第42話:謎のクエスト②

 壁に手を当てながら通路を進んでみたり、行き止まりのフロアで壁を触りながら一周したり、秘境につながるだろう隠し通路を探して歩き回っているのだが、それらしきものを見つけることができないでいる。

 一階層ということもありアルストはソロで、アレッサとエレナはコンビで、キングベアーを倒した時のクエストと同じ布陣で挑んでいるのだが成果はなかった。

 さすがにおかしいと感じ始めたアルストの指示で一度合流した三人は、探索を終えた場所の確認を行うことにした。


「入口から右側はほとんど終わっています」

「左側も終わっているぞ」

「左右どちらも奥の方だけが残っているみたいですね」

「……入口に近い場所にあるはずはないか?」


 秘境と呼ばれるだけの特別な場所である。バベルに入って早々に見つかる場所にはないのだろう。

 危険もあるとなれば、奥の方への探索は三人一緒に行動するべきかもしれないと判断したアルストは三人で奥の方へと進んでいく。

 まずは右側の奥を隅々まで確認していくが何も見つからない。

 そのまま左側へと向かうが、ここでも何も見つからなかった。


「…………何なんだこのクエストは! 何も見つからないじゃないか!」


 しびれを切らして声を上げたのはエレナだった。

 アレッサも困惑顔でアルストを見ているのだが、頼みのアルストも答えを見いだせずにいた。


「通路やフロアは全て見て回ったぞ、どういうことだ?」

「ど、どこかに見落としでもあったんでしょうか」

「絶対にあるはずがない! それに、もう一回同じことをしろと言われても絶対に嫌だぞ!」


 エレナの意見にはアルストも同意だった。

 ただでさえ時間を掛けて見落としがないようにしていたにもかかわらず見つからないからもう一度、というのはあまりにも時間が無駄になってしまう。


「……何かを見落としているのか? だが、なんだろう」


 アルストは過去にプレイしたゲームの知識も総動員して必死に考えを巡らせるが、これといった閃きは浮かんでこない。

 エレナの怒りが爆発しそうになったその時、口を開いたのはアレッサだった。


「……あのー、見ていないところが一ヶ所だけあります」

「えっ?」

「そ、それは何処だアレッサ!」

「えっと、ここです」

「「……えっ?」」


 アレッサが示した先にあったのは――ボスフロアへ続く大きな扉だった。

 確かにボスフロアには足を踏み入れておらず言っていることは分かるのだが、そんなことがあり得るのだろうか。


「……いや、あり得るか」


 一階層のボスモンスターに何度も挑もうなんて物好きはそうそういないだろう。

 それにボスフロアを飛ばして二階層に上がる場合はボスフロアへ入ることなく自動的に階段の前へ移動してしまうので探索のしようがない。

 初めて一階層のボスモンスターと戦う初心者が隠し通路をわざわざ探すとも思えないので、秘境への入口を隠すならもってこいの場所なのだ。


「クエストを諦める前に、一度確かめてみましょうか」

「そうだな。それで見つからなければクエストを諦めよう」

「今なら二人でもきっと倒せますしね」


 これでダメなら諦めよう。一階層のボスフロアなんだから、もし違ったとしても倒して終わりだ。

 そんな軽い気持ちでボスフロアに進出した三人だったのだが、目の前に現れたボスモンスターを見て困惑する。


「なんだか違くないか?」

「そうですね。まさかレアボスモンスター?」

「いや、俺が戦ったレアボスモンスターとも違います」


 武器商アスラでもなく、武神ゴルイドでもない、謎のボスモンスターがボスフロアの中央で佇んでいる。

 その姿を見たアルストは確信を得た。


「アレッサさんの予想はビンゴだったみたいですね」

「えっ?」

「アスラでもない、ゴルイドでもない謎のボスモンスター。あれが秘境を守るボスモンスターだと思いませんか?」

「なるほど。ならば、奴を倒せば秘境への入口が現れるということか」


 それぞれが武器を手にし、アルストとエレナはスキルを発動。

 アルストはさらにアスリーライドと剛力の腕輪に装備を変更する。

 七色の指輪も装備しようかと考えたのだが、そこは諦めた。ダーランダーとの戦闘に関しては二人に告げていないことだったからだ。

 準備を整え、三人はどれだけの強さを持っているのか分からない謎のボスモンスターが佇むボスフロアへと足を踏み入れた。


『オオオオオオオオオオォォッ!』


 三面六臂の人形ひとがたモンスター。

 それぞれの手にはゴルイドと同じ大剣、大槍、大斧、杖、さらには大盾を二つ手にしている。

 頭上に表示された名前とHPヒットポイントを確認すると、見た目通りの名前だった。


「後光神アシュラか」

「腕が六本ですね」

「ゴルイドが四本だったから、ゴルイドよりも強いと思った方がいいかもしれないな」


 警戒を強めるように指示を出したあとは、アルストとエレナが左右に分かれて前に出る。

 アレッサはいつでも魔法を放てるように準備を始めた。

 アシュラは三面をそれぞれに向けて武器と大盾を構える。

 最初に仕掛けたのはアルストだ。

 エレナが遠距離攻撃を準備しているのを視界に捉え、アルストがアシュラの気を引こうと接近戦を試みた。

 左の大盾が地面に突き刺さり正面を防がれると、大盾の左右から大剣と杖が振り下ろされた。

 回り込む暇もなくあえなく後退、距離をとってから回り込もうとするが大盾が引き抜かれてアルストの接近に備えている。


「ロングジェベリン!」


 飛ぶ刺突がアシュラめがけて突き進むが、こちらは右側の大盾に防がれてしまう。

 その直後に腰を落としてエレナめがけて駆け出したアシュラ。

 アルストがスマッシュバードを放つもやはり大盾に防がれてしまう。

 そこに放たれたのがサンダーボルトだった。

 頭上から撃ち落とされたサンダーボルトはアシュラの脳天を直撃してその動きを僅かではあるが止めることに成功した。


「ここだ!」


 アスリートを発動して一気に間合いを詰めたアルスト――だったが、ここで一つの誤算が生まれてしまった。


「どわあっ!」


 アスリート発動から着地と同時にもう一歩踏み出したのだが、パッシブスキルである一瞬の煌めきによるまさかの加速によってアシュラを通り過ぎてしまった。

 慌てて立ち止まったアルストの目の前には口を開けたまま固まっているエレナが立ち尽くしている。


「……な、何をやっているんだ!」

「ごめんなさい!」


 エレナの怒声に謝ることしかできないアルスト。

 そこに響いてきたのはアシュラの咆哮。


『オオオオオオオオオオォォッ!』


 アシュラは六臂のすべてを二人に向けて駆け出してきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る