
・ひたすらいい娘な所。クールな感じなのに、急に可愛いことを言う所。他者の幸せを願える所。自分が辛いはずなのに頑張っちゃう所。
・目付き
・ツルニチニチソウ
・何と言っても可愛い!
<4位>
英里奈(9票:6.8%)
……ドンマイです!
◆推しコメント(
・あざとい。そして可愛い。
・チェリーに落とされた。 それまでは吾妻推しだったのに・・・。
・あざとさ全開な小悪魔スタイルとは裏腹に、純粋で、懐いた人にとても暖かいところ
* * *
「納得いかないんですけどぉ……」
さっきまでとは一転、むっすぅーと英里奈さんが顔をしかめている。まああれだけ負けフラグ立てたらそうなっちゃうよね……。
「……ま、順当か。分からないでもない」
沙子はふむ、とうなずいている。またツンデレやってるの?
「ね、ねえ、小沼あ……」
くいくいっとYシャツの
「なに?」
見やると、吾妻はあわあわともう片方の手で模造紙を指差す。
「あのamane様の写真のデータってお持ちですか……?」
「はあ? いや、カメラごと実行委員に返しちゃったからないけど……」
「あれ欲しいのですが……」
「なんで敬語だし……」
おれがしらーっとした目つきを作って見ると、コホン、と軽く咳払いをして、
「……もらってきてよ、小沼」
と、いつもの吾妻に戻って言った。
「分かった分かった……」
順位のことはamane様の写真を見たことでどうでもよくなったらしい。まじで?
とりあえず、写真の件はあとで実行委員の
……いや、それおれが欲しいって言ったら気持ち悪くない?
「いや、別に今なら大丈夫でしょ。天音はもう小沼のかの」「ちょっちょ、ちょっと待ってくださいあと心を読まないでください!」
いきなり本調子になるなし……。
「わ、私は、別に、もらってくれるのは嬉しいよ……?」
ご本人も隣で聞いていたらしい。
頬を赤らめてうつむいている美少女っぷりを見ると、なんというか、順位にも納得してしまうというかなんというか、あの、はい……。
「拓人、にやけてんのキモいんだけど……」
「えりなは、投票してくれた9人以外を絶対に許さない」
……いや、
「あ、市川天音さん」
「はい?」
声のする方を見やると、学園祭実行委員のミスコン担当の隆太くんが立っていた。
「1位おめでとうございます」
礼儀正しく、かつ冷静に隆太くんが言う。
「あ、うん、ありがとう、ございます……」
「ちょうど2年6組に伺おうと思っていたんです」
「え、そうなの?」
「はい」
コクリと頷く。
「小沼さんへのお礼と、市川天音さんへのお願いで」
「お願い?」
首をかしげる1位さんに、
「今度、別途写真撮らせてもらいたいんです」
「へ、私の……?」
「はい、よろしくお願いします」
「撮りましょう、amane様! そしてあたしにください!」
「うちを負かして一位になったんだからそれくらいしなよ」
「えりなもうつろうかぁ?」
三者三様の反応を見て、苦笑いをしながら、
「それじゃ、今度、お願いします」
と、
吾妻と沙子と英里奈さんはついでに売店に寄って帰るとのことで、残された2人で教室までの道のりを歩き出す。
「一位、すごいな。えっと、おめでとう」
なんだか恥ずかしいが、言っておかなければと思い、
「えへへ、ありがとう。私、去年は一位じゃなかったから、自分だなんて思わなかったなあ」
「あ、そうなんだ?」
「うん、去年は英里奈ちゃんが一位! すっごく可愛いもんね」
「そうなあ……」
「……そうなあ?」
じろっとにらまれる。
「す、すみません」
「なんてね、冗談冗談。私が言ったんだもん」
あはは、と笑われてしまう。そんな無邪気にひっかけみたいなことするのやめてくださいよ……。
なんだかむずがゆくなってしまい、おれは話を振り直す。
「でも、同じような顔ぶれで、一年で投票結果が変わるのって面白いな。何が変わるんだろう?」
「……分からないの?」
すると、彼女はおれに向かって、キョトンと小首をかしげる。
「さあなあ……」
うーん、とおれは腕を組んで考えてみる。
「私が一年前から英里奈ちゃんを追い越すくらい変わったとしたら、その理由なんか一つしかないよ」
「ああ……!」
「歌えるように、なったもんな」
過去を克服して、乗り越えて、成長してみせた。それは、本当にすごいことだと思う。
改めて、すごいことだ、と優しく
「へ? ううん、そうじゃなくて、ね?」
と苦笑いを返してくる。
「じゃあ、なんでだ?」
おれは顔をしかめた。あれはかなり大きいことだったはずなのに、それよりも大きいことなんて……。
「そんなの、決まってるよ」
すると、彼女はすっとおれの耳元に唇を寄せる。
「誰かさんに恋してるから、だよ?」
そう言って、すぐに身体を離して、えへへ、と頬をかきながら。
天音は照れくさそうに笑うのだった。
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