第26話

「ポータル核は4000ポイントになりますね。マズルカ伝習会は二人パーティですので、それぞれに2000ポイントとなります」

「お、てことは、国民昇格可能?」

「1000ポイントで昇格試験の受験資格が発生します。そちらに合格すれば国民資格を得られますね」

「それは申し込めばいいの?」

「申し込んでいただいて、ある程度の人数が集まってからまとめて行うことになっていますね。試験官が実力の程を拝見いたします」

「試験ってダンジョンで戦えばいいのかな?」

「そうですね。ダンジョン攻略に貢献出来ることを示せれば合格ですので、これまでダンジョンで戦ってポイントを貯めてこられた方にとってはさほど難しい試験ではないですよ」

「ほうほう」

「ですので、これはダンジョン攻略を真面目にやってこなかった者をふるい落とすためのものですね」

「そういや、セシリアは酒場のバイトで貯めてたとか言ってたなぁ。そーゆーのはどうなんだろ」

「合格はパーティ単位ですので、戦えずともパーティに貢献出来ていると判断されれば問題ありませんよ」


 それほど厳密なものでもないらしい。試験官のさじ加減一つというところだろう。


 ――そーいや、アイアンフィストに入る前はどうしてたんだろ?


 セシリアがならず者たちのパーティに加入したのは最近のことだ。昇格試験時には別のパーティだったのだろう。

 何か機会があれば聞いてみるかとニルマは思った。


「そーいや1ポイントが1万ジルなんだよね? 1000ポイントは昇格に使われるとして残りは換金してもらえるの?」

「はい。ですが換金は国民になってから可能ですので、まずは昇格試験に合格してください」

「じゃあ受験申し込みしたいんだけど」

「はい。申し込みについては事務手続きの受付カウンターをおたずねください」


 ニルマは席を立った。


「ダンジョン発見報告もお忘れなく」


 納品受付の建物を出て、事務手続きの建物へと向かう。

 そちらで受付をしているのも、ユニティ聖王国から派遣されてきてイグルド教の神官だった。

 他に手続きをしている者はおらず、すぐに手続きをすることができた。

 試験日時については、決まり次第連絡がくるとのことだった。

 なので、連絡がくるまで遠出はできないだろう。


「これ。魔力波形を変えるなんて簡単だと思ってたけど、下手に変えて戻せなかったらやばいね」


 変えるだけなら簡単だ。だが思い通りに変えられるのかはわからなかった。


「余計なこと考えない方がいいですよ」


 個人認証は魔力波形で行われていて、各種手続きはそれを元に行われている。

 それを変更して元に戻せなければこれまでの功績が全て無駄になってしまうのだ。


「じゃ、次は報告か。しかしこの煩雑な手続きは……」

「往事の冒険者センターは結構賑わってましたからね。役割に応じて細分化してたんでしょう」

「まあ役所的なのはこーゆーもんなのかな」


 次に、ダンジョン発見手続きの建物へと向かった。

 こちらにも人はおらず、すぐに受付に通された。


「ダンジョンはどのあたりで発見されたのでしょうか?」


 受付の神官は、地図を広げて聞いてきた。


「南のほうにくだって、港町がこの辺でしょ? そっから海に入ってさらに南下して……このあたりの海の底」


 ニルマは地図の一点を指さした。もちろん大雑把な位置だ。


「あの……突飛なところで発見したと嘘をついても、確認が済むまで発見ポイントはもらえないですよ?」

「そこのダンジョンのポータル核を納品したら、報告しといてくれって言われたの。別に信じてくれなくてもいいけどさ」

「あ……核の納品は確かにされてますし、嘘というわけではなさそうですね……えーと、座標は……少々お待ちください」


 受付の女性は、手元の機械を操作して何やら確認していた。


「すみません。こちら報告済みですね」

「そうなの? だったら別にいいんだけど……ちなみに誰が報告したのか聞いてもいい?」

「えーと、ヴェルナーさんですね。特級冒険者の」


 報告済みと聞いた瞬間にニルマはヴェルナーの顔を思い浮かべていた。

 他にあのダンジョンのことを知っている者はいないだろうからだ。


「その報告っていつ?」

「昨日ですね。もちろんまだ所在確認はされてませんので正式にダンジョンとして認定されたわけではないのですが」

「確認は簡単にはいかないんじゃないかなぁ」

「でしょうねぇ」


 海底だし、崩壊して原形を留めていない。

 だが、すでにダンジョンではなくなっているし、確認できなかったとしても実害はないのだろう。

 報告済みであればもうここには用がない。

 ニルマは冒険者センターを後にした。


「やっぱあいつ生きてたのか」


 教会への帰り道。ニルマがつぶやいた。 


「ヴェルナーさんですか。特級冒険者ともなると奥の手があるのかもしれませんね」

「死んだと聞いてたアレンも生きてたしね。聞いたところじゃ、どれだけ功績を得ても上級止まりらしいよ。特級ってのはその名の通り、特別な力を持ってるからってことらしいんだけど」

「また襲ってくるってことはないですよね?」

「どうだろうね。一応建前は守る感じだったから、街中で襲ってくるとかはなさそうとは思うけど」


 だが、油断はしていない。

 こうやってのんきに歩いている場合でも、食事中でも、入浴中でも、就寝中でも、ニルマの心の一部は敵襲に対応すべく警戒しているのだ。

 特になにごともなく、ニルマたちは教会にたどり着いた。

 昇格試験の案内が届いたのは、二日後のことだった。

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