第29話:まさかのレアボスモンスター

 まさか、と思っていたことが現実になっていた。

 スペックを考えると納得できる部分もあったが、いざ答えを示されると唖然とするものだ。


「……本当に、レアボスモンスターかよ」


 発売当初からプレイしているプレイヤーでも見たことがあるかないか分からないというレアボスモンスター。そのような存在に、プレイを初めて24時間も経たないうちに二回も遭遇するなどあり得ないことだった。


「でも、それならよく勝てたもんだな。こんな固有能力で」


 アルストが驚いたことは、レアボスモンスターをソロで倒せたこと。

 固有能力の補正効果はたったの10%。最弱の固有能力なのだ。

 ゴルイドの時には二回の救済処置を使用して倒しきったのでまだ納得できるのだが、ダーランダーに関しては救済処置を使用せずに倒しきることができた。

 アスリーライドがあったからといって、こうも上手くいくとは思うはずもない。


「と、とりあえずステイタスから見てみようかな」


 自分を落ち着けるためにも、アルストはまず新しいスキルを確認することにした。


「……アニマルブレイダー?」


 効果欄を見てみると、【種族が獣に類するモンスターに大ダメージを与える】と書かれている。


「……今さらかよ! それにこれ、ヒューマンブレイダーと同じ効果じゃん!」


 そう言ってしまうのも仕方がない。つい今しがた獣との戦いを終えたばかりなのだから。


「……いや、待てよ。これってもしかして、レベルアップの時に倒したモンスターも関係してるのか?」


 ゴルイドとダーランダーを倒したタイミングで習得したスキルである。そう考えるのが普通なのだが、そうなると耐久力上昇を習得した理由が分からなくなる。


「……俺自身のレベルアップの報告でスキル習得って言ってたな」


 ヒューマンブレイダーとアニマルブレイダーはアルストのレベルアップで習得し、耐久力上昇は剣術士のレベルアップで習得したと考えられる。


「一定のレベルで習得できるスキルと、特定のモンスターを倒した時に習得できるスキルの二種類ある可能性だってあるか」


 このあたりもアリーナに確認するか、一度ログアウトして攻略サイトを見てみようと思考を切り替える。

 次に目を向けたのはアイテムボックスだ。

 前回のゴルイドの時には高レアリティのアイテムばかりが手に入っている。

 すぐには使えないものばかりだったが、それでも嬉しいものなのだ。


「えっと……あー……うん、アリーナさんのところに行こう」


 アイテムボックスを確認した結果、アルストには手に負えないアイテムばかりだった。

 素材アイテムの【ダーランダーの雷牙らいが】に【砕けた鎧(ライザンガ)】、そしてアクセサリーの【七色の指輪】。

 レア度を見てみると全てが7もある。


「……この指輪、特殊効果がすごいなぁ」


 七色の指輪の特殊効果はする効果である。

 全属性というのは魔法に関する補正や耐性だと判断したアルストはすぐに装備したい気持ちを抑えてアイテムボックスに入れたままにする。

 そしてアスリーライドを元々の脚当に変更して立ち上がった。


「あの装備のままアーカイブに戻るわけにはいかないからな」


 初期職のアルストが高レアリティのアイテムを装備していれば何かと目立ってしまう。アリーナの言いつけを守る形で装備を変更。

 回復薬でHPヒットポイントを五割まで回復させた後、ボスフロアを出て降りる階段へ向かおうとした時だった。


「――アルストさん!」

「……あれ、なんでアレッサさんとエレナさんが?」


 通路の奥からアレッサとエレナが緊迫した表情で近づいてくる。

 首を傾げていると、その理由がさらに奥から姿を現した。


「げっ! な、なんでモンスターを引き連れているんですか!」

「た、助けてくれ!」

「私達だけじゃあ倒しきれません!」


 二人だけで何故二階層まで上がってきたのかを追求したかったが、今はそんなことを考えている場合ではない。

 アルストは残り三割のHPヒットポイントに気を付けながら戦わなければならないが、とりあえず駆け出すと二人と入れ替わる形でモンスターの群れの先頭にいたマッスルベアーにアルスター3を叩き込んだ。


『グルアッ!』

「えっ?」


 体毛と筋肉により高い耐久力を見せていたマッスルベアーなのだが、今回はまさかの一撃で光の粒子へと変化してしまった。

 頭の中でアニマルブレイダーの効果が頭をよぎったが、すぐさま次のモンスターへと斬りかかり思考を無理やり切り替える。

 モンスターはマッスルベアーだけではなく、トレントやエアデビルが前線に上がってきており、さらに後方にはメイジシャンが魔法を発動している。レベル15に上がったとはいえ一人で相手取るには難しい数だった。


「エレナさんも前線へ! アレッサさんは魔法で援護をお願いします!」


 斬り結びながらもアルストは後方の二人へ指示を飛ばす。

 アレッサはすぐさま魔法の発動準備に入り、その姿を見てエレナが駆け出した。

 前線に戻ったエレナの刺突がエアデビルの胸を貫き光の粒子に変えると、背中合わせでアルストと並び立つ。


「どうしてこんなところに二人で来たんですか!」

「アレッサがアルストを追い掛けようと言ったのだ! お前こそどうして一人でこんなところにいるのだ!」

「なっ! ……そういうことか」


 何故自分の居場所がバレたのかを考えた結果、すぐにその答えは導き出せた。

 アルストは現在、二人とパーティを組んでおり、パーティメンバーがログインしていればその居場所を確認することができる。

 それがアーカイブ内ならば細かな場所まで分かるのだが、バベルにいた場合は細かな場所までは分からず、ただバベルにいるとしか表示がされない。

 二人はアルストを追い掛けて一階層を探索し、いないと判断して二階層まで探しに来てくれたのだ。


「説明は後です! ここを一気に片付けます!」

「ちっ! 分かった!」

「魔法、撃ちます!」


 アレッサの言葉を受けて二人は壁際に移動する。

 その直後にはフレイルが三発通り過ぎてモンスターの群れの中心で爆発が巻き起こる。


「せっかくなのでエレナさんが最前線で戦ってください! 俺は脇を抜け出たモンスターを仕留めます!」

「人使いが荒くないか!?」

ゴールドを稼ぐためですよ! 大丈夫、何かあれば絶対に助けますから!」

「ぐぬぬっ、分かったよ!」


 Gのためと言われれば嫌と言えないエレナである。アルストを睨んではいたものの即座に槍を閃かせてモンスターを屠っていく。

 アルストはアレッサにモンスターが迫らないように視線を巡らせて、エレナが討ち漏らしたモンスターを一撃で斬り捨てていく。

 アレッサもただ見ているだけではなくフレイルを発動してモンスターを吹き飛ばしているので意外とあっさり群れを仕留めることに成功した。

 槍を振り続けたエレナは肩で息をしているものの、HPは七割を残しているので問題はないだろう。


「それでアルストさん。どうして一人でこんなところにいるんですか?」


 エレナが追及してくるだろうと思っていたアルストだったが、後方からの声に驚いて振り返った。

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