3-14 戦いの元凶

「ギャンブルには、”ピエロ&ドラゴン”の宝くじ「Dドリームミリオンズ」を使う。


勝負は販売が開始される明日から、終了日までの2週間。その間に私とランランで競い合う。賭けるものは”ピエロ&ドラゴン”で働く権利。負けた方は、結果が出た即日で店を去ることになる。


さて、肝心の勝負の内容なんだけど、勝負は販売期間中に「Dドリームミリオンズ」をどちらが多く販売できるのかを競い合うことにする。


宝くじの番号は、10,000番から29,999番まで、20,000枚ある。


これを私とランランで半分ずつに分け合う。ランランは10,000番台で、私は20,000番台にしよう。


それぞれが販売前の宝くじを10,000枚ずつ持ち合って、たくさん売れた方が勝利になる。


ランランは私の方が店でいらない存在だっていったよね?


だったら、どっちが店に貢献できるのかをはっきりと証明しようよ。


たくさんの宝くじを売って、店にお金をもってきた方が、明らかに”ピエロ&ドラゴン”にとって有益な人材じゃん。私とランラン、どっちがいらない子なのか数字でわかるよ」


 リンリンは、これから行おうとしているゲームのルールを無感情に、淡々と説明をしていく。


 ランランが質問をした。


「ジェスター、ロンロン、それにキンはどうするの?まさか、店の命運がかかっている「Dドリームミリオンズ」の販売に、関わるのを禁止だなんて言わないよね」


「そうだね。......じゃあ、チーム分けをしようよ。”ランランチーム”と”リンリンチーム”に別れて宝くじを売るんだ。


それで最終日に確認をして、10,000番台と20,000番台の「Dドリームミリオンズ」が多く売れてたチームが勝利となる」


 ゲームは、チーム戦となることに決定したようだ。


 そうなると問題なのは誰がどのチームに所属するかだ。


 しかし、その話し合いも意外とあっさりと終わったしまうことになる。


「私はキンとチーム組む」


 リンリンがそう言った。


「―――だからランランは、ジェスター、ロンロンと組みなよ。昨日だってその”チーム”で動いてたんだからその方が自然だね。それとも、ランランはキンと組みたい?」


 リンリンは何故か、挑発するような口調でしゃべる。


「別に、キンなんていらないよ」


 キンなんて、いらない。


 ......ランランにそう言われてしまうと少し寂しい。


 いつの間にか、ランランに敵認定されてしまったいたのかもしれない。ここ数日の行動から、無理ないのかもしれないけど。


「それよりも、私、ジェスター、ロンロンの3人チームと、リンリン、キンの2人チームの対戦になっちゃうけどいいの?」


「それでいいよ。全くもって問題ないね」


「人数差を、負けた後の言い訳にしないでくれるよね?」


「もちろんだとも!ランランがいいなら、チームはそれでいいよ。キンもそれでいいよね!?」


「おっ、おう」


 勢いに負けて、思わず了承してしまう。


「じゃあ、それで決定だね!私のことを邪魔者扱いしたことを後悔させてあげるから!」


 リンリンはそう言うと、店から去る準備をしていく。適当なダンボールを持ってきて、自分たちのチームが販売する20,000番台の「Dドリームミリオンズ」の宝くじや宣伝グッズを仕分けし始めた。


 それらを一気に部屋に持って帰るつもりだろう。”ピエロ&ドラゴン”を販売拠点にする気はなさそうであった。顔を合わせるのも嫌なのかもしれない。


 どうやらギャンブルをすることは確定してしまったらしい。2人とも、自分たちで決めたことを撤回する気はなさそうであった。


 意地っ張り。


 ロンロンが双子のことを、そう言っていたことを思い出した。


 ロンロンはというと、何とかギャンブルの開催をやめさせようと妹たちを説得している。2人ともロンロンのことを無視。リンリンは手を止めようとはしていない。


「キンも手伝って!」


 ”チームメイト”の俺は、リンリンに怒られてしまったようだ。


「ねえ、リンリン―――」


 ここで声を上げたのは、ことの成り行き見守っていたジェスターであった。店主として、ギャンブル開催の中止を宣言するのかも、と思う。


 「Dドリームミリオンズ」は”ピエロ&ドラゴン”の販売商品、つまりは店主のジェスターに宝くじの販売方法に関する最終決定権がある。ジェスターが”NO”を突きつければ、このギャンブルは開催されない。


