第14話:二階層

 さて、これからどうしようかとアルストは考えた。

 当初の目的であった一階層のボスモンスター討伐を意外にあっさりと達成してしまったこともあり時間が大いに余ってしまったのだ。

 早い段階で魔導剣術士マジックソードへ転職したい気持ちがありレベル上げをするのが一番なのだが、一階層では多くの経験値は望めないだろう。

 そうなると、二階層への進出ということになる。


「……まあ、ボスモンスターに挑まなければ大丈夫か?」


 一階層と二階層で大きく変わることはないだろう、というのがアルストの判断だった。


 ボスフロアの奥にある階段からバベル二階層へと進出したアルストは、すぐに目新しいモンスターとエンカウントした。


「名前は……エアデビル?」


 身長はアルストの腰くらい、紫色の体皮なのだが顔にあたる部分だけが肌色。右手に三叉の槍を握りしめ、こちらを見ながらニヤニヤと笑っている。


「……様子を伺っていても始まらないか」


 アルスター3を右手に持ち、一気に駆け出して間合いを詰めるアルスト。

 その間も全く動く気配を見せないエアデビルへすれ違いざまの横薙ぎを放つ――が、手応えはない。


「あれ?」


 反撃を恐れてそのまま駆け抜けると、距離を取ってからすぐに振り返る。


「……い、いない?」


 実は倒していたのか。いや、それならば光の粒子が広がっているはず。これほど早くに余韻が消えるとも考えにくかった。


『――キャハハッ!』


 鼓膜を震わせたのはエアデビルの嘲笑。

 聞こえてきた方向へ顔を向ける。その先は頭上だ。


「つ、翼だと!」

『キャハハーッ!』


 三叉の槍をこちらに向けて急降下してきたエアデビル。

 アルスター3を叩きつけて迎撃するものの、エアデビルはすぐに上昇してしまい反撃に移ることができない。

 モスキートーンも飛んではいたものの比較的地上にいることが多く、飛び回るということはなかった。

 制空権を取られるとこれほどまでに不利になるのかと、アルストはこの時初めて実感した。


「他のゲームでも、上を取ると有利ってのは、本当だなっ!」


 ただアルスター3を叩きつけるだけではジリ貧になると判断したアルストは、ここでスキルを発動することにした。

 先ほどと同じように急降下してくるエアデビル。

 カウンターを当てるように、飛ぶ斬撃を放つ。


「スマッシュバード!」


 スマッシュバードと三叉の槍が激突、エアデビルは飛ぶ斬撃に意表を突かれたのか空中でバランスを崩している。

 そこにアルストが駆け出して上段斬りを放つ――三叉の槍へ。


『ギャヒッ!』


 バランスを崩していたエアデビルは軌道を無理やり下へと向けられてしまい、三叉の槍が地面に突き刺さってしまう。

 引き抜こうとするが抜けず、その無防備な背中めがけてアルスター3の刃が閃いた。


「ふっ!」

『ギャフウッ!』


 HPヒットポイントがみるみる減っていったかと思えば、たったの一撃で全損させることに成功した。

 光の粒子へと変わるエアデビルを見て、アルストは自身の手に視線を移す。


「……あれ?」


 あまりにも呆気ない結末に困惑してしまう。

 通常モンスターとはいえここは二階層である。大きく変わることはないと思っていたが、一階層のモンスターとも実力は上がるはず。それがまさかの一撃必殺だったのだ。


「もしかして、結構上の階まで行けちゃうんじゃないか?」


 ボスモンスターの実力は分からないものの、通常モンスターであれば問題なく倒せる可能性が出てきた。

 この後数匹を倒してからにはなるが、それで手応えを掴むことができればボスモンスターに挑むことも視野に入れようと考え始める。


「しかし他のプレイヤーと全く出会わないな。まあ、こんな遅れて参加するプレイヤーなんて俺くらいなものかもしれないな」


 他のプレイヤーは下層をすでに突破して上層に挑んでいるのだろう。

 現在では三〇階層まで解放されているが、そこもすでに攻略されている可能性だってある。

 そうなると一階層や二階層でウロウロしているプレイヤーに出会うことの方が珍しいのかもしれない。

 さらに歩みを進めていくと、先ほどと同じエアデビルを始め、一階層でも見たモンスターや新しいモンスターを見つけては討伐していく。

 一番強敵だと感じたのが熊のモンスターだった。


「マッスルベアーって、明らかに肉弾戦特化のモンスターだな」


 アルストの予想は的中しており、敵を見つけるやいなや強靭な四肢を使って突進して来たのだ。

 遠くからただまっすぐに突っ込んでくるマッスルベアーに対して、アルストは早い段階から回避行動を取っていた。だが――


「うおっ!」


 猪突猛進だと思っていたマッスルベアーは、その強靭な肉体を使って直角に曲がりアルストを逃さなかった。

 慌ててアルスター3を盾代わりにするが、加速を乗せたマッスルベアーは岩石の弾丸にも似た迫力を持っており、弾き飛ばされてしまう。

 壁に背中を打ち付けてようやく止まったものの、二階層に上がって初めてHPが四分の三まで減少してしまった。


「この野郎、だったらこっちから行ってやるよ!」


 再び力を溜め始めていたマッスルベアーめがけてアルストから接近すると高く跳躍――スキルを発動する。


「パワーボム!」


 力を溜めていたせいで身動きが取れなかったマッスルベアーに直撃したパワーボム。

 一階層のボスモンスターに多大なダメージを与えたアルストの切り札は、マッスルベアーのHPを全損させることに成功した。


『おめでとうございます。アルスト様のレベルが11に上がりました』

『おめでとうございます。剣術士ソードメイトのレベルが11に上がりました』


 レベルが11に上がったのを聞いたアルストは決断した。


「――うん、一度戻ろう」


 通常モンスターであるマッスルベアーに不意を突かれたことでボスフロアへの進行を諦めた。

 今回はマッスルベアーだったから生きているようなもので、これをボスモンスターにやられていればこちらが全損、よくても半分以上のHPを削られていたかもしれない。

 初心者救済処置も後一回は残っているのだが、使った上でボスモンスターを倒せなかったでは意味がないのだ。


「まだ時間はあるし、準備をしてから挑もうかな」


 アルストは来た道を引き返すと、一階層へと降りて行った。

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