vsカラーギャング

4-9 ウインド・ダイス【1】

「”ウインド・ダイス”では、2対2で対戦するチーム戦のゲームだ。ゲーム中には、4人のプレイヤーが1人1回ずつ、大きなサイコロを振ることになる。計4ターン、ゲームをプレイするんだ。各チーム交互でサイコロを振る。チーム内でどちらのプレイヤーが先にサイコロを振るのかの順番は、各チームで自由に決定することができる。お互いのチームは、ターンごとに1〜6までのどの数字の目が出るのかを、話し合いで予想するんだ」


 ブリュードは、”ウインド・ダイス”のルール説明を開始した。

 4人が、1人1回ずつサイコロを振り、その出目を予想するゲーム、ということか。


「サイコロの目を予想するのには、2つある中くらいの大きさのサイコロを使う。それぞれのチームが1つずつサイコロを所持して、大きなサイコロが振られる前に、中サイズのサイコロのどれか1つの目を、上に向けてテーブルに置いておく。相手チームにどの目を予測したのかバレないように手で隠しておいてくれ。そのターンに大サイズのサイコロを振る担当になったプレイヤーが、サイコロを振った瞬間に、予測していた目をオープンする。あとは、中サイズのサイコロと大サイズのサイコロの目が一致しているかどうかによって、ポイントを手にすることができる」


 サイコロの目の予測もサイコロで行う、と。

 6面ダイスの目を、6面ダイスを使って予測すれば、過不足ない。


 これでテーブルの上に置かれた5つの道具のうちの3つの道具である、大サイズのサイコロ1つと、中サイズのサイコロ2つの使い道はわかった。

 問題となるのは、残された2つの台座である。

 今までのルール説明の中で、この台座は登場をしてこなかった。果たしてどう使われるのだろうか。


 そんなことを考えていたところで、ブリュードが続けていったルール説明の中で、2枚の台座がちょうど登場することになった。


「だが、このままではゲームは完全に、ただの運勝負になってしまう。ゲームには心理戦の要素も加えたい。そこで使うのが、この2つの台座だ。各チームは1枚ずつ、この台座を使用する。この台座はこうやって―――」


 そう言うと、ブリュードは、大きなサイコロを手でつかみ、台座の中央に置いた。台座の中央に開いていたがクレーターの部分に、すっぽりとサイコロが収まった。穴はサイコロを置くために掘られたもののようだ。


「―――大サイズのサイコロをはめる。そして、台座に向けて”魔法の力”を注入するんだ。すると、―――」


 そう言うと、ブリュードは台座に向けて手をかざした。そして、力を込めるような仕草をした瞬間、台座から風が起き、サイコロが宙へと舞っていった。


 シュゴッ


 そんな音を立てつつも。

 空を飛ぶサイコロは、立方体には見えないような激しい回転の仕方をして、上へと向かい、立っている俺の目線よりも少し上あたりまで上がったところから落下をしていく。

 サイコロは、台座の置かれたテーブルの上で転がり、「6」の目で止まった。


「このように、台座から風が起きて、サイコロを振ることができるってわけさ。ただし、”魔法の力”の込められた量により、風圧が変化する」


 そう言うと、ブリュードは先ほど使った大サイズのサイコロをもう一度手に取り、台座の穴の中に置いた。そして、先ほど同様の手順で魔法を込めた。

 台座から風が起き、サイコロが飛んでいったところまでは同じだったのだが、サイコロが俺の胸ほどの高さまでしか上がらなかった。生じた風の勢いが明らかに弱まっている。

 サイコロは、台座の置かれたテーブルの上で転がり、「1」の目で止まった。


「こんな具合さ。台座からは「弱」と「強」の二段階の風が生じるようになっている。それぞれの風の強さは、今、見せた通りだよ。”魔法の力”の込められた量が、数字で例えるならば、「10〜49」ならば「弱」の風が生じ、「50〜」ならば、「強」の風が生じるって具合さ。風は二段階でしか生じない。だから、魔法の強さが100だろうが、1000だろうが、10000だろうが関係がないってわけだ。全部、「強」の風になってしまうだけだ。あまりに”魔法の力”が弱すぎると台座が反応しないようになっているから、ある程度の魔法は込めてくれ。初めて使う奴でも、「弱」と「強」の使い分けは簡単にできるはずだ」


