エンドレス スプリングⅣ
「宣人、俺のボードに掴まれ!」
兄貴が助けに来てくれた、胸に言い表せない感情が詰まってくる。
艇速を落とした兄貴のボートの後部にしがみつく。
俺のボードは岬の突端方向に流されている、
兄貴は俺の重量増加分、鈍くなった自分の艇速を高めようと
何とかボードをトリムして、
岬の突端は二つの潮の流れがぶつかりあい、非常に流れが速い。
もう少し、という所で追いつけない……
「兄貴、俺のボードの回収は無理だよ!」
「馬鹿野郎! このままじゃ岸まで戻れないんだよ。」
兄貴の言う通り、短いボードでは浮力が足りないので、
二人分の重量を岸まで運べない……
俺のボードを回収する訳が理解出来る。
兄貴が渾身の力を込めて、セイルを勢い良く
俺の体重分のハンデを吹き飛ばすような鬼気迫る形相だ。
「兄貴……」
「宣人、しっかりボードに掴まっていろよ! 絶対に諦めるんじゃないぞ」
次の瞬間、勢いよく風が吹き始め、一気にボードが加速する。
春の嵐と呼べる位の強風が、ゲレンデに襲いかかる。
完全なオーバーセイルだ! 兄貴の張ったセイルサイズでも強風に対応出来ない。
コントロールを失った兄貴のボードはあっという間に流されていた
俺のボードに激突してしまう。
「があっ!!」
兄貴が苦しそうな声を上げた……
必死でボードにしがみつく俺は、兄貴の異変に気が付かなかった。
兄貴は俺のボードに激しく衝突した時、鋭いフィンがウェットスーツを貫いて
腹部に刺さっていたんだ……
「……せ、宣人、お前は俺のボードを使って浜に戻れ」
この状況にそぐわない兄貴の笑顔に、その時の俺は何も感じ取れなかった。
兄貴は分かっていたんだ……
今の状況では一緒に行動出来ないことに。
「でも、兄貴はどうするの!!」
「馬鹿、俺は大丈夫だよ! お前の方が体力の限界だろ、
俺のボードで帰れ、セイルを開き気味なら浜まで戻れるだろ」
「だめだよ! 兄貴を置いていけないよ……」
「このままじゃ、俺達二人とも遭難しちまう、
お前が浜まで帰って、救援を頼んでくれ……」
それでもぐずぐずしている俺に、兄貴が一喝する。
「宣人! もたもたするんじゃない」
兄貴は俺に自分のボードを預けてきた。
「兄貴、ここで待っててくれ! すぐに助けに来るから」
兄貴は、壊れた俺のボードにしがみつく。
風はどんどん強くなっていく、
兄貴から借りたセイルセットでも、完全にオーバーセイルだ。
セイルを開いて強風を逃がしながら、ビーチに近付く。
浜辺に居た他のウィンドサーファーやジェットスキーヤーに
助けを求める。
「お願いです、沖に流されている人が居ます、助けてください!」
携帯電話を持っていた人が警察や消防に救援を求めてくれた。
「俺がジェットで出てやるよ!」
ジェットスキーの一人が名乗り出てくれる。
「お願いします!」
俺もジェットスキーの後部座席に乗せて貰い、案内する。
頼む、間に合ってくれ……
一段と風が強くなってきた海面は動力のあるジェットスキーでも、
押し寄せる高い波で中々進まない。
兄貴の居る場所に急いで貰うが、
既にその海域には兄貴もボードに見当たらない……
俺の身体の奥底から、黒い不安があふれ出す。
言語化出来ない気持ちの中で、やっとの事で、
喉に言葉が出る。
「兄貴! 何処に居るんだ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます