天上のラストルーム

渡琉兎

第一章:天上のラストルーム

第1話:プロローグ

 大手ゲームメーカーがとあるゲームの開発について大々的に発表した。

 現代社会において多くの世代から爆発的な人気を誇るVRMMO。

 すでに数多の同様なゲームが発売されている中、大手ゲームメーカー──ダブルミリオンはVRゲームへの進出を拒んできた。

 そんなダブルミリオンが満を持して発表したVRゲームの名前、それは──


 内容を簡単にまとめてしまえば、天へと伸びる塔の最上階へと上がり、ラスボスを討伐しましょう。というゲームである。

 VRMMORPGのプレイヤー達はダブルミリオンが遂に! という期待感を胸にホームページを覗いたのだが、概要を見ると皆が皆ガッカリしただろう。

 結局、ダブルミリオンも他のメーカーと同じなのか、どこにでも転がっているゲームと何ら代わり映えしない内容なのか、と思ってしまった。


 だが、ブランド名とは何を差し置いても強いものだった。

 あのダブルミリオンが──現代社会においてのゲームメーカーのトップが──満を持して発表したのだから、何かしら強みがあるのだろうとユーザーは判断したのだ。

 結果、発売一週間で売り上げ本数一〇〇万本を達成。さらにその勢いは全世界で一ヶ月以上衰えを見せることがなかった。


 その要因となったのは、プレイヤー達が発信したSNSにある。

 ──映像が凄い!

 ──臨場感半端ねー!

 ──イベント盛り沢山だよ!

 といった称賛の声が多数を占めたのだ。

 プレイヤーの数は日を重ねる毎に増えていき、今までのVRMMORPGにおいて最大プレイヤー数が二◯◯◯万人だったのに対して、天上のラストルームは倍以上の五◯◯◯万人へと到達した。


 映像美、臨場感、そしてプレイヤーを魅了する様々なイベントを打ち出す運営に、多くのユーザーがのめり込んでいく。

 中には食事を摂らずに何時間も連続プレイするユーザーが続出し、プレイ中に突如強制ログアウトする事態まで発生した。

 それらのプレイヤーのほとんどが病院行きだったというのは全世界でニュースになったほどだ。


 それほど大ヒットした天上のラストルームに、一人の青年が三ヶ月遅れでプレイを開始する。

 最近になりようやく時間に余裕ができた青年が、日雇いの慣れないバイトを繰り返し、ようやく貯めたお金でゲーム機本体とソフトを購入した。

 発売初日からプレイしているプレイヤー達やトップランカー達は果てしなく先にいるのだろう。

 この頃になると新規ユーザーはプレイしづらくなっており、青年はソロで黙々とプレイしようと決めていた。

 VR専用のHSヘッドセットを頭に装着した青年──矢吹刃太やぶきじんたは、天上のラストルームのチュートリアルを受けるべくログインしたのだった。

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