第9話理由
「えっとぉ...それはぁ...」
もじもじしている
「わ、わたしの旅は、その、長くて...」
もじもじしている
「手伝って...ほしくて...」
泣きそうだ、やばい泣かせたら俺が泣かされる
「そ、そこじゃなくてな!!」
「え?」
「何で俺なんだ?ニーアの姿を気にしない人間が珍しいのは大体わかった。でも、さっきの女の子みたいに気にしない人間もいるように見えた」
「う、うん」
「そんなもいる中で、俺のような見知らぬ人間にほいほい頼むようなものなのか?」
「ち、ちがくてぇ...」
目が潤んでいる。
しかし追求をやめるわけにはいかない、理由はどうあれ本人に聞いておかなければならないからだ
適当な理由であるなら、いつまたこの異世界で居場所を失うかわからない。
切り捨てられる可能性がゼロであるわけではないし、捨てられてしまったら自分には何もない。
「あ、あなたが...助けに来てくれたって聞いて...」
途切れ途切れに言葉をつむいでいる
「そんな人...いままで...いなくて、初めてで...」
うぅ...と言うと泣き出してしまった
彼女なりに言いにくく勇気を出した結果だろう。
「ごめん!言いにくいこと言わせて!」
(俺を選んだのではなく、俺しか選べなかったのか...)
小さな少女の抱える闇は想像以上に大きく重いものだと痛感した。
「おい。」
悪寒が背筋を伝う。
予想はできた未来が現実になったようだ。
「貴様は余程、死にたいらしい。」
「誤解だ!」といっても手遅れなのがわかるほど怒っている。
我を忘れた人間に言葉など無意味だ。
目を瞑りいずれくる痛みに備え食いしばる
ゴスッ
遠のく中、弁解するニーアの声が聞こえる。
(殴られるのは悪くない、相手に自責の念を持たせられるのだから)
想像を超える痛みを何とか正当化させ意識を手放す。
「たのしみですわ。」
声が聞こえたような気がした。
「え?」
目の前にあるのは小さな箱
自分が寝かされている部屋に見覚えはない
と、いうよりは他には何もない
「おきたのね。」
背後に声を感じた
「あら、おきたばかりなのにお元気そうで何よりだわ。」
ふむ
「こんにちは。下等なにんげん様。具合はよろしくて?」
ふむふむ
「あまり見つめられると、照れてしまいますわ///」
夢の中で見たこともないような女性に話かけられている。
女性は美しいというよりかは妖艶な感じがする。
あくまで綺麗という感情だ
決してニーアと比べているわけではない
けっして
「お具合でも悪いのでしょうか?」
「いや、悪くない倦怠感が少しあるだけだ」
「そうでしたか。よかったですわ、もしやイストが上手くいかなかったのではないかと心配で心配で...。ですが杞憂でよかったですわ。」
「あ、うん。」
適当に話をあわせる
決して双丘を眺めているわけではない
けっして
「君はここで何してるの?」
「...なに、と問われますとお待ちしておりました。」
「俺を?」
「はい。」
「なんでだ」
「あなた様のお力になるためですわ。」
「それはありがたいね」
「恐縮にございます。」
「とりあえず、意識を覚ましたいんだが。いいか?」
夢の持ち主が了解を得るとは奇妙な話だ
しかし、夢の中で意識がある事など、そんなに珍しくはない
目が覚めると次第にその意識の真偽もあやふやになり消えていく
少したちの悪い夢だ
「では、そのように。」
体を起こすと窓ガラスが目に入った
頬に拳大のあざがある
どうやら殴られた事は夢にできないらしい。
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