第6-4話 遅れた客

 反省会が終わる頃に、ふらっと一人の兵士が入ってきた。

「すまん、ロゼ。遅れた」

 私たちの視線を受けても、彼は平然としている。

 平服の上に、反乱軍の上着を羽織っている。その上着の階級章は大尉だった。

「また出世したのね」

 唖然としている三人をよそに私は立ち上がると、彼の前に進み出た。

「真面目に働けば、自然と昇進する。そういう仕組みでね」

「階級以外のお土産は?」

「格納庫の輸送船に、豚が入っているよ」

 私は彼の胸を軽く叩く。

「良いわね。まさか干し肉じゃないわよね」

「なんとびっくり、生きている」

 私は思わず目を丸くしていた。

「この宇宙母艦じゃ飼えないじゃない!」

「君が干し肉が嫌だっていうから」

「言ったけど、まさか、生きているとは思わないわよ。良いでしょう。さっさと処理しましょうか」

 彼は腕を伸ばして、私を軽く抱きしめた。

「君のそういう過激なところが好きだよ」

「ありがとう。私もあなたの過激さが好きかもね」

 彼は私を放すと、ウェルと私の部下の方を見た。いや、私たちが囲んでいるテーブルの皿を見たんだと私にはよくわかった。

「何か食べ物が欲しいんだが? あるかい?」

「用意するわ。その前に一つ、いい?」

 彼がこちらを見る。

「お風呂に入って、着替えてから出直してちょうだい」

「了解しました、曹長」

「いって良い、大尉」

 彼は様になる敬礼をしてから、食堂を出て行った。

 私が厨房へ行こうとすると、ウェルがそれを遮った。

「ちょっといい? ロゼ。彼は誰?」

「私の旦那よ」

 信じられない、とウェルの顔には書いてある。

「事実よ。証明する方法は難しいけど」

「あのイケメンが? あなたの主人?」

「いけない?」

「いけなくはないわ。けど、ああ、不公平よ。どこで出会ったの?」

 別に話してもいいし、長くなる。

「そのうち話すわ」

「今、知りたいわ! それか、彼の友人を紹介して!」

 無理やり振り払いつつ、私は彼のための料理を作るべく、厨房に立った。

 何を作ろうかな。


 宇宙母艦グロリダンにおける、司令官のお誕生日会が開催されたニュースは、かなりの早さで反乱軍中に知れ渡った。

 結果、運営本部から私とウェルにちょっとした処罰があり、私たちの名前も反乱軍の全てが知ることとなった。

 そこに変な噂がくっつき、ロゼ・マイスタという料理人は、元は屠殺場で働いていた、とまことしやかに流布された。

 これは全くのデタラメだけど、ほんのわずかな真実がある。

 それは彼が運んできた三頭の豚を私が処理した、という事実だ。

 だって、他にどうしようもない。

 反乱軍兵士といえば威勢はいいけど、ただの軍人だ。

 運悪く、グロリダンに配属されている兵士に豚をさばいた経験者がおらず、私は解説動画を眺めつつ、見よう見まねで豚をさばいた。

 その豚はもうとっくに消費され、兵士の血肉の一部となっている。

 そんなわけで、屠殺屋ロゼ、などと一部で呼ばれる私だけど、グロリダンの中では誰も信じていないので、今まで通りに、「おばちゃん」と呼ぶ兵士が多い。

 彼はグロリダンには三日ほど滞在し、またどこかへ行ってしまった。

 行き先は聞いたけど、やっぱり私が知らない、どこにあるかもわからない惑星だった。

 いつ帰ってくるかはわからない。

 でも私は、待つことには慣れている。

 覚悟の上で、彼と共に歩むと決めたし、反乱軍に参加したのだ。

 何よりも、私には仕事がある。

 兵士たちを満足させ、気力を充実させる料理を作るのは、やりがいのあるいい仕事だ。

 予算に縛られたりすることもあるけど、そんなことはどうでもいい。

 やれることを精一杯やる。

 それができる場所にいるのは、幸福なことだ。

 だから私は毎日、厨房に立って、戦っている。

 料理という名の、戦いと向き合っているのだ。




(第6話 了)

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