 しかし、ジェスターが続いて言ったのは、全くもって関係がない”お願い”であった。



「―――ちょっとキンを借りるわね。内緒の話があるの」



********



「大変なことになっちゃったわね」


 ジェスターは人ごとにように、そう言った。


 俺とジェスターが話をしているのは、ピエロ&ドラゴンの2階、寝室である。内緒の話であり、他の3人には聞かれないようにと場所を移していた。


 下では、きっとロンロンがギャンブル中止の説得を続けているだろう。必死なロンロンには申し訳ないが、成功確率は高くない。


「店を休んじゃって悪かったな。大丈夫だったか?」


「ギリギリだったわ」


「それならよかった」


 安心だ。


「ギリギリアウトだった」


「それじゃ駄目じゃん!」


 思わず、大声を出してしまう。


「5人で回すようにと移行していた店の体制が、突然3人になって何とかなるわけないじゃない。常連客のみんなに甘えまくりの店に戻っちゃったわよ」


「......それで、大丈夫なのかよ。このままいくと、俺とリンリンは後2週間は店を休むことになりそうだぞ」


「そうね、”チームレジスタンス”の2人はお休みね。でもまあ、店は”本店チーム”の3人で何とかするわよ。2人は”別の仕事”をして、店の売上に貢献していると思ってあきらめるわ」


 ”チームレジスタンス”、そして”本店チーム”。


 ジェスターによって、いつの間にか変な命名をされていた。


 別の仕事。


 「Dドリームミリオンズ」を販売する仕事と言うことだろう。確かに、店の商売には貢献をしている。


「......でも、ジェスターはいいのかよ?友達の2人のどっちかがいなくなるようなギャンブルをやることを認めてさ。


どんな結果がでようとも、後味が悪いなんてもんじゃ済まされないほど最悪だぜ」


「そうね。本来だったら止めるべきかもしれないわね。店主としも、友達としても。


でも、ここで2人を説得したとしてもリンリンが言う通りで、結局のところ”シコリ”が残っちゃうわ。


再び、いつ爆発するのかわからない爆弾を抱え続けることになるわ。


だったら、ここで一度大きく揉めちゃった方がいい気がするわよ。


それに、「Dドリームミリオンズ」を販売するって面で考えても、チームに別れて本気で売って、切磋琢磨することはいいことだと思うわ。売上も伸びるだろうしね。


でも―――」


「でも?」


「―――店主としても、友達としても、ギャンブルをすることは認められても、2人のどっちかがいなくなることは絶対に認められないわ。だからキン―――」


 これが、ジェスターがわざわざ俺と2人っきりになって伝えたかったことなのだった。


 内緒の話の本題だ。



「―――責任とって何とかしてね」



********



「責任って言われたって、そりゃ俺だって2人が残る形に落ち着くのがベストだとは思うけど、俺が悪いわけじゃないだろ。これは双子の問題だ」


「そうかしら?私は全ての元凶は”キン”にあると思うけど」


 ジェスターは俺を責めるようなことを言う。


「俺に元凶が?」


 心当たりは全くない。


「そもそも、ランランとリンリンは仲良し姉妹なのよ。長年友達やってるけど、喧嘩してるところなんて、ほとんど見たことがない。


だけど、”ピエロ&ドラゴン”で働くようになってから、小さな衝突を繰り返しているのを何度も見るようになったわ。


何でこんなことになってるんだろう、って思って、私は2人を密かに観察してたの。原因を取り除けるなら、取り除こうと思ってね」


 俺はランラン、リンリンと深く関わるようになったのは、”クレイジーラン”以後で、2人が店で働くようになってからのことであった。


 確かに、2人はちょこちょこと言い争いをしているのをみた。


 俺は、双子の姉妹なんてこんなもんか、と思っていたんだが、これは2人の日常的な姿じゃなかったってことか?


「そして、私は2人が揉めている原因を、今回の騒動で確信した」


 原因。


 それは一体何なのか。


「それはね―――」


 ジェスターは、この後で身の毛がよだつ、恐ろしいことを言ったのであった。

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