 ブリュードがそう言ったのを聞いて、ランランが台座と大サイズのサイコロを手にとって、風を生じさせた。

 最初は、目線よりも上にサイコロが飛んでいった。「強」の風だ。

 サイコロがテーブルに落ちる前に、サイコロをキャッチしたランランは、続いてもう一度、風を生じさせる。

 今度は、胸の高さまで。「弱」の風である。


 ランランも苦なく、「弱」と「強」の風を生じさせることができた。

 確かにブリュードの言うとおりに、台座を初めて使う人でも、二段階の力を使い分けることは難しくないようだ。


 しかし、二段階の風を使ったところで、サイコロを振ることには変わりがない。それぞれの目が出る確率は1/6なだけである。

 何か、仕掛けがあるから強弱の風が使われているのだろう。


 ブリュードのルール説明は、サイコロの目の出し方に関するものへと移る。


「この大きなサイズのサイコロは、少し変わった仕組みになっていてな…、地面にぶつかった衝撃の強さによって、サイコロの出る目の確率に変化が生じるんだろ。普通にサイコロを振ったならば、1〜6までの目が出る確率は1/6、つまりは全ての目が約16%で一致する。ところがこのサイコロはそうなっていない。例えば、「強」の風を生じさせ勢いよくテーブルにぶつけると、大きな数字の目が出やすくなっているんだ。確率は通常のサイコロの場合は、


「1」の目 : 16.6 [%]

「2」の目 : 16.6 [%]

「3」の目 : 16.6 [%]

「4」の目 : 16.6 [%]

「5」の目 : 16.6 [%]

「6」の目 : 16.6 [%]


となっているところが、「強」の風を使った場合は、


「1」の目 : 1.6 [%]

「2」の目 : 3.2 [%]

「3」の目 : 6.4 [%]

「4」の目 : 12.8 [%]

「5」の目 : 25.6 [%]

「6」の目 : 50.4 [%]


となっているんだ。

 基本的に、「1」の目が出る確率を1.6%として、数字が1上がるごとに、確率が倍になっていくんだ。「強」の風を使うと、「6」の目が出る可能性が半分ほどある。

 そして、「弱」の目を使うとこの確率が反転する。


「1」の目 : 50.4 [%]

「2」の目 : 25.6 [%]

「3」の目 : 12.8 [%]

「4」の目 : 6.4 [%]

「5」の目 : 3.2 [%]

「6」の目 : 1.6 [%]


になる。

 「1」の目が出る可能性が半分ほどになるんだ。

 要するに、ある程度は、サイコロの目で何の目が出るのかを操作できるってことだよ」


 なるほど。

 ただの運ゲーではないってことか。


 それぞれのチームは、4ターンの中で2人のプレイヤーが、1回ずつサイコロを振ることができる。その際に、「強」の風を生じさせるのか、それとも「弱」の風を生じさせるのかはプレイヤーのさじ加減となる。

 自分たちのチームがサイコロを振るとき、例えば、「強」の風を生じさせると決めたならば、普通に考えれば、「6」の目を予測する。当たる確率が最も高いのだから。

 「弱」ならばその逆。


 敵チームがサイコロを振るときは、どちらの強さの風が生じるのかがわからない。

 その際は、相手がどちらの風を生じさせるのかの思考を読んで、予測の目を決める必要があるのだ。


 ブリュードは、最後のルール説明を始めた。


「最後に、ポイントの話だ。予測した数字の目と、実際に出た数字の目がどれだけ近かったかによってポイントが手に入る。ぴったり当てることができたのならば、10pt、数字が1ずれてしまったら5pt、2ずれたら4pt、3ずれたら3pt、4ずれたら2pt、5ずれたら1ptとなる。

 例えば、振ったサイコロの目が「6」だとするならば、ポイントは、


「1」を予想 : 1pt

「2」を予想 : 2pt

「3」を予想 : 3pt

「4」を予想 : 4pt

「5」を予想 : 5pt

「6」を予想 : 10pt


となる。

 振ったサイコロの目が「3」ならば、


「1」を予想 : 4pt

「2」を予想 : 5pt

「3」を予想 : 10pt

「4」を予想 : 5pt

「5」を予想 : 4pt

「6」を予想 : 3pt


といった具合さ。

 4ターンが終了した時点で合計点が多かったチームの勝利となる。勝ったチームが100万Dドリーム獲得だ」


 当然だが、予測した目と出た目の数字が近ければ近いほど、手に入るポイントは大きくなる。

 そして、ピタリ賞のポイントはかなり大きかった。

 ピタリ賞を狙うゲーム、と言ってもいい。


「道具は調べてもいいな」

「もちろん。ご自由に。俺が説明した以上の仕掛けは何もないぜ」


 ブリュードは自信たっぷりに、そう言ってきた。

 俺はランランが使っていた台座の上に、大サイズのサイコロを置く。


 フンッ!


 踏ん張ってみたのだが、何も起きない。


「フンッ!!」


 今度は口に出してみた。……やはり、何も起きなかった。


「キン。あんたやっぱり…」


 不安そうな表情でそう言ってきたのは、ジェスターであった。ジェスターも俺と同じ”問題”に気づいたようである。

 さすがは、長い付き合いになりつつあるパートナーだ。 



 ゲームのルールはわかった。

 これは問題ない。


 だが、このゲーム…、魔法を一切使えない俺がプレーできなくないか?


 …………。


 ピエロ&ドラゴンのメンバー中では、戦闘力はかなり低いのだが、頭脳戦の方では多少は役に立つとの自負があった。

 その俺が、本来活躍できるはずのゲームで何もできない。


 こちらは、大問題であった。

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