2-7 不死身の案山子【3】
”黒ハットチーム”のスノウは、ロケットと同じくらいの身長の背が高い女性である。
肌が真っ白な無表情な女性であり、感情があまり表に出なさそうなタイプである。
出会ってから、短い時間の付き合いしかなく、会話も一度も交わしてはいないのだが、喜怒哀楽が顔に出たのをまだ一度も見ていない。
スススッとの擬音語が似合いそうな歩き方で前に出てきて、あらゆる仕草から音が聞こえない静かな人であった。
黒ハットとスーツを見惚れるほどに、美しく着こなしている。
中堅戦も”黒ハットチーム”の先攻で、スノウから”不死身の
スノウは、”不死身の
ロケット同様に、遠距離から攻撃をするらしい。
そして、今にも消えそうな透き通った声で、魔法を唱える。
「『氷雪系no.512 「
スノウから発せられた静かな声からは想像もつかないような、ど迫力の巨大な氷の塊が
周囲の光を乱反射させ、氷の表面が煌めいている。
そして、氷を操っているであろうスノウの手の動きに連動をして、
氷が
氷の塊は、
とんでもない迫力がある魔法であった。
何も感じさせないスノウの表情からは、この魔法の出来不出来を推測することはできなかったが、そんなことはお構いなしに、”不死身の
「攻撃力判定、威力3454」
スノウの魔法は、ロケットはもちろん、ランランの魔法以上のダメージを叩き出した。
これで、ロケットの結果「2472」に加えて「3454」と、”黒ハットチーム”の合計スコアは「5926」になった。
俺はスノウの出すスコアが出来るだけ低いことを願っていた。
敵失を祈る、スポーツマンシップには反する心持ちである。
俺の願いは虚しく裏切られ、俺の想定を上回るスコアを出したスノウによって、俺たちのチームはますます厳しい戦いを強いられることになってしまう。
計算は机上の空論で終わってしまう。
敵チームのロケットからは、少しホッとしたような雰囲気を感じる。
”不死身の
「それでは続いて、後攻のキンさん。お願いします」
スノウのターンが終わり、審判のラッフィによって俺に攻撃を促される。
いよいよ、この時が来てしまった。
俺のターンだ。
さてと、いっちょやってやりますか。
自分自身の頰を張り、少しだけ気合いを注入してみる。
俺はランラン同様にして、近距離で攻撃を加えようと、”不死身の
目の前に来た
俺と同じくらいの背丈があり、遠目で見ていた時に感じた以上に立派で頑強、大きな
俺が果たして何者なのか、どんな魔法を使うのか、審判役のラッフィも含めて全員の疑念の視線を背中からヒシヒシと感じる。
俺は”不死身の
誰かが緊張で唾を飲む音が聞こえたような気がした。
そして、”不死身の
ホゴッ
鈍い音が訓練所の中で響く。
”不死身の
シーン
訓練場から何の音も聞こえなくなってしまった。
時間がゆっくりと流れているどころか、止まってしまったような空気を感じる。
ホゴッ
せっかくなのでもう一度だけ殴ってみた。
この攻撃が”不死身の
「攻撃力判定、威力0」
”不死身の
...............
「エエエエエエェェェェエエエエ!!!!!!」
ランランとロンロンの驚きの叫び声が聞こえる。
.........ごめんなさい。
ジェスターからの推薦により、俺は期待されまくっていて、二人の頭の中で評価がうなぎのぼりであったのであろう。
その期待を綺麗に裏切ってしまったことに対して、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
俺は魔法が使えないんです。そりゃ、そうなりますよ。
俺のスコアを見たボムは嬉しそうに、お腹を抱えて大笑いをしている。
「ギャハハハハハ!!ゼロだよ、ゼロ。こんなスコア見たことねぇ!!とんでもねぇ助っ人がいたもんだ。受付嬢以下だぜ!ありえねぇ!!きっと、俺たちのことを笑い殺す作戦だぜ!」
悔しいが、言い返す言葉はないです。
何の反論もする余地もありません。
敵チームのロケットも一緒になって笑っている。スノウは相変わらずの無表情だ。
受付嬢のラッフィは、こんな時どんな顔をすればいいか分らないの、といった感じで顔をそっぽに背けてしまっていた。
確かにゼロとは恐ろしいスコアだ。魔法を何も使っていなかったからか?
俺はランランとロンロンの方へと、表情を一切見ずに、目を合わせずにトボトボと戻っていく。
二人は口を大きく開いたまま、完全にフリーズしてしまっていた。
「............ごめんなさい」
「キン殿って、もしかして魔法が......」
「はい。使えません」
俺はシュンと肩をすくめて返事をする。
「どっ、どんまい!
まさか、本当に魔法が使えなかったなんて思わなかったよ。
ただ謙遜してるだけか、ジョークでも言ってるのかと思ってた。
わ、私もちゃんと確認せずに連れてきちゃったのが悪かったよ!」
「そうだぞ!キン殿が責任を感じる必要は何もない」
ランランとロンロンは本当は全部俺が悪いのに、俺のことを攻めずにいてくれた。
この兄妹はすごくいい奴であった。二人の優しさが心に刺さって痛い。
中堅戦が終わってスコアは、
ランランチーム : 3059
黒ハットチーム : 5926
となっていた。
中堅戦が終わった状態で、二倍近くの差が付いてしまっている。
逆転不可能と言ってもいいほどの絶望的な差だ。
ロンロンたちはまだ、俺のことを慰め続けてくれる。
「わ、我が、そうだな、10,000くらいのスコアを出せばいいじゃないか」
「そうだよ!いっ、10,000!ロンロンならいけるよ!!」
ランランとロンロンの顔をチラッと確認してみたのだが、目が泳ぎまくっていてとても、そんなスコアを出せそうには感じられなかった。
二人も俺のスコアによって敗北は決定的である、と理解しているんだろう。
「よし、行こう。キン殿、大将戦での我が勇士を見ていてくれ。勝利の暁には、リンリンも呼んで祝勝会をしようではないか。そうだ、ジェスター殿の店て盛大に楽しもう!」
「その、大将戦のことなんだがな......、二人とも、ちょっと耳を貸してくれ」
俺はランランとロンロンと顔を寄せ合って、ゴニョゴニョと内緒話をする。
ランランとロンロンに対して、今からやってもらいたいことを一つずつ伝えていった。
そんな俺たちの様子を見て、ボムが話しかけてくる。
「ヒヒヒヒ。いやぁ、笑わせてもらったぜ。
こんだけ笑っただけでも、ゲームに参加した甲斐があったってもんだ。
おいおい、今更何の相談だよ。降参でもするのかい?
そりゃあ、こんだけ差がついちまったらもう無理だよな。今回は、運が悪かったと思って、”クリムゾン・バイコーンの角”はあきらめな」
「いや、もちろん最後まで勝負をするさ。お前のそのセリフを後でたっぷりと後悔させてやる」
ロンロンはボムからの言葉に対して、勇ましく返事をした。
「そうかい、そうかい。まぁ、笑いすぎて手が滑んない様に気をつけるさ」
ボムはもう勝負は決まったと言いたそうに、ニヤニヤと笑い続けていた。
「それでは最終対決である大将戦を始めたいと思います。
第三回戦、チームの大将、ロンロン、ボム前へ」
「おう」
ロンロンは気合いたっぷりといった様子で、ドシドシと地面を踏み鳴らして前にでる。
大将戦で大逆転が起きるのか、起きないのか、俺がこれからできることはこの先のゲームの行方をただ見守ることだけであった。
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