第37話:討伐クエスト①
「な、何なんだこいつは!」
「二階層でこんなモンスター見たことありません!」
「おそらくイベントボスモンスターです!」
駆けつけたアルストは声をあげると即座にアルスター3を構えてスマッシュバードを放つ。
アレッサとエレナの間を抜けて直進していく飛ぶ斬撃は大きいマッスルベアーに直撃した。
『グルルルルゥゥ』
「ぜ、全然減ってない?」
遠距離攻撃スキルとはいえアルストのレベルは16である。
二階層に現れたイベントボスモンスターであれば最低でも一割は削れると判断していたのだが、目の前のイベントボスモンスターには一割以下のダメージしか与えられていなかった。
「名前は──剛力王キングベアー?」
見たまんまの名前に警戒心を高めたアルストはすぐに耐久力上昇を発動。
一撃でも浴びてしまえばHPを大きく削られるかもしれないとの判断からだ。
腕力、耐久力を兼ね備えたキングベアーを前にしてエレナを最前線に立たせるか迷っていると、キングベアーから仕掛けてきた。
「ちいっ! 考えている暇はないか!」
アルストは再び駆け出して最前線へと躍り出ると剛腕を振り抜いたキングベアーの右腕にアルスター3を叩きつける。
「うおっ!」
「アルスト!」
レベル16の腕力を以ってしても押し返されるだけでなく、大きく後方へ弾き返されてしまった。
着地してキングベアーを睨みながら舌打ち、腕に残る痺れが警鐘を打ち鳴らしている。
「こいつ、本当にイベントボスモンスターなのか?」
「まさか、ここでもレアボスモンスターとか言わないよな?」
「……それは、倒してみたら分かりますよ!」
腕を軽く振って痺れを解消すると再び駆け出した。
今度は右回りにキングベアーへと近づくと、左回りでエレナが駆け出していく。
アレッサもフレイムの準備を完了しており、一気呵成の攻撃が準備完了。
だが、キングベアーもただ黙って待ち構えているわけではない。
両手を重ねて腕を振り上げると、そのまま地面へ叩きつける。
キングベアーの正面にある地面が砕けていき、その先にいたのはアレッサだった。
「まさか、遠距離攻撃!」
「アレッサ!」
「フ、フレイム!」
咄嗟の判断でフレイムを地面へと放ったアレッサ。
砕けていく地面の先にフレイムが着弾すると、地割れの軌道が左右に逸れていく。
地割れはアレッサの三メートル手前で分かれ、後方の壁に激突してようやく収まった。
「エレナさん!」
「任せろ! ブレイクスピア!」
アレッサが狙われたことで怒り心頭のエレナがスピルニアを渾身の力で振り抜く。
黄色い閃光がキングベアーを包み込み麻痺を付与する。
「パワーボム!」
そこにアルストが飛び上がり大上段からのパワーボムを叩き込み追い打ちを掛けた。
エレナとアルストの近距離攻撃スキルをぶつけたのだ。二階層のイベントボスモンスターならば最低でも半分は削り取れると読んでいたのだが――
「ま、まだ三割しか減ってないだと!」
「こいつ、まさか本当に!」
焦りを含む声に続いて響いてきたのはキングベアーの雄叫び。
『グルオオオオォォッ!』
「もう動けるのか! まさか麻痺耐性持ち!」
「そんな!」
「エレナさん、一旦下がってください!」
アルストの指示に従いエレナが一度アレッサのところまで後退する。
その間アルストはキングベアーの気を引くために付かず離れずを繰り返して回避に専念している。
「こんなことなら、ステイタスを振り分けておくんだった!」
雷獣ダーランダーを倒した時とモンスターの群れを倒した時で二度レベルアップしているアルストだったが、レアボスモンスターのことを口にしてしまいテンパっていたため振り分けをすっかり忘れていたのだ。
さらに脚当も今はアスリーライドではない。装備の入れ替えができればいいのだが、間髪いれずに攻撃を繰り出してくるキングベアーを目の前にしてそのような暇はなく、前線をエレナ一人に任せられるかと言われれば不安の方が大きいので任せられない。
結果、アルストは攻略法を見いだせないままただ時間だけを消費してしまっていた。
「ヤバい、後五分しかない!」
時間制限があるクエストにおいて、今以上に無駄な時間はない。アルストは決断に迫られていた。
「……くそっ! エレナさん!」
「なんだ!」
「一瞬だけキングベアーの注意を引いてください!」
「わ、私がか!」
「お願いします!」
危険な賭けだ。
初心者救済処置があるとはいえ
それでもクエストをクリアするためにはエレナに託すしかないのだ。
「……分かった、どれくらいだ!」
「一〇秒お願いします!」
そう告げたアルストは一足飛びで後退すると、入れ替わる形でエレナが前に出てくる。
その間に放たれたロングジャベリンがキングベアーに突き刺さりターゲットがアルストからエレナに切り替わる。
正面から対峙したエレナはゴクリと唾を飲み込んだ。
「こ、これは……」
一階層のボスモンスターと対峙した時は左肩に受けた一撃による痛みから動きが鈍ってしまった。
だが今回は違う。キングベアーから放たれるプレッシャーに押しつぶされそうになっているのだ。
「エレナさん! 戦う必要はありません、守りに専念してください!」
アルストの助言を受けたエレナはキングベアーの射程範囲ギリギリの距離を保ちながら時間を稼いでいく。
目の前の敵が鬱陶しくなったのか、キングベアーは再び地割れを打ち出そうと両手を上げた。
「――よし!」
すでにストックが三つまで回復していたアスリートを発動して振り下ろす直前のキングベアーめがけてアルスター3を叩き込むと、両腕はエレナめがけてではなく超至近距離からアルストめがけて振り下ろされた。
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