4-15 千里耳と火炙りの刑

「私は、最初っからゲームが始まる前から、ブリュードたちが持ち込んだ作戦に気づいていたんだよ。このゲームの”トリック”にね。それらをみんなに伝えた上で、みんなと一緒に演技してたんだ。敵チームを騙すために」


 ラビューは、そう言った。

 確かに、俺たちは、”ウインド・ダイス”を受けないという決定を下そうとした瞬間に、ラビューからの説得を受けた。

 それこそが、”ウインド・ダイス”で勝つための作戦であり、その作戦には勝算があると思ったので、ゲームをプレイすることになったのだ。


 結果は、ラビューの目論見通りに進んでいった。

 敵と打ち合わせでもしてたんじゃないかと疑いたくなるほどに。

 俺はというと……、正直言って、ラビューの話には何一つ証拠がなく、半信半疑であったために、目の前でのゲームがラビューの思い通りに進んでいくことに対して、いちいち驚かされてしまっていたのだ。

 オチを知っているにも関わらず、びっくり仰天の連続だった。


 感心させられた。


「私は魔法を使うことができる。その魔法とは、


『探知系 no.398「千里耳センリミミ」』


この魔法を使うとね、小さい音から遠くの音まで、ありとあらゆる音をキャッチすることができるんだ。ようは、めちゃくちゃ耳がよくなるんだよ」


 ラビューの得意としている魔法は、兎の大きな耳にぴったりのものであった。


「そして、その耳がとある音をとらえていたんだ。ずっと、うるさいなって思ってたんだよ。”ウインド・ダイス”に使う道具を取り出したときからね。その音の発生源は……、それだ」


 ラビューがそう言って指差した先には、台座にセットされ、何度も振られることになった大サイズのサイコロがあった。

 このサイコロこそが、ラビューを煩わしいと思わせる原因となった道具であった。


 通常の耳の俺には、今でも何も聞こえないのだが、魔法を使ったラビューは、その音を逃さなかったのだ。


「ずっと鳴り続けていた音っていうのは、そう”呼吸音”だよ」


 ”呼吸音”とは、もちろん何者かが息をする音のことである。

 誰かが呼吸する音。

 人間。もしくは、何かしらの生物が。


「無生物のサイコロが息してるわけないよね。でも、サイコロは確かに息をしている。何度も確認したから間違いない。そうなると答えは見えてくる」


 ラビューは、いつの間にか黒い玉のようなものを持っていた。

 俺はそのアイテムのことを知っていた。

 ”火種”だ。


 ラビューが火種に小さな傷をつけると、サイコロに向けて投げつけた。

 サイコロ周辺で小さな火の手が上がる。サイコロは、炙られるような格好となってしまった。

 すると、サイコロに見えていたものは変形をして、生物になった。


「ギョエエエエ」


 そんな悲鳴をあげてテーブルの上から、逃げていってしまった。


「ふーん。正体はカメレオンだったんだ」


 ラビューは、そう言った。

 サイコロはカメレオンに化けた。

 いや、化けたわけではなく、化けてた姿から元に戻った。

 俺たちは、ブリュードたちがイカサマをしていた決定的な証拠をつかんだのであった。

 ラビューは、種明かしを続けていく。


「サイコロに仕掛けがあることはわかった。じゃあ何のために?そんなのは決まっている。ゲーム中に、サイコロの目を自由自在に操作するためだよ。「強」「弱」の風によって、出目の確率がどうこうとかルール説明で言ってたけど、あんなのはどうでもよかったんだね。どんな数字でも構わない。全部好きに決めることができたんだから。サイコロに化けたカメレオン、”カメレオン・ダイス”に指示を出す方法は「小声」。常人には聞けない音量で、指示を出していたんだ。「1」とか、「2」とか、「3」とか。耳のいい人語を解するように調教した動物を使ったんだね。まあ、私、相手じゃ指示の内容が丸分かりだったけど。相手が悪かったね。トリックに気づいたのは、ランランが道具のチェックをしていたとき。出目の確率が不自然にならないようにと、チェック中もずっと小声で指示を出してたよね。それで、私はゲームの道具に仕込まれたトリックに気づいちゃったんだよ」


