第123話 真実とは?


 フルーツをナイフで剥こうと思っていた矢先、フィーが後ろからトントンと肩を叩いてくる。


「エル。私がやるわよ」

「いいのか?」

「えぇ。エル、まだ本調子じゃないでしょ?」

「そうだな。ここは任せよう」

「うん。任せて」


 そういって俺は、彼女に小さなナイフを渡す。本調子ではない、といっても何か大きな負傷があったわけではない。特に大きな問題はないのだが、今回の騒動において俺はかなり力を使った。


 その反動もあって、今は本調子ではないということだ。別に入院することのほどでもないしな。


「先生、調子悪いんですか?」


 アリスが心配そうに見上げてくる。


「少し力を使い過ぎただけだ。別にどうってことはないさ」

「そうですか……」


 いつもは明るく振る舞っているのに、少しだけ顔を曇らせる。今回の件は、別にアリスに責任はない。彼女は騒動が始まった時からずっと、地下に幽閉されていたのだから。


 しかし時折、こうして表情を曇らせる時があるのだ。


「そういえば、街はどうなっていますか?」

「復興はかなり進んでいるな。あと一ヶ月もすれば、ほとんど元通りになるんじゃないか?」

「そうですか。それはよかったです」


 微笑を浮かべるアリス。


 街の復興は着実に進んでいる。錬金術師も借り出されて、その力を存分に振るっている。俺の予想通り、一ヶ月後には大体が元どおりになっているだろう。


「はい。アリス王女のために、りんごを剥きましたよ。どうぞ」


 後ろからフィーが皿に置いたリンゴのかけらをそっと渡してくる。


「ありがとう。フィー」


 いつもはよく喧嘩をしている二人だが、今はその雰囲気も特にない。アリスは感謝の言葉を述べてそれを受け取ると、手にとってリンゴを美味しそうに頬張るのだった。


「ん〜っ! やっぱり美味しいですね」

「それならよかった」

「ねぇ先生……」

「どうした?」

「今回の件は、その……私が……」


 と、暗い顔で語ろうとするのでポンポンと頭を軽く叩く。


「大丈夫だ。別にアリスの責任なんかじゃない」

「でも……っ! 私がオスカーお兄様を止めることができていれば……っ!」

「そんなことを言っても、終わったことは仕方がない。アリスが無事だっただけでも、俺は十分だ」

「そう、ですか。でも、先生にそう言ってもらえて嬉しいです」


 陰りはある。しかし、少しでも切り替えようとしているのか彼女はじっと俺の瞳を見つめてくる。


「はいはい。そこまでですよ。私もいるんですからね?」

「あぁ。すっかり忘れていました。フィーってば、存在感が薄くなりましたかぁ?」

「……あらあら。アリス様ってば、とってもお元気なんですね」

「うふふ」

「ふふ」


 どうやらまた不穏な空気になる様子だが、これもまた一種の醍醐味なのだろう。むしろ二人がいつものように言い合いをすることすら、なんだか安心するような気がした。

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