EP6 同調
リオティアの王宮の周辺は四神が召喚されたために突如上空が暗くなり、激しい雷が上空に向かって走るのを王宮から遠く離れた場所に住む人々でさえ目撃していた。
まだ午前中だというのに一瞬で夜が訪れたようだ。
大人も子供も、赤子を胸に抱きしめた母親も慌てて家に閉じこもり、息をひそめて窓から上空に浮かぶ巨大な四神を見上げていた。
王宮を中心に東西南北の空に現れた聖獣は眩く光り輝いているが、どう猛な低い唸り声が地面を揺るがす。
人々には有難く思うより恐ろしく思えて震え上がっていた。
一体何が起きたのか民には分からなかったからだ。
リオティアの人々はこの国が東西南北に位置する四神によって守護されていることも、神の使いである四人のディユが王宮で仕えていることも、王が四神の長、白龍の力を司っていることも当然知っている。
しかし、実際召喚されて姿を現した聖獣を目にする機会はあまりない。
「怖いよ〜!!」
泣きじゃくる子を抱きしめて「大丈夫よ。大丈夫よ」と祈るように繰り返す者。布団の中に潜って隠れる者。目立たぬようにロウソクの火まで消す者。犬にしがみついて震える者までいる。
恐ろしい嵐が早く過ぎ去るように人々は必死に願っていた。
王宮の儀式の間でリッカルドが小さな白龍を召喚した頃。
突然空が暗くなり、激しく|轟く(とどろく)|雷(いかずち)にフィラはビクッと体を揺らした。
這いずるようにベッドから抜け出して窓辺に立つと遠く上空に巨大な獣が浮いているのが見えた。
(あれが四神…!儀式が始まったんだ!)
体が冷水を浴びたように冷たくなり、フィラはガタガタ震える自身の両腕を抱きしめるように掴んだ。
(時空が閉じれば私は……)
(エマ…リリア…お父様、お母様…もう、本当に二度と会えないの?)
昨夜から泣きはらしてひどく腫れた目からまた涙が溢れる。
この国を守る為に時空の亀裂を閉じなければならないのは理屈では分かっている。
でもーー。
本当は今すぐ飛んでいってやめてほしいと懇願したい。
伝説の天使だと誤解され続けて、できないのに期待されて、苦しい、逃げたいとさえ思っていたあの場所に帰りたい。
自分を嫌っている兄と姉さえ愛おしいと思えた。
「でも言えるわけないじゃない。この国の民を危険にさらすわけにはいかないのだからーー…」
フィラは強風でガタガタ揺れる窓のそばで
静かに涙を流し続けたーー
「今朝のデータによると、亀裂は出現場所が変わるらしい。それに数も増えていると言うことだ」
リッカルドは厳しい表情で言った。
肩には小さな白龍が寛いでいる。
「亀裂の数は少なくとも12箇所だ」
「上昇中〜」
小さい声で呟いたリアムをリッカルドはギロリと睨む。「やべっ」とリアムは横を向いた。
「急がねば亀裂はどんどん広がるということですね。今すぐにでも取り掛からねば!さあ、早く!」
アレクスがソワソワと落ち着かない様子で急かす。
「そう急くな」
アレクスのせっかちにはリッカルドも慣れている。事を急ぎすぎて失敗するのがアレクスの短所だ。
「神眼ならば亀裂がハッキリと見えるはずだ。四神に同調して亀裂を見つけてくれ」
リッカルドが命じる。
「ーー御意」
四人は目を閉じ、空を仰いだ。
意識を集中していくと次第に四人の体は 属性のオーラに包み込まれていった。
アレクスを包むオーラは赤だ。白虎のリアムは白。玄武のランベールは緑。青龍のカディルは青だ。
四神と同調することにより、王宮の上空に浮かぶ四神が見ている映像を脳裏で見ることができる。
儀式の間の端に控えていた調査本部隊長のフェリクスが特殊な装置を使って測定値を告げた。
「シンクロ率平均99.8。皆様の同調が完了しました」
四人は四神の体を通して上空で目を合わせた。
周りは夜のように暗く、それぞれの四神が発光している。下を見ると、今自分たちがいる王宮の屋根が小さく見えていた。
カディルは周りを見回してみた。
青龍から見た空には肉眼では見られなかった時空の亀裂がハッキリと見えた。
「12箇所では済みませんね…」
カディルが呟く。
「ああ。数時間の間に増えてるみたいだねぇ」
玄武から映像を見るランベールがやれやれとため息交じりの声を上げた。
「一刻の猶予も許されないぞ。直ちに亀裂の修復へ向かえ!」
リッカルドは腕組みをして叫ぶ。
小さな白龍はリッカルドの肩で居眠りを始めてしまった。期待していなかったがやはり戦力外だ。気持ちよく眠る白龍を横目に見てリッカルドはため息をついた。
「この状況で眠れるとは小さくても肝が座っているのか、理解できぬほど幼いのか分からんな…」
「私は南に行くぞ」
アレクスが先陣を切る。朱雀がアレクスの意志を読みとり、南へと翼を広げて飛んでいった。
「俺はやっぱ西だね」
リアムがそう言うと、白虎はグオォと吠えて西に向かって走っていった。
「私は東に行きます」
カディルがそう言うと、美しい青の鱗をたたえた青龍が優雅に東の空へと泳いで行った。
「なら僕は北しかないじゃない」
ランベールが一人乗り遅れてつまならそうに呟いた。別に特別行きたい方角があるわけでもないのでどうでも良いけれど。
「行こうか、玄武」
玄武がドシン。ドシン。と空中を歩く振動を感じながらランベールはなんとなく不機嫌だった。こんな時少しだけ思うのだ。
玄武は亀に蛇が巻きついた姿をしている。亀って歩みが遅いんだよね…。蛇のほうが早いんじゃない?
「北だけ片付かなかったらみんな助っ人にきてくれるんだろうね…? 居残りはごめんだよ」
はぁ…とやる気のないため息をついてランベールは北に向かっていった。
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