夜想

さいきん

またどろどろとしたなにかにおおわれていて

それが足を重くさせている

いや

足がそれを吸い取りまた頭の上から出しているのだ

栓をぎゅっと締めた壊れかけのシャワーのようなスピードで


寝る前にやらなきゃいけないことができず

僕らは永遠に眠らないまま

夜の72時に布団に潜る


言葉は一欠片ずつ崩れていく

意味と力を持たないがらくたになり

からくたになり

からっくになり

万年筆のインクは乾き

机の下のポカリスエットを飲んで僕は咳き込んだ

風邪ではなく喉に絡んだもののために


邪魔な時期

あと少し耐えればしっくりくるようになるということはわかっていて

でも邪魔だから切り落としてしまいたくなる私の髪

伸びすぎて切り方がわからず枝毛だらけになり

それでもいいかと口で言う


開放型のヘッド・フォンから雨だれがきこえる

ざらついたノイズが耳たぶの内側をさすっている

後ろからイヤフォンを差し出す誰かを待っている

それがたとえ王子様ではなくとも


ゆっくりと体位を変える

2人の筋肉が軋んだ

拍動が足の先まで伝わり

シーツはひどくうすっぺらに思えた


シュとかジュとかそういう音が耳に馴染む時期で

ジュテーム、シューベルト

僕は意味もわからずそう言った

一度ではなく三度くらい

ジュテーム、シューマン

ジュテーム、ジョシュア

ジュテーム、シュウショク

いや、本当は今、意味を知った

グーグル先生のおかげで

ジュテーム、ジュージュル


地に落ちた花びらが最も美しい

飼い主を待つ犬が最も美しい

レコードが音を奏でる前の音のない音が最も美しい

縫われたものよりも縫われているものが美しい

鏡の中に映るあなたを見ているあなたが最も美しい


グリッドを眺めて

グリッドの上に浮かぶ球体を眺めて

グリッドの上に浮かぶ球体が映る画面を眺めて

グリッドの上に浮かぶ球体が映る画面を見ている私

グリッドの上に浮かぶ球体が映る画面を見ている私の瞳の中の白飛びした画面を見たい

カメラではなく私の瞳で


皮を剥いだ

にんにくの

たまねぎの

みかんの

ダンボールの表面を覆う透明なテープも皮と呼びたい

瓦屋根も

雑草も

皮の内側を僕らは欲している

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