第60話:イベントを終えて
アーカイブはイベントに参加していた多くのプレイヤーで溢れかえっていた。
皆が皆イベントの感想を口にしており、雰囲気を見ていると今回のイベントも大成功だったといえるだろう。
中にはアルスト達と同じサーバーのプレイヤーもいて、三人を見つけると睨み付けながらその場を離れていく者もいた。
最終順位は結果発表と同時に行われるので今すぐには分からない。
それでも、特別マップで大量のミニマムキャットを討伐することができたので個人での10000位以内、パーティでの10000位以内にも自信を覗かせている。
アルストにいたっては1000位以内もあり得るのではないかとエレナは興奮していた。
「いや、さすがに1000位以内は無理があると思いますよ?」
「むっ、なぜそんなことを言うのだ?」
「他のサーバーでも特別マップはあったはずですし、俺達だけが討伐数を稼いだわけじゃないですから」
「ですが、期待するのはいいと思いますよ」
「アレッサさんまで……」
謙遜しているが、内心ではアルストも少しだけ期待を胸の内に秘めている。
結果発表は日曜日の一二時なので、今日はやることがない。
もちろんこのままログインしてもいいのだが、アルストの口からは自然と言葉が溢れ落ちる。
「さすがに疲れましたね」
「そうだな。死ぬかと思ったぞ」
「アルストさんがいなかったら死んでましたね」
「誰か一人でも欠けていたら、俺だってそうですよ」
「……そうでしたね」
笑みを浮かべてアルストの言葉に頷くアレッサ。
その横ではエレナが何度も頷いている。
そんな二人を見て、自然とアルストも笑みを浮かべた。
「それじゃあ、俺はログアウトしますね」
「今日はしっかり休んでくださいね」
「明日、待ってるからな!」
「二人もちゃんと休んでくださいよ」
毎回早い時間からログインしていることを知っているアルストは二人に注意を促すと、そのままログアウトした。
「……それじゃあ、私達も休みましょうか」
「そうだな。アルストの言葉ではないが、さすがに疲れたよ」
そう言って、雑踏の中に姿を消してしまった。
※※※※
初めて参加したイベントがこれ程までに上手くいくとは思っていなかった。
イベントボスモンスターとエンカウントしたのも特殊能力のおかげなのかと考えると、自分の実力ではないような気もしないではないが、アルストに備わってしまった能力なので仕方がないと割り切るしかない。
「……今日は飯食ってさっさと寝よ」
頭が疲れているのはもちろんだが、体も疲れているような錯覚を覚える。
ベッドから起き上がるのも億劫だと感じながらも台所へ移動してお湯を沸かす。
今日は一番のお気に入りを食べるには絶好のタイミングだと言い聞かせて、豚骨味のカップ麺を戸棚から取り出した。
お湯を沸かしている間も、三分を待っている間も、食事中も、矢吹はぼんやりとしていた。
そのせいでお気に入りのカップ麺をいつの間にか食べ終わってしまい、味わうことができなかったと一人で悔やんでいた。
寝る準備を整えた矢吹は倒れるようにしてベッドに横になる。
「……明日は順位を確認して、それから、ソロで……バベル…………に…………」
そんなことを呟きながら、矢吹の意識は睡魔に持っていかれてしまった。
※※※※
翌朝、矢吹は久しぶりに遅い時間に目覚めた。
「……九時かよ」
大きな欠伸をしながら食パンにジャムを塗りたくって口に運ぶ。
BGMになってしまっているテレビを眺めながら、今日の予定を頭の中で考えていく。
イベントの最終ランキングが発表されるのは一二時。
今日はその時間くらいにログインをしてもいいかと考えてゆっくりすることにした。
タブレットを部屋から持ち出して攻略サイトに目を通す。
今回のイベントに関しての総評が載っており、昨日の今日で載るのかと少し驚いた。
「なになに?」
参加者からは概ね高評価を得ているようで、運営への感謝が多く綴られている。
これはドロップアイテムの【紫煙の光玉】が理由だろうと矢吹は予想する。
そういえばアルストがどれだけの【紫煙の光玉】を手に入れているのかを確認していない。さらにビッグキャット討伐のドロップアイテムの確認もしていないことに気づいてしまう。
「……やっぱり少し早くログインしてアイテムボックスを確認するか」
素材アイテムがあればアリーナに相談しなければならない。
アシュラ討伐の時の素材アイテムもあるので迷惑にならない程度で預けたいと思っていた。
だらだらと攻略サイトを眺めていると、気づけば時間は一〇時を回っていた。
椅子から立ち上がった矢吹はタブレットを持って部屋に戻るとすぐにHSを装着してベッドに横になる。
「今日でパーティプレイは終わりだな」
少しだけ名残惜しいと感じる反面、やはりソロで楽しみたいとも思っている矢吹。
そうは言ってもせっかくの出会いである。
二人に何かあれば、これからも臨時でパーティを組むくらいならいいかと考えながらログインした。
※※※※
アーカイブに戻ってきたアルストは最初にアイテムボックスを確認することにした。
いつものことながら高レアリティのアイテムが並んでいることに呆れてしまう。
レア度4の素材アイテム【オルガノン】、レア度5の鍛冶師専用の武器【
今回もアルストがすぐに使えるアイテムは一つもない。
ただ、氷柱の槌に関してはお世話になっているアリーナに献上するのも悪くないかもしれないと考えていた。
次に行ったのはフレンドリストの確認。
アリーナはログアウトしており、アレッサとエレナはというと、これも毎度のことながらログインしていた。
心配するだけ損なのではないかと思ってしまうが、当の二人は出会う度に元気なのでちゃんと休憩は取っているのだろうと自分に言い聞かせる。
そしてログインしたことをメールで送信してから数分後――二人がアルストの下にやってきた。
「今日は遅かったではないか」
「ちょっと寝坊しまして」
「あと一時間ほどでランキングが発表されますね」
昨日は相当な数のミニマムキャットを討伐したのだから、二人も自身の順位が気になるのだろう。
「そういえば、エレナさんは【紫煙の光玉】いくつドロップしてましたか?」
「よくぞ聞いてくれた!」
攻略サイトで確認したのだが、【紫煙の光玉】は一個当たり300|Gゴールドで売却できる。初日に獲得した個数でもフレイム・ドン・スピアを購入する金額には余裕で届いていた。
個数によっては武器だけではなく防具に関してもレア度の高い装備を揃えることができるんじゃないだろうか。
「最終的に54個も手に入れることができたぞ!」
「私は29個でした」
「おぉっ! 一気にお金持ちになりましたね!」
「……それで、アルストはいくつドロップしたのだ?」
「……あー、やっぱり聞きますか?」
「き、気になります!」
アレッサにも食いつかれてしまい、アルストは正直に答えることにした。
「……99個と32個です」
「「……はっ?」」
「99個が限界なんでしょうね。【紫煙の光玉】が二列になってました」
「……いや、もう、いいんじゃないか?」
「……そうですね。まあ、アルストさんですから」
驚きを通り越して呆れに変わってしまった二人のリアクションに肩を落としながらも、アルスト達は時間が来るのをゆっくりと待つことができた。
そして――時間は一二時を示した。
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