 どんな目でも自由に操れるサイコロを使う。

 カメレオン・ダイス。

 それこそが、ブリュードたちがこの勝負に持ち込んできた作戦であり、イカサマだったのだ。


 そんなサイコロを使われてしまったら、”ウインド・ダイス”の対戦相手は必敗である。

 絶対に勝てない。


 しかし、ラビューはそのトリックを見破った。

 探知系の魔法『千里耳』で。


 そうなると、立場は変わる。

 逆転できる。


「あとは、ゲームで起きたことの通り。ブリュードたちは自分たちの指示によって、サイコロの目を操り、百発百中で当てていく。私はその指示を聞き取ることによって、同じく百発百中で当てる。指示は全部、サイコロが宙に舞う前に出してたよね。回転中では、カメレオンがはっきりと出目の数字を聞き取れないからかな?とにかく、これでパーフェクトゲームが達成できたんだよ」


 どちらも出目を絶対に外さない状態。

 これこそが、両チームが全出目を的中させ、40pt獲得できた理由であった。


「さて、ゲームの勝敗なんだけど…、”ウインド・ダイス”においてイカサマは禁止。カメレオン・ダイスを使ったことは当然、イカサマ。だからこの100万Dドリームは、私たちのものだね」

「あっ、てめぇ!」


 そう言うとラビューは、テーブルの上に置かれていた2つの100万Dドリームの札束をヒョイっとつかんだ。

 ブリュードはそれを止めようとしたのだが、間に合わなかった。


 そう。ゲームは、引き分けではない。

 イカサマを見破ったのだから、こちらの勝ちなのだ。

 こっちは、確かに動かぬ証拠を確かに見たのだから。


 俺は、100万Dドリームの札束で手遊びをするラビューに尋ねる。


「なあ、ラビュー。何で4ターン目までちゃんとやったんだよ。1ターン目が終わった時点で、大サイズのサイコロをこっちの手中に抑えちゃえば、イカサマは見破れただろ?わざわざ、4ターン目までやる必要ないじゃん」

「うーん。それは…、みんなが、いちいちびっくりしてくれて楽しかったからかな?」


 ラビューは、いたずらっぽく笑いながら、そう言ったのであった。

 …そう言うお遊びは、真剣勝負以外の場でやってほしい。


「さて、これで”ウインド・ダイス”は俺たちの勝ちになった。100万Dドリームはいただく。何か文句はあるか?」

「大有りだ。ゲームは引き分け。金返せ」

「返さない。ルール通りにお前らの負け」

「返せ」

「返さん」


 ブリュードとの不毛なやりとりをしてしまう。

 カラーギャングの連中は、一歩も引く気はなさそうだ。

 やれやれ、結局はこうなってしまうのか。まあ、儲かったからいいんだけどね。


 今にも襲いかかってこようとするブリュードたち一行の前に立ち塞がったのは、ランラン、リンリン、そしてロンロンであった。

 やる気満々。

 そして、ずっと溜まっていたやる気はようやく発散される段となった。

 両者の間に、これ以上の言葉が交わされることはなかった。


 先に攻撃をしたのは、カラーギャングたちだったか、それともランランたちだったのかはわからない。

 しかし、戦闘はすぐに終焉を迎えた。

 両者の戦闘に関して言うのならば、特筆して言及するほどのことは起こらなかった。

 5人を相手にしていたのだが、終始、ランランたちの圧勝。

 店内の備品をほぼ傷つけることなく、店の外へとつまみ出し、それでも暴れ足りない人を1人ずつ各個撃破していった。


 カラーギャングたちは、気絶した仲間を抱えて、夜の闇の中へと消えていってしまった。


 戦闘に参加していない俺とジェスター、ラビューはというと、100万Dドリームの札束2つを名残惜しそうに見つめているラビューから、ジェスターが金を没収した。


「ああ…」

「何か問題でも?」

「いや…、ないけど…。ないけど」


 たっぷりありそうな表情をしていた。


「まあ、いいよ。その100万Dドリームは、私をピエロ&ドラゴンに雇うのかどうかのプラス査定に加えておいてね」


 ラビューはそう言って、金のことをあきらめたようである。

 100万Dドリームは、チームの勝利ということで、ジェスターが店のために使うことになるだろう。

 まあ、もしも、今後ラビューがこのカジノで働くことになるならば、きっと還元されることもいつかあるさ。


 カラーギャングをぶっ飛ばし、軽い運動で一日の仕事を締めたランランたち兄妹は、帰宅の途についた。


 ラビューはというと、そう言えば、寝床を貸すことも臨時で雇う上での条件にあったな。

 そうなると、ジェスターのベットで一緒に寝ることになるのか…。それとも?

 ジェスターも女の子相手なら、自分のベッドに上げることを嫌がらないはずだけど…。



 俺は、ラビューをこの”店”兼”家”に泊める上で、もう一波乱起きそうな、嫌な予感がしていたのであった。

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