Holy place(聖地)

 稲穂の海を越える私鉄とバスを乗り継いで

 人の少ない聖地をひとり訪ねた

 谷川の水で手を清める時

 生命の去来きょらいする時間を身近に感じた


 秋の光は木立こだちから柔らかに土に落ち

 火と水と空気が神話を語りかける

 閉ざされた極小ごくしょうの世界をひたすら走り

 人はやがてこの透明な位相いそうへと到った


 「世界が世界である前に

  あるいは

  人が人である前に」


 人はあらゆる意味を解読する

 あらゆる悲惨を黙読する

 あらゆる事実を誤読する

 あらゆる歓喜を濫読らんどくする


 文字を持たない赤子あかごのように

 境界から来る眠りのように

 痛みのなかの美しさのように

 円環えんかんのなかのさだめのように


 たどり着けない場所を思うこともなく

 人はただなみだを樹の根元に垂らす

 ありがたくて ただありがたくて

 火と水と空気と土が神話を語りつづける

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