第52話:ミニマムキャット討伐③
一二時から開始して現在は一八時。
一回目のランキング更新の時間がやってきた。
【ねこじゃらし】のおかげで相当数のミニマムキャットを討伐することに成功したアルスト達だったが、上位には載らないだろう思いながらも確認する。
「……えっ?」
驚きの声を漏らしたのはアルストだ。
視界に表示される討伐数やランキングは自分しか見ることができないので、二人は首を傾げるだけ。
なかなか口にしないアルストを見かねてエレナが口を開く。
「どうしたのだアルスト。何位なんだ?」
「……個人で、2834位」
「おぉっ! すごいじゃないか!」
「そうですよ! おめでとうございます!」
個人ランキングではエレナが18579位、アレッサが66589位と下位に沈むなかで、アルストだけが飛び抜けて上位に入っている。
ここで始めて現在の参加人数も確認することができた。
「参加人数は……79763人か」
「以外と少ないのですね」
「全プレイヤーが参加してる訳じゃないですし、購入してからもう引退してる人もいるんでしょうね」
大人気VRゲームとはいえ、自分に合わないとすぐに止める人もいれば固有能力が気に食わずに止める人、中には狙われて
過去のイベントでは今回よりも少ない時もあったので多い方なのだが、そのことを三人が知る由はない。
「でも、豪華な景品は1000位以内からなわけで、俺達には関係ない話ですね」
「それでも10000位以内でも良い景品はありますよ?」
「うーん、それはアルストに頑張ってもらおう」
「えっ? お、俺ですか?」
「当然だろう! 現時点で10000位以内にいるのはお前だけなんだからな! パーティとして10000位以内に入るにはお前の力が必要だ!」
現在のパーティ順位は28987位。
10000位まではまだまだの順位なのだが、【ねこじゃらし】のおかげで思わぬ順位にいる。
1000位以内は無理でも、個人で10000位以内なら可能かもしれないと二人が思い始めても仕方はないのだが、パーティでは厳しいのではないかと思っている。
「……まあ、まだ初日ですしね」
「それもそうですね」
「むっ、夢がないな」
「今の順位はたまたまです。それにほら、これ」
そう言いながらアルストは【ねこじゃらし】を――【ねこじゃらし】だったものを二人に見せた。
「……なんだこれは?」
「……茎?」
「どうやら、ねこじゃらしの効果が終わったみたいです」
回数なのか時間なのか、それが何なのかは分からない。分かっているのは【ねこじゃらし】がもう使えないということ。パーティで10000位以内が厳しいと思っている理由がこれだった。
「これからは地道にミニマムキャットを探すしかありませんね」
「……そ、そんなあ!」
「うふふ、元々そのつもりだったんだから落ち込まないの」
「……だが、せっかく上位を狙えると思ったのに!」
こんな会話をしている間も他のプレイヤーはミニマムキャットを狩り続けているだろう。上位を目指すなら今この時も探すべきなのだが、そうしていない時点で上位にはなれない――普通なら。
『ギャギャ?』
「「「……何故に!?」」」
【ねこじゃらし】が無いにも関わらず現れたミニマムキャット。その数は五匹。
慌ててスレイフニルとスピルニアを構えるアルストとエレナ。
魔法がほとんど当たらないことに気づいているアレッサはミニマムキャットが逃げないように魔法を周りに撃ち出していく。
「何が起こってるんだ!」
アルストが素早くスレイフニルを振るい三匹を両断。
「私に聞くな!」
エレナが高速の刺突を放ち二匹を貫く。
「ま、まだいますよ!」
後方から周囲を警戒していたアレッサが更なるミニマムキャットの存在を口にする。
『ギャギャギャギャギャッ!』
数えるのも面倒くさくなった三人は片っ端から討伐していく。
その間、何故か他のモンスターが現れることもなく、ただただミニマムキャットを狩り続けた。
次のランキング更新は〇時なので深夜になるのだが、アルストは内心とても楽しみにしていた。
それはアルストだけではない。エレナも相当な数のミニマムキャットを討伐している。
アレッサだけが数を伸ばせずにいるが、それでも二人をサポートするために魔法を放ち続けた。
どれだけの時間そうしていただろうか。
気づけば夕焼け空から月明かりに変わり、アルストのお腹が空腹を知らせるため大きく音を立てた。
「げっ! もう二〇時じゃないか!」
「なんだ、ログアウトするのか?」
「お腹空きましたよ!」
「では一度アーカイブに戻りましょう」
アレッサの言葉に大きく頷いたアルスト。
エレナは不満げな顔をしていたが問答無用で三人はアーカイブへと戻って行った。
※※※※
アーカイブに戻ってきた三人は、一旦ドロップアイテムを確認することにした。
すぐにログアウトしたかったアルストだったが、自分も気になることだったのでエレナの言葉に従うことにしたのだ。
ミニマムキャット以外のモンスターからは普通の素材アイテムがドロップしており、特に高値になるようなレアアイテムはなかった。
だが、ミニマムキャットを多く討伐していたこともあり高値で売却できる【紫煙の光玉】は三人にドロップしていた。
「私は5個です」
「わ、私は17個も出たぞ!」
エレナは特に
そして、二人のドロップ数を聞いてから口にするアルストはとても申し訳ない気持ちになっていた。
「……俺は、36個」
「おぉっ! すごいじゃないか!」
「それだけアルストさんが討伐していたということですね!」
アルストの気持ちとは裏腹に二人は純粋に喜んでくれた。
その反応にホッとしながらも、さすがに我慢の限界だった。
「俺、一度ログアウトします。よくよく考えたら、昼ご飯も食べてないんですよね」
「そうだったか?」
「でしたら仕方ありませんね」
「……二人も食べてませんよね?」
疑問を口にするアルストだったが、二人は顔を見合わせているだけなので大きく溜息。
断りを入れてアルストはそのままログアウトした。
「私達もご飯にしましょうか?」
「アルストが戻ってくるまでの間だがな」
そう口にした二人の姿もその場から消えたのだった。
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