エピローグ

2-28 新しい仲間たち

 3日ぶりに目を覚ました。


 ダスターにボコボコにされた後で、ショートカットコースをフラフラになりながらも、何とか一周してゴールしたのだが、俺はその場で倒れて、もう一度意識を失ってしまった。



 今、どこにいるのか自分の居場所を確認すると、そこは”病院”の病室であった。


 部屋には3つのベッドが並んでいる。


 俺のベッド以外の2つベッドの主は、ランランとロンロンである。


 俺が目を覚ましたときには、2人も既に起きていた。


 

 3人とも手に、足に、頭に、腹にと、包帯に巻かれまくっていて、随分と不恰好な姿をしている。


 部屋の中には、ジェスターとリンリンもいた。


 目を覚ました俺に待ち受けていたのは、美女の抱擁ではなく、ジェスターからの”お怒りの言葉”である。



「死ぬほど、かっこ悪かった」



 俺が目を覚ましたことに気づいた、ジェスターの一言目がそれである。



「いい、ひとつだけ言っておきたいのは、私は人様のために、自分の命を削るような人間のことが、死ぬほど嫌いよ。


自分の命よりも大切なものがあるなんてのは嘘っぱちね。


命より、大切なものなって何一つない。


ランラン、ロンロン笑ってないで、ちゃんと聞いてるの?あなたたちにも言ってるのよ」



 レースを走った3人で顔を見合わせて苦笑いをする。


 死ぬほど嫌いか、まぁそう言うことにしておこう。





 俺が気を失った後で、”クレイジーラン”では何が起きたのかのあらましを聞いた。


 俺が1位でゴールした後で、そんなはずはないとドラコーンとウーロボロスは審判団に猛抗議した。


 しかし、チェックポイントをしっかりと通過していた証言に加えて、俺が不正をした決定的な証拠は見つからずに、”ピエロ&ドラゴン”チームの勝利が決定した。


 ジェスターが一歩も譲らずに、交渉をしたという。


 勝利に報酬として手にした6,000万Dドリームの借用書は、その場で破り捨てたそうだ。



 勝利の報酬はもうひとつある。


 レースの勝敗を予測するギャンブルの「勝者投票券」を売ったことによる利益である。


 売上は2,580万Dドリーム、控除率は25%、利益は620万Dドリームだそうだ。


 その大金はどうなったのかと聞いたところ、なんと既に使い切ってしまったらしい。


 俺たちの治療費だ。


 死にかけていた俺、ロンロン、ランランはこの国、最高の設備を誇る「病院」に大急ぎで担ぎ込まれた。


 そして、病院を経営する院長で、リリィ王国、最高の腕前を持つ、”S級冒険者”である治癒系の魔法使い・ホスピの治療を受けて一命をとりとめた。



 この病院の方針は、”貧しき者を救い、富める者からは搾り取る”だそうだ。



 院長と話をしたときに、僕たちは富める者ではないです、と言ってみた。


 院長の返事は、


「600万Dドリームもの稼ぎたての金を持っている人たちは、私基準で、十分すぎるほどに富める者だ。全てをあきらめて、有り金全部おいていけ」


であった。


 賞金の端数まで、1Dドリーム単位でぴったりと没収されてしまう。




 病院からは、ランラン、ロンロンの順番で退院をしていく。


 店があるからと、ジェスターもお見舞いに来てくれなくなってしまった。



 病室で1人になって、暇な時間を使い、俺は”クレイジーラン”の反省会をする。


 楽して軽く走りゴールするつもりだった。


 しかし、結果的には、死にものぐるいで、本当に死にそうになりながら走ることになってしまった。


 色々と俺の見積もりが甘かったことは否めない。


 ダスターに大怪我を負わされたこともそうだ。


 1位の俺がゴールした後で、そこまで間を置かずに2位のフェイクはゴールをしたらしい。


 ランランとロンロンが死ぬ気で時間を稼いでくれていなかったら敗北をしていただろう。


 俺があのまま、意識を取り戻さなくても負けていた。



 俺は”必勝の策”を気取っていたが、ギリギリの綱渡りの結果、チーム全員の力でなんとかつかみとった勝利であった。


 自分の自惚れに対して、反省をする。




 もう一つ、”クレイジーラン”のレース中についた「嘘」を思い出す。


 ダスターについた「嘘」である。


 最後に俺が前に進み出したときに、ダスターに問いかけられた。



 お前は何のために走っているんだ、と。



 俺は答えた。



 走りたいから走るんだよ、と。



 これは嘘だ。


 俺は意味なく、目的なく、走りたいだなんて思ったことは人生で一度もない。


 「走りたいから、走った」のではない。


 「勝ちたいから、走った」のだ。



 ”クレイジーラン”での勝機がないのに、走るだなんてのは俺だってごめんだ。



 『俺が走ることで”世界は変わる”』というのは本心だったけど。



 あの場でも、ボムとワショウがダスターを止めてくれなかったら、敗北をしてしまっていた危険性が高かった。


 「嘘」のおかげで、なんとかレースを続行することができた。





 最後に残された俺は、怪我がある程度癒えたことで、ついに退院をすることができた。


 結局、病院には1週間もの間、入院をしていた。


 全快とまではいかないが、日常生活を送るのには問題ないほどまでには回復をする。


 そして、久々に我らのカジノ・”ピエロ&ドラゴン”の扉を開く。



「ランラン! リンリン! ん〜〜〜〜ロンロン!!」


「............何してんの?」



 そこには、”ピエロ&ドラゴン”の制服を着た3人がいた。



「兄1人、妹2人、

3人揃ってカジノで働くことになりやした


料理人からウエイトレス、ディーラーまで何でもやらしていただきやす


これから末長くよろしくお願い申しいたします


我らラリルレ三・兄・妹!!!!」



 借金の返済が終わったことにより、どうやらジェスターは新たな従業員を雇うことにしたようだ。


 愉快な仲間が増えて、賑やかな店になったようだ。



 新たなスタートを切ったカジノには、どんな困難が待ち受けているのかはわからない。


 それでも、俺は”ピエロ&ドラゴン”のみんなと共に、全力で、イかれたように”走っていこう”と誓ったのだった。





【第2章完結